ジュリアの日常
-私立ハイレンヒ学園女子中等部-
ジュリアが通う中学校である。
ジュリアのような王族が通う学校にしては、決して名門校とは言えない。
偏差値もさほど高くなく、周辺住民からの評判は『緩い校風な女子校』という具合だった。
そんな学園への入学当初、第一王女であるジュリア姫がここに通う?と住民から驚かれたが、2年生になり住人も王族が毎日通うという光景にある程度慣れたようだった。
朝の登校前。
ジュリアはあと1週間でグランドバレーに留学する妹フィオナと一緒に朝食を食べる。
「グランドバレーに漫画を持っていきたいの。お姉様の恋愛漫画『私と八人の彼氏たち』を持っていって良い?」
フィオナの発言に思わず飲んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになった。
「いいけど、あんた、最近私の漫画に影響されすぎよ。この前の『浮気』発言なんて小4が思いつく言葉じゃないわ」
しかし、すでにフィオナは許嫁であるペテルとの小学校生活に向け夢がいっぱいであり、姉の警告には耳を貸さなかった。
朝食が終われば、急いで身支度を整える。
スカートは短めに、ネクタイは緩く、だが
―前髪には命をかける―
侍女が「ジュリア様、そろそろ馬車に乗らないと間に合いません」と声を掛けるが
「ちょっと待って!前髪がいまいち決まらないの!」と周りの大人たちをあたふたさせる。
『前髪を決めた』ジュリアはスクールバッグを片手に急いで馬車に乗り込んだ。
そんなジュリアに侍女が豪華な弁当箱を持って駆け寄ってきた。
「ジュリア様!今日こそはお弁当を持っていってください!」
「友達にそんな弁当箱見られたら恥ずかしくて死んじゃうわ!
もう馬車を出して!」
ジュリアはこうして毎日、ライム城のコックが腕を振るう弁当を拒否し、学校へ向かうのであった。
馬車はトコトコと城をあとにし、20分したところでハイレンヒ学園の校門前に到着した。
玄関で、友人のベリンダが声をかけてきた。
「昨日、地下アイドルのライブ行ったんだけどさ。
推しのノエルくん、相変わらずかっこいいの!
握手券を買って、ノエルくんの手を握りしめてきたわ!」と目を輝かせて自慢する。
「あんた、どこからそんな金でてくんのよ……」とジュリアは突っ込んではみたが、それ以上聞いたら危ない気がしたのでこの話題には踏み込まないことにした。
朝のホームルームが終わり、ハイレンヒ学園伝統の読書の時間となった。
条件は唯一つ。活字の本であること。
漫画はだめなので、ジュリアはライトノベル『私はこうして継母と決闘する』を読んだ。
1時限目の数学は教師から問題の指名を受けないよう、顔を俯いて受けた。
2時限目の古文は体調が悪いふりをして保健室で寝た。
3時限目の体育は創作ダンスをノリノリで楽しんだ。
そうして1時限目から3時限目を無事にやり過ごしたジュリアは、購買でパンを買い、友人のベリンダとソラを連れて生徒立ち入り厳禁であるはずの屋上へ向かう。
この日の空は雲一つない快晴であり、五月の少し寒いけど、心地よい風が彼女たちの制服を通り過ぎていく。
ジュリアたちはあぐらをかきながら、購買のパンを食べ始めた。
ソラは「ジュリちゃんさぁ、この国のお姫様なんだから購買の安いパンなんかやめて、お弁当とかもってこさせれば?」と聞くが、ジュリアはオレンジジュースをストローで飲み干しつつ「お重なんか、みんなの前で広げられると思う?」と返す。
ベリンダは「そだねー!」と笑った。
こんな日がずっと続いたら良いのに……
ジュリアは本気で思っていた。




