リマッチ 〜19年越しの対決〜
―夢見の杖―
これは魔法の対象者に対し、そのものが持つ『夢』に干渉するマジックステッキである。
魔界で作られたこの杖だが、ドグは子供の夢を杖に『喰わせて』その夢を妖怪に売ることで小銭を稼いでいた。
術者のドグ自身が高度な魔法技術を持っていないため、夢を喰われた子どもでも最大一週間程度で目を覚ます。
しかしその間、食事も取っていない、運動もしていないのだから健康被害は甚大だ。
19年前、グランドバレー王国の姫とその友人の少年に追い出されたあとは、各地を転々と放浪して細々と生きてきた。
よって、ドグは夢見の杖を取り返さねば食い扶持がない。
夢見の杖は存在場所を所有者に知らせる魔術回路が仕込まれており、ドグは真っ直ぐ夢見の杖がある蔵に向かっていた。
その蔵は、30メートルほどある庭園を突き抜けたところにあった。
早く取り返さないと!とそのことばかり考えていたドグは走って庭園を抜け蔵にたどり着こうとした。
しかし、走り始めてすぐ、蔵から10人のグランドバレー兵士が出てきた。
その中央にいたのは、白銀の鎧を着た女性であった。
女性は冷たい目をしてドグに質問をした。
「久しぶりね、ドグ。私のこと、覚えてる?」
突然、兵士に囲まれたことに動揺を隠せないドグ。
「し、知らんわ!」
ドグは身を守るようにユバの盾を取り出した。
「ヒントは、19年前はあなたをこの国から追い出した女子中学生で、現在はこの国の女王よ」
ドグは青ざめた。汗が止まらない。
「フレイヤか!」
「正解。おめでとう。」
フレイヤは笑うでもなく、真顔でパチパチパチと拍手をした。
「で、どうする?あなた、この国のいたいけな子どもたちの夢を奪って健康被害を与えた傷害罪、わが国への不法入国ならびに城への不法侵入の罪があるわ。」
さらにフレイヤは続けた。
「そして、今のあなたは10人の屈強な城の兵士に囲まれているこの状況。大人しく投降なさい」
ドグは顔をうつむき、手を差し出した。
兵士が腕を縄で拘束しようとした瞬間―
「なんてな!夢見の杖を返してもらうけぇの!」と叫び両手をフレイヤに向けて突き出し、エクラを詠唱した。
エクラが発動しようとしたその瞬間。
「スセレ・マジカ!」
フレイヤはドグのエクラの発動より早く、スセレ・マジカを発動させた。
ドグの掌で光り輝いていたエクラの光球がふっと消え失せた。
「なっ!」とドグが驚く暇もなく、続けてフレイヤは「エクラル」の詠唱に入った。
ドグは咄嗟に魔法を跳ね返すマジックアイテム・ユバの盾を胸の辺りに構えた――その瞬間
「エクラル、止めるわ」
との声とともにフレイヤは左足を軸に体をひねり、右足をドグのあごをめがけてしなやかに振り上げた。
ピタリ。
そんな音でもするかのように、フレイヤのまるで教科書のようなハイキックはドグの顎を打ち抜くことなく、『触れた』。
「あ、あ。」
声にもならない声を出してドグはその場に座り込む。
「私の可愛い息子はもう寝てるのよ。
爆裂呪文を使って轟音を引き起こしたら、起きてしまうでしょう?」
19年前はフレイヤとアイスの2人がかりでドグに打ち勝ったが、『リマッチ』はフレイヤ1人での圧勝であった。
ひとりの兵士がドグの両腕を紐で縛り上げた。
「ドグの捕縛は完了ね。あとは精鋭部隊がレセルの谷にいる山賊を壊滅させて終わりね」
フレイヤはドグに振り向くことなく、その場をあとにした。




