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第5話 終末世界は絶望時々幸せ

改めて下町メンバーは打倒ファビリオ(タンタが命名した討伐対象のルーガスの事)に向けて会議を始めた。ノートリアスが増えた事により1号も発電所から離れられる様になったのは大きい。彼らがいなけれは今はどうなってるかも分からないかつてミノカンデアと呼ばれた廃国で地下軍事施設を探すのは骨が折れただろう。


今回は軍事施設から使える物を可能な限り大量に持ち帰らなければならない。計画ではミサイル搭載の装甲車4台、アサルトライフル6丁、地雷は持ち帰れる分だけ持ち帰る事になっている。


目的地までの大雑把な距離は800〜900km近くある。3号がミュージアムから大きめのオフロード車を見繕って整備して使えるようにしたので現在向かっている車は2台ある。水漏れのチェックも行った。ノートリアスはかつての人間と同じサイズなのでモヒウス達に運転できないサイズの車も難なく運転できる。


下町には2号、マルアット、ニピタン、ヒュリオが残っている。車で向かうとは言えかなりの長旅になる。マルアットとヒュリオの同行は厳しいとそれぞれ判断した。ヒュリオが心配な事や発電所の管理の事もり2号だけでは手に余る事態に備えてニピタンも残る事になった。1号に代わって発電所で仕事をしている。


長時間乗る事もあり車は誰がどの車に乗るかしばらく議論になった。最終的な決定は小さなオフロード車には3号(ボディを含めて運転席と助手席)とモヒウスとタンタ、大きなオフロード車にヴァネッサとフルチカとティエロとズィーマ1号に乗る事になった。


舗装された地を走るだけならまだしも何度も何度も迂回しなければならなくなったり、途中途中休憩を取って運動をしたり、大型ルーガスの気配がないか3号が地面のわずかな揺れから調査したりしながら進んだため到着には時間がかかった。


結局、大型ルーガスに遭遇する事もなかったが生存者や生存者の集落は見かけなかった。会えた所で車に乗せるスペースはないが。


「…どこまで言ってもドゥーデロやルーガスばかりだ。まるでこの世界に私達だけ取り残されたみたいじゃないか…」


フルチカが深くため息をついた。


「そう悲観するなフルチカ。私達でさえ長らく下町付近にいたのにお前達がほんの100km先で生きてるなんて知らなかったんだ。意外と生存者は私達を目撃してるかも知れん」


ヴァネッサが彼女の肩を叩きながら言った。それを聞いてフルチカも「それもそうだな」と笑う。彼女達でさえ地図を持ってなかったばかりに生き別れたヴァネッサがまさか別れた地点からそう遠くない位置にいて、その近くに手を加えれば人が住める環境が整った場所があるなどと知らなかったのだ。


ティエロは目を細めながら窓の外のドゥーデロを眺めて独り言を言った。


「あーあ。ドゥーデロとかルーガスぐらい人間もそこら中にいたらいいのに」


それぞれが同じ思いを抱えつつその次の言葉が出なくなった。しばらくしてズィーマが窓を開けて嘔吐した。フルチカは彼女の顔色が悪い事に気が付く。


「大丈夫か?」


背中をさすりながら言葉をかけると静かに頷く。ノートリアスは時間を確認すると休憩を挟むべきと判断し建物の並んだ廃町で車を止めた。それぞれ車から降りるとゆっくり体を伸ばす。3号はボディにしがみつき、ボディは地面に手をついて大型ルーガスの動きがないか確認している。


時間的にもお昼が近い事もあり誰から共なく加工食を配った。それぞれが受け取りそれを食べる。モヒウスは噴水の縁に腰を掛けてため息をついた。


「ふぃーっ!やれやれ、マル爺もヒュリオもニピタンも下町に残って正解だな!長距離移動も楽じゃねえや、体が凝り固まって石になっちまうよ」


タンタは加工肉をひと齧りして隣に座ると肩を竦めた。


「まだ半分も進んでないそうですよ」


「マージで冗談きついってえ…」


そんな会話をしているとヴァネッサが水を持って来た。それぞれ水分補給する。


「ロクでもない世界だけど飯が美味いのが救いよな」


そう言いながら彼女は肉にかぶりつく。モヒウスもタンタも頷く。マルアットの研究次第によっては後生は外で育つ野菜も作れるようになるんだろうか。なんて3人で話し合ったりした。


「それはそうとズィーマがあまり食欲なさそうなんだよな。大丈夫かな」


目線をやると離れた所でズィーマがぼんやり加工肉を眺めていた。ヴァネッサが冗談で「食べないなら私が食べる」と言うと無言で差し出したらしい。


「ズィーマが変なのは今に始まった事じゃないんだからほっとけよ」


モヒウスがそう言いながら肉を食べるとズィーマが目を見開いてこちらを向いた。


「聞こえてるんだけど…?」


「やっべ」


モヒウスはそう言ってタンタとヴァネッサの後ろに隠れた。ズィーマはしばらくして加工肉を齧り出した。


「おーい、皆ちょっと来て!」


建物から出て来たティエロが叫んだ。それぞれ彼女の所へ向かうと1号が浄水器を弄っていた。既に多少なりと水を出してある様で綺麗だ。


「少しメンテが必要でしたがこの浄水器動きますよ」


「へえ、そりゃいいな。水を汲んで行くか」


「それは良案ですがモヒウス、着目すべき点はそこではありません。実は…」


「ここ、下町の発電所から送電してないらしいんだよ!むふふ、これがどういう事だか分かる?」


ティエロが1号の言葉を遮り目を輝かせる。1号はでこのあたりに人差し指を置いて考える様な仕草をしてから言葉を続ける。


「つまり…」


「つまり他に稼働してる発電所がこの地域のどこかにあるってわけ!そこにはノートリアスがいるかもしれないし、ひょっとしたら他に生存者がいるかも!」


「しかし…」


「でも下町からの送信所からの発信に対して反応してないからこの付近にいるかは分からないんだよね。私達みたいに町を復興させようとしているなら多くの生存者が必要だし、送信所の復旧と交信はやると思う」


言いたい事を先にティエロが言ってしまうので1号は黙ってしまった。周りが可笑しそうに笑うのでティエロは困惑してキョロキョロする。特に3号に限ってはボディを叩きながら笑って見せる。


「あ、あれ。私何か変な事を言ったかな…?」


「いいえ、分かり易い解説をありがとうございますティエロ。とにかく私達の見えない所で生存者達は逞しく生きているかもしれないと言う事です。さ、水を汲んだら先を急ぎますよ」


そうしてまた長い車の旅が再開された。





数日後、やっとの事で目的地に到着した。途中途中で良さげな休憩ポイントが見つかったため今後は行き来に利用できるかもしれない。所々使えそうな浄水器は修理したりした。今後の事も考えてモヒウスやズィーマは皆に浄水器の修理のやり方を教えたりした。


いよいよミノカンデアの中心部に着くとそれは嫌でも目に入って来た。最初は誰もがそれが何なのか分からなかった。大きさは一言で言えば黒い円筒状の建物としか言いようがない。それが所々で生える様に建っている。しかしこの荒廃した世界で大型ルーガスに荒らされもせず、風化もせず残っている建物とは一体どんなものなのか。彼らが車で接近するとそれの正体がわかった。そして言葉を失う。


「これが…これがかつて動いていたと言うのか…」


誰もが言葉を発せない中、タンタが酷く動揺した様子で言った。それは大型ルーガスの頭部だった。体高だけで50mはある。体長は少なくとも1km以上。辺りには兵器の残骸らしい物が辛うじて分かる程度に残っている。


「あんな巨大ルーガスに襲われたらひとたまりもないな」


モヒウスが腕を組みながら唸った。ヴァネッサが数歩前に出て光景を眺める。


「なあ、マジでアレ人間がやっつけたのかよ」


「ええ、もちろんですヴァネッサ」


1号が言った。ズィーマが両手を大きく広げて歓喜に満ちた目で皆を振り返った。


「殺しちゃったんだ。私達の祖先が。あれを。うふふふ」


その言葉と目にタンタとモヒウスとヴァネッサと1号が目を合わせる。それからしばらくして5人はげらげらと大声で笑いだした。笑い転げたりお互いに肩を叩いたりしながら笑ったりしている。ティエロは腰に手を当てながらドン引きした。


「ついて行けないよ…」


「まあいいじゃないか。アレを見て今更怖じ気づくよりは」


「それよりそろそろ先に進もうよ~」


3号が近辺に生きた大型ルーガスがいない事を念入りにチェックしてから言った。そうしてそれぞれ車に乗り込み基地へ向かう。既に生存者がこの辺りに来ていたらしく中へ入ろうとした痕跡が見られた。残念ながら中へ入る事はかなわなかった様だ。1号と3号が協力してセキュリティを突破した。


それからマスクを着けて中へ入りルーガスを警戒したがドゥーデロすらいなかった。中の兵器はそれぞれ保存状態は良好で細かい点検すれば使えるとノートリアス達は判断した。それから使える固定砲台付きかつ運転席の狭い(この世界の現代人にとっては少し広いぐらいの)装甲車を4台を見繕いそれに武器やミサイルを詰め込んだ。


使える物を探しているうちにノートリアスの保管室が見つかった。モヒウスが皆を呼んでそれらをどうするか相談する。3号は軽くセキュリティを確認する。


「んん~…これは下手に弄らない方がいいな。私と同じ型もあるからどうにか欲しいけど、国の最高機密も含まれてるから下手するとこの中のノートリアスが全員動き出して私達を排除するかも」


彼女は悔しそうに言った。1号は2号が使えそうなフックが先についた義手を見せた。


「まあここはまたいずれにしましょう。2号の義手に使えそうなパーツが見つかっただけでも幸運です」


細かい事を言えばノートリアス達が欲しがるようなパーツも沢山あったが今回は燃料やら武器やらと持って帰るべきものが多くて入るスペースがなかった。彼らはやや後ろ髪引かれる思いながらもミノカンデアを後にした。


こうしてまた長い長い道のりを数人で交代しながら元来た道を戻って下町へ帰って行った。





やがて下町でファビリオの調査や戦闘訓練が始まった。ミノカンデアにいた大型ルーガス程ではないとは言えやはり非常に大きな個体だ。一瞬の判断ミスで確実に死者が出る。


3号は自らのボディを用いて装甲車を運転して遠隔操作してファビリオに接近を試みた。数度の実験による確認により視界に入らない限り自ら攻撃を仕掛けて来る事はない事がわかった。また、一度発見されると非常にしつこく追って来るが縄張りの様な物あるらしくある地点を越えて来ると深追いせず戻って行く事もわかった。しかし2号が同乗してバズーカ砲で攻撃を行った所、縄張りから数キロ離れた地点まで追い回して来たので攻撃作戦時にはこれも念頭に入れておく必要がある。


タンタが考えている作戦のためには攻撃を終えた装甲車は戦線離脱する必要があるのでこれの実験のために2号と3号のボディが出撃した所、3号のボディがより攻撃して引き付ける事で2号の離脱に成功した。しかし3号のボディはこの後は縄張りの外から出られずファビリオに巻き疲れて装甲車ごと破壊されてしまった。


これを機に作戦失敗時のための保険が必要だと判断し1号の提案でモヒウスと1号はもう一度ミノカンデアに戻って輸送起立発射機を運ぶ事になった。誘導できない上に対象は動くので命中率は高いとは言えないが撃つのはノートリアスの中で一番性能の高い3号だ。


失った物は多いが得られたデータも少なくない。まず今回持ち込んだ武装で頭部への攻撃はあまり有効的ではないと言う事だ。やはり頭から突っ込んで地中を泳ぐ生物だけある。その一方で体の側面や腹は特に肉質が柔らかい様で実験時の損傷がはっきりと確認される。頭部を破壊して殺害できればそれが理想だが、残念ながら体を破壊して戦闘不能にするしかないらしい。


それから何度も会議を重ねて完成した作戦はスペースシャトル作戦と名付けられた。デルタ、カッパ、シグマ(人によって発音しづらい、聞き取りづらい言葉があったためそれを避けた物を選んだ)の3台にチームごとに別れて乗る。視界に入らない様に気を配りつつ胴体の側面を狙う。重点的に狙うのは頭から胴体の付け根だ。ドゥーデロもルーガスも頭部を破壊すれば体は動かなくなるので頭と体を切り離す事で殺す予定だ。


シグマ、カッパ、デルタの順で列に並んで攻撃を行う。それからデルタが攻撃を行い、主砲が尽きたら対戦車地雷をばら撒きながら離脱する。この時、カッパが攻撃を行う事でデルタの離脱をアシストする。これを繰り返してシグマが攻撃を終えるまでに撃破を目指す。作戦失敗時にはオメガチームによる輸送起立発射機で最大4発の攻撃で援護してもらい離脱する。そういう手はずになっている。


調査、会議、訓練を繰り返してついにファビリオ討伐の決行日がやって来た。それぞれが搭乗車の前に立つ。シグマの車両にニピタンが立つとオメガチームのヒュリオがやって来た。


「にーやん…」


心配そうに兄の顔を見上げるヒュリオ。ニピタンは弟を抱きしめた。


「ごめんな。必ず生きて帰るとは約束できない。もし僕に万が一の事があったら、生き残った皆を家族と思って頼るんだ。いいね?」


「うん…」


話を終えるとヒュリオは振り返りもせず持ち場に走って行った。ニピタンも後ろ髪引かれる思いを振りほどいて車に乗る。


「…すみません。3号のボディさえ破壊されていなければあなたをこの作戦に参加させずに済んだのですが…」


タンタがニピタンに謝った。彼は首を横に振った。


「下町は僕の家であり、仲間は家族も同然だ。ヒュリオの事は気がかりだけどこの中に誰かと比較して死んでいい命や生きるべき命なんてないんだ。僕もこの作戦に参加できる事を光栄に思う。家族のために」


その目に迷いはどこにもなかった。ただ、目の前の困難に立ち向かうための戦士の面構えになっていた。無線を通してそれぞれが口々に「家族のために」と言って覚悟を新たにする。


ニピタン、ズィーマ、タンタを乗せたシグマチームが先行する。次にフルチカ、ティエロ、2号を乗せたカッパチームが進む。最後にモヒウス、ヴァネッサ、1号が乗ったデルタチームが進んだ。


まずはゆっくり地面を泳いでいるファビリオの横腹にデルタチームの1号がバズーカを撃ち込んだ。その巨体が瞬時に動くとその大きな頭をもたげてこちらを向いた。そしてカラカラカラ、とまるで虫の羽音の様な声で鳴くと追いかけて来る。かなりの早さだった。それぞれフルスロットルで辛うじて追いつかれない程度だ。乱れの無い編隊で縄張り周辺を周回しながらポジションを取った。


1号は搭載したありったけのバズーカやミサイルを撃ち込む。ヴァネッサは機関銃で傷跡を抉る様に狙い撃つ。ファビリオは頭を大きく揺れ動かして中々照準が定まらない。旋回時にモヒウスのハンドル操作が僅かに遅れてファビリオの体に装甲車がぶつかった。1号とヴァネッサは大きく体を揺られながら車にしがみついて何とかしのぐ。


「モヒウス、しっかりしろ!」


ヴァネッサが声を張り上げる。


「悪い!」


「そろそろ弾切れです!モヒウス、離脱の準備を!」


「了解!」


1号が弾を使い切ると鞄に詰め込んだ対戦車地雷を複数放り投げる。ヴァネッサと1号はすぐに屈んだ。地雷が爆発して巨体が怯む。モヒウスは編隊から離脱する。対戦車地雷の破片が複数対戦車地雷に突き刺さった。カッパチームの2号が爆発音が鳴りやんでからバズーカを、フルチカが機関銃でファビリオを撃つ。ファビリオは思いのほか攻撃に苦しんでいる様でその場でのたうち回った。その際に尾ひれにデルタチームの装甲車が当たって宙に舞い数メートル吹き飛んだ。


「デルタチーム、応答せよ!デルタチーム、応答せよ!」


ティエロが運転しながら叫ぶ。


「チッ、1号からの連絡も来ねえ。生きてろよな!!」


2号が叫びながらデルタチームへの追撃をさせないために攻撃を続ける。ガラガラガラガラとファビリオはより攻撃的な声で鳴いて襲い掛かって来る。


「デルタチーム、応答せよ!デルタチーム、応答せよ!!」


ティエロは何度も繰り返すが応答はない。2号とフルチカは傷口をより抉り続ける。しかし先程よりも動きが激しく狙いが定まらない。ファビリオは地面に潜る。出現先は分からいが速度は装甲車の方が出ているはず。引き続き旋回を続けるが周回の内側から先回りして出現した。急いでハンドル操作して回避を試みるがあまりに急でシグマチームの装甲車とぶつかる。


しかし衝撃はリカバリできない範囲ではなく再び同じ編隊に戻して敵との距離を保とうとする。ファビリオが再び周回の内側から攻撃を仕掛けようとするとタンタの指示で右旋回に変えて対応する。ファビリオの突撃に対して顔にバズーカと銃弾を浴びせて対処した。


ファビリオは傷跡から血を流しながら突進して来る。


「寄るんじゃねえ!てめえはケツに付くんだよ!!」


フルチカが叫んで機関銃を打ち込む。そのうちの1発がファビリオの左目にヒットした。雄叫びを上げながら怯むと2号が顎にバズーカを撃ち込む。


「そろそろこっちも弾切れだ!どうする、3号に援護を要請するか?」


「でなきゃデルタチームの二の舞だ、ティエロ頼む!」


2号の提案に賛同したフルチカがティエロに指示する。彼女はすぐに3号に連絡を取って援護を要請した。2号とフルチカは対戦車地雷を協力してばら撒く。しかし最後の鞄が2号のフックに引っ掛かかって頭を引っ込めるタイミングが遅れ対戦車地雷の破片が頭部にヒットする。


「2号!!!」


首から頭をぶら下げながら何とか2号が最後の地雷を投げ切る。それからフルチカが2号を引っ込めた。


「おい、大丈夫か?!」


「ここから生き残ればお釣りが来るぜ」


何て冗談を言って見せた。しかし損傷が激しい。


『ミサイル発射!衝撃に備えよ!』


3号からの通信が入った。ミサイルはファビリオの胴体中部に目掛けて落ちる。爆風は受けた様だが直撃には至らなかった。ファビリオは縄張りを離れてカッパチームを追う。シグマチームのタンタがバズーカを、ズィーマが機関銃で攻撃して引き付ける。しかしファビリオは中々シグマチームの方を向かない。


「3号、早急に離脱援護を!!」


ティエロが叫んだ。


『了解!衝撃に備えよ!!』


「急いでくれ!!」


次弾が発射される。カッパチームはフルスロットルでファビリオから逃げ続けたが岩陰で死角になっていた所から飛び出したドゥーデロを撥ねて車内に衝撃が走った。車体の後ろ側が浮いてグルリと宙で半回転した。ティエロは急いでハンドルを切りながらバックして立て直そうとするが後ろから迫るファビリオの攻撃への対処に間に合わなかった。ファビリオの頭部が車体にぶつかる直前にミサイルが着弾し狙いが僅かにズレて直撃は免れたが装甲車の後ろ側にぶつかって横転した。


タンタは痛みに耐えながらバズーカでの攻撃を続ける。ズィーマも歯を食いしばりながら仲間への想いを振り切って攻撃を続ける。やっとの事でファビリオはシグマチームの方を追って来た。


「カッパチーム、応答せよ!カッパチーム、応答せよ!!」


ニピタンが叫び続ける。


『こちら、カッパチーム…フルチカ、2号共に重傷…。救助要請…』


ティエロが応答した。3号は次弾の発射準備を済ませてからマルアットとヒュリオにカッパチームの救助を指示した。マルアットがヒュリオを乗せて小さめのオフロード車を飛ばして救助に向かう。シグマチームは引き続きファビリオと戦う。


「往生際が悪いんだよ化け物がああっ!!」


タンタが叫んでバズーカを撃ち込んだ。するとそれぞれの攻撃していた部位がついに切断された。ファビリオは肉と肉を繋ぐ皮を千切りながらなおも蛇の様に体をうねらせてシグマチームへへ向かって来る。しかし先程の左目の攻撃が祟って上手く狙いが付けられない。タンタが左目を負傷してる事に気付いて叫ぶ。


「ニピタン、左旋回!奴の盲点を突く!」


「了解!」


旋回ルートを変える。しかしファビリオとの距離が少しずつ詰まって行く。このままでは…。


「やばい、ぶつかる!!」


ズィーマが叫んだ。


「地雷を撒け!!今すぐに!!」


タンタが叫んだ。2人で鞄を放り投げた。今まで以上の速さで接近するファビリオと充分な距離を保てず爆風に巻き込まれて装甲車が引っくり返った。ズィーマは運転席に落っこち、タンタは外に放り出された。


…つい先ほどまでの喧噪がまるで嘘の様に場が静かになった。


「う…」


ニピタンがうめいた。ズィーマが意識を取り戻す。


「苦し…」


ズィーマは全身の痛みに耐えながらニピタンをシートベルトから解放して助ける。外が恐ろしいほど静かだった。2人は慎重に外に出るとファビリオの頭部が少し離れた所で横たわっていた。視界の反対側にはタンタがぐったりしている。


「タンタ…」


ズィーマが呼びかける。どうやら外に放り出された際に頭を強く打って死亡したらしい。ニピタンは一度装甲車に戻り交信を試みる。どうやら無線機が壊れてしまった様だ。ズィーマとニピタンは装甲車で助けを待っているとやがて1号がオフロード車に乗ってやって来た。1号は手を貸して2人を車に乗せるとタンタを背負って助手席に乗せて車を出した。


モヒウス、ヴァネッサ、フルチカ、タンタ死亡。2号は修理不可の大破。


ティエロ、ニピタン、ズィーマ、ヒュリオ、マルアット生存。1号、中破。3号現存。


ファビリオは無事に撃破。下町の脅威は去ったが失った物も大きかった。


後日、南方からの交信地点を調査したが生存者は見当たらなかった。





ズィーマは皆の墓の前で立ち尽くした。ティエロはフルチカの墓の前で泣いている。


「だから、あんな怪物と戦うのに反対したんだ…」


ティエロはずっとこの言葉を繰り返している。誰もかける言葉がなかった。ズィーマは彼女から目を離さない様にしつつ必要以上に干渉しない様にしている。やがてニピタンがやって来た。


「ズィーマ、準備が出来たよ」


3号と共にミノカンデアに行く準備の事である。1号の破損具合が著しく稼働を続ければ故障してしまうため修理できる環境が整うまで電源を切る事になったのだ。3号は上半身だけでは発電所の管理ができない。しかし生身でできる管理には限界がある。ミノカンデアのノートリアス保管室にハッキングを仕掛けて予備を仕入れる必要がある。もちろんリスクは非常に高い。しかし今はこうするしかなかった。


「ごめんね、本当は私が行きたいんだけど」


ズィーマが申し訳なさそうに言った。


「謝らないでくれズィーマ。君は誰もが認める統率者だ。司令塔が本拠地を離れる訳にはいかないだろう?」


危険は承知の上でニピタンが役目を申し出た。…作戦が失敗すればこれが最後の別れになる。ズィーマはニピタンとハグを済ませると彼を見送った。


「ねーやん、にーやんはどこ行くの?」


ヒュリオがニピタンを見送ってからズィーマに尋ねた。彼女は微笑む。


「生存者を探しに行くんだ。ちょっと遠くにね」


そう言って頭を撫でる。これからマルアットと一緒に生態調査用に捕まえていたドゥーデロを殺しに行かなければならない。彼女はヒュリオにティエロの傍にいてあげる様に言って支度をする。


オフロード車に向かう最中に墓の前を通るとティエロが墓の前で振り向きもせずに彼女に問いかける。


「あんた、涙1つこぼさないよね。仲間が死んでも辛くないの?」


「うん。脅威は去ったし気兼ねなく下町再興に注力できるからね。幸せ」


彼女の背中に向かってニコリと微笑んだ。するとティエロは立ち上がってズィーマに掴みかかる。


「ずっと慣れ親しんでた人が死んで幸せなのかよ!!血は通ってないのかよ、薄情者!悪魔!!」


腕をわなわなと振るわせてまた目に涙をにじませるティエロ。ズィーマは笑顔を崩さない。


「いいね。そのまま感情を吐き出して。すっきりするよ」


「頭おかしいよあんた…」


睨みつけるティエロをズィーマは何も言わず抱きしめた。彼女はやがて大声で泣く。ズィーマは彼女の姿に過去の自分を重ねていた。彼女も目に涙を浮かべ、気取られない様に目を瞑って静かに囁いた。


「あのね、幸せと言うのは生き様なんだ」


後日談はないです…。

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