夕食会にて
馬車はシード港からほど近いライム城にゆっくりと近づく。
城下町では、ライムの人々がグランドバレーとライムの国旗を両手に持ち歓迎してくれた。
カタリーナとフレイヤは、ライムの人々へ手を振りながら女王らしい笑顔を振り向ける。
ペテルとフィオナもそれに習って手を振った。
しかし将来のライム王国の女王であるジュリアだけは片肘をついて持参した少女漫画を読んでいた。
ペテルは「ジュリ姉、それなんて漫画?」と聞くとジュリアは漫画から目を離さずに「『私は悪虐令嬢のはずなのですが、異世界に転生したらイケメン王子たちにモテすぎて辛すぎます』って名前の漫画。
小4のあんたにはまだ早いわ」と返事をした。
ペテルは変身ヒロインが悪の組織とバトルする「美少女戦士ジュエルズ」という漫画が好きだ。
実は女児向け漫画ではあるが、ペテルは堂々と小学校でもジュエルズ好き(特にサファイア推し)を公言している。
ついついペテルはジュリアに「中2だとその漫画面白いの?ジュエルズとどっちが面白い?」と聞いてみた。
そうしたらジュリアは、『将来の義弟』をちらりと見て、そして一言、
「まだまだお子様だな。比較すんな。
てか、よく考えたらあんたも王子様だったわね。」と返された。
するとフィオナは「私はやっぱりトパーズよ!あんなに可愛い服を着て、憧れよ!」と話に割り込んできた。
ペテルは「スピードで敵を撹乱するサファイアもいいよね!変身シーンもかっこいいんだ!でも、変身する間に攻撃してこない敵もおかしいけどね!」と二人はジュエルズの会話で盛り上がる。
走行している間に馬車は城門を潜り、城に到着した。
今回の訪問では、パーティーなどは催さず、王家同士のみでの夕食会となっていた。
とは言えど、さすがに隣国の王族同士の夕食会。
それなりのドレスコードが求められる。
フレイヤは赤を基調としたドレスを着こなし、ペテルは子ども用の燕尾服を着た。
一方のライム側は、カタリーナはライム人の民族服を、フィオナはやはりオレンジを基調としたノースリーブを可愛らしく着ていた。
一瞬、ペテルはフィオナに魅入ったが、すぐに顔を横に背けた。
本人は、胸がドキドキするよくわからない、感情を持ったからだ。
そしてジュリアは、先ほどまでと同じく『着崩した』制服だった。
フィオナはペテルに小声で囁いてきた。
「お姉様はさっきまでは学校指定のハイソックスだったけど、城に帰るなり踝までの靴下に履き替えたのよ。見て」
確かに、紺色のソックスから、踝までしかない靴下にローファーを履くという出で立ちだった。
ジュリアは「聞こえてるぞー」と2人に声をかけ、「あんなダサい靴下なんか履けねっての」と悪びれる様子もなかった。
ペテルは「ドレスとか、女王様みたいな服は着ないの?」と聞けばジュリアは
「覚えときな。学生の正装は制服一択っしょ。
今しか着られないんだから。
ところであんたは、燕尾服に『着せられて』いて可愛いわね」と逆に冷やかした。
夕食会は和やかにスタートした。
前菜が出てきて、つぎに魚料理が出てくる。
ペテルはテーブルマナーについて勉強中であり、ぎこちなくナイフとフォークを使っていた。
ペテルはフィオナに小声で「内側と外側、ナイフとフォークはどっちから使うんだっけ?」と聞くと、フィオナは笑顔で元気よく「内側よ!」と答えた。
すると即座にジュリアが苦笑いしながら指摘した。
「違う!外側!」
フレイヤとカタリーナは政治の話をしだしたため、ペテルはジュリアとフィオナにクラスメートたちと経験したハットン邸の冒険やオークのドグとの戦いなどを話した。
ジュリアは「はいはい。すごいすごい。」と聞いているのか聞いていないのかよく分からない態度であったが、話が進むにつれて、いきなり
ドン!
と机をたたく音がした。
一同はびっくりしてフィオナの顔を見た。
フィオナはナイフを力のかぎり握りしめ、ペテルへ向けた。
「ちょっと!さっきからちょちょこと話に出てくるエマって子、誰?私たちは許嫁同士なのよ!
何?浮気なの!?」
思わずカタリーナとフレイヤは「は?」と声を漏らした。
フィオナは瞼にうっすら涙すら浮かべている。
ペテルはなぜ怒られたのか理解できなかった。
ジュリアはあわててフィオナにフォローする。
「あんた、私の恋愛漫画に影響されすぎよ。話を聞いてたらただのクラスメートじゃない。ねぇ?」
ペテルも即座にフィオナへ弁明した。「そ、そうだよ。ただのクラスメートで学級委員だよ」
「お母様!私決めたわ!グランドバレーに留学する!」
大人も子どもも、その一言に驚愕した。
そして2週間後、フィオナのグランドバレー王国王立学院小学校への留学が正式に決まった。




