少年少女の初陣
ペテル、エマ、ジェラの三人はヴィアンの家を後にした。
だが、魔獣独特の『臭い』がまとわりついてくる……
ペテルは小声で二人に警告した。
「ドグが僕たちをつけている。」
エマは後ろを振りむことなくささやく。
「え?それって早くお城の兵隊さんたちを呼んだほうがいいんじゃないの?」
「いや、近衛兵をみたら逃げてしまうよ。僕たちだけでやっつけるんだ。」
「でも戦うっていっても、満足に魔法で戦えるのは殿下だけだよ。僕とエマの二人がかりでやっと出せるくらいの、アクスレールってやつだけだよ。ほら、この前学校の授業で習った初級の移動補助呪文」
「十分だよ。あと、さすがに城から剣は持ってこなかったけど、マジックステッキを一つ持ってきてる」
ペテルは背後からは見えないように、懐からマジックステッキ『クプラウンダー』を取り出した。
一見は長さ20cmほどの木の棒にしか見えないが、馬一頭分の値段がすることはジェラも知っていた。
「さすが殿下。この先にある人目につかない空き地に行こう」
ペテルたちは人目を避けつつ、空き地に入った。
さび付いたブランコ、梯子が壊れて登れない滑り台など、空き地に吹く風は重く、どこか濁っていた。
三人が足を止めた時、うしろから激しい息遣いが聞こえた。
「君たち、ワシの仕事の邪魔をして、いけん子らじゃねぇ。代わりに君らの夢、喰っちゃるわ」
ドグは夢見の杖を頭上に掲げて、目をぎらつかせながら子どもたちに襲い掛かった。
エマとジェラは手を合わせて小学校で習ったばかりの呪文アクスレールをペテルに向けて唱えた。
ペテルは体がわずかに軽くなり、その軽快さをもって襲い掛かってくるドグに飛び蹴りをくらわした。
「うげぇぇぇ!」
ペテルの蹴りは思い切りドグのみぞおちに入った。
「こ、この!子どもじゃおもぅて優しくすりゃぁ、付け上がりおって!!」
ドグはエクラを唱えた。
ペテルは迫りくるエクラをよけようともせず、「はぁッ!」と気合をひと声上げた。
するとエクラはペテルにぶつかる前に自爆し、煙があたりを覆った。
「え……?今のじゃ防御呪文じゃない……?魔力そのものでワシのエクラを爆発させたんか??」ドグは目を丸くした。
「さすが、フレイヤ女王様の直伝ね……」と感心するエマ
「殿下、やっぱりすごすぎ……」としかジェラからはそんな感想が出てこなかった。
ペテルは、「僕が本当のエクラを教えてあげるよ!」とクプラウンダーの杖をドグに向け、エクラを唱えた。
先ほどのドグとは比較にならない大きさと密度と質を兼ね備えたエクラがドグを襲う。
「う……うわぁぁぁぁぁ!!!」
ペテルが放ったエクラの光球がまっすぐドグに向かって突き進む!
しかし、ドグにあたる寸前にペテルはクプラウンダーの杖を動かし、エクラの方向進行を修正した。
ググっとエクラの光球はカーブし、ドグの夢見の杖にあたり大爆発を起こした。
夢見の杖はちょうどシャフトの真ん中部分にあたり、半壊した。
エクラはドグに直接はあたらなかったが、夢見の杖に当たった瞬間、体は後方に吹っ飛んでいた。
ドグはふらふらと立ち上がり、「か……勝ったと思わんことじゃ!」と捨て台詞を残し、走って帰っていった。
オークにしてはずいぶん小柄な体が見る見るうちにさらに小さくなっていく。
「夢見の杖、壊れたとはいえおいていったぞ、かなり慌ててたな」
ジェラは壊れた夢見の杖を拾いながら二人に見せた。
エマは「これで決着なの?」と困った声を上げた。
「いや、あいつはこの杖を取り返しにやってくる。たとえ壊れていても修理すればいいだけなんだから。」
ペテルの目は次の戦いを見据えていた。




