エゼの夢
ペテル、エマ、ジェラの三人は夢見の雫を首から下げ、さっそくムアグ学生寮に向かった。
日も暮れようとしている時間帯の訪問に寮母のミリャは難色を示したが、それでも小学4年生といえど仮にもペテルは一国の王子である。
無下に追い返すことはせず、エゼの部屋へ入ることを許可した。
エゼはやはり眠ったままであった。しかし相変わらず寝相が悪いので、ジェラが布団をかけなおす。
「ここからはもう普通のお見舞いじゃないわね。」と、エマがつぶやいた。
「エマ、ジェラ、行こう」と三人は首元から夢見の雫を取り出し、夢に入れるよう祈った。
―――
次に三人の目の前に広がった光景は、晴れ上がった空が広がり、美しい海とところどころにヤシの木が立ち並ぶ砂浜。
さわやかな潮の香りが三人を包み込んだ。
三人は、行ったことはないが、おそらくここはエゼの故郷であるムアグ共和国の砂浜なんだろうと容易に予想できた。
あたりをきょろきょろと見回すと、岩場にて一人、膝を抱えて座り込む少年の姿があった。
「エゼ!」ペテルは叫び、走って駆け寄った。エマとジェラもそれに続く。
「エゼ!目を覚ますんだ!」ペテルとジェラは体をゆすり、意識を三人に向けようとする。
けれども、エゼはぽつりとつぶやいた。
「もう無理だよ。僕に夢なんてないんだ……」
エマはエゼに静かに語りかける。
「エゼ、これはドグというオークが作り出した偽物の夢よ。私たちはいま、偽物の夢の中にいるの。これはあなたの夢じゃないわ。」
ジェラはエマに続ける。
「そうだぜ。お前の夢はドグという厄介者に喰われたのかもしれない。でも、僕たちは知ってる。お前の夢はそんなに安いもんじゃないってことを。」
ペテルはなおもエゼに話しかける。
「これからまた夢を掴みなおそう。まだ僕たちは、大人じゃないんだから。」
エゼは顔を上げ、「ペテル、ジェラ、エマ……」と三人の名前をつぶやいた。
「俺、もう一度波に乗ってみるよ。」
そういうと、エゼはTシャツを脱ぎ、「波が俺を待っている」と言うと同時に、サーフボードが空中から現れた。
海に向けて駆け出すエゼ。
そうして再び、エゼは夢の中で波に乗った。
エマはペテルとジェラに向け「まずは一人目ね。」と言った。
ペテルは「うん。」とうなずいた。
ジェラはエマに言った。
「エマが女王陛下に宣言していたように、本当にエゼをひっぱたたくんじゃないかと、実は内心ビクビクしていたんだ。」
するとエマは笑って返事した。
「あのまま立ち直らなかったら、本当にひっぱたいてたわよ」
ペテルは快晴の空を見上げた。
「でも、まだドグはいる。明日は土曜日だ。朝からサトとヴィアンを早く救おう」
気が付けば三人はエゼの部屋で目を覚ました。
先に目覚め、ベッドから起き上がっていたエゼは三人に向け、「ありがとな。」――エゼは一言だけ、不器用な礼を述べたのであった。




