二 えんのしたのラスカルじいさん
「こっちだよ。じいさんは古いおくらのゆか下に住んでいるんだ」
お寺の古いおくらはうら庭のすみにあります。ピピンはえんの下にむかってよびかけました。
「おーいラスカルじいさん! おきてくれ。お客さまだよ!」
「なんだ小ねずみそうぞうしい。今ようやくねむりかけたところだったのに」
「ごめんよ。いそぎの用なんだ。お礼にりんごのありかを教えてあげるからさ」
「なんとりんごとな」
えんの下からのそのそとはい出てきたのはミミさんよりひとまわり大きい茶色っぽい生きものでした。目のまわりが黒くて首のまわりは白く、ふさふさとした太いしっぽをしています。ミミさんはつくづくながめてから言いました。
「はじめまして。あなたはたぬきですか?」
「そうだな。おそらくたぬきだ」
ラスカルじいさんはひげの先をたらしてかなしそうに答えました。
「うさぎさんよ、あんたにもわたしはたぬきにしか見えんかね?」
「すみませんラスカルさん。わたしはあまりものを知らないうさぎなのです。たぬきでないとしたら、あなたは何なのでしょうか?」
「アライグマには見えんかね?」
「アライグマとは何ですか?」
「そういう生きものがいるのだ。わたしはむかし人間にかわれていてな。その人間は小さかったわたしをアライグマだと思ってひろったのだ。そしてラスカルと名づけた。何でも遠いむかしのたいそう有名なアライグマの名前なのだそうだ。わたしは自分をアライグマだと思って育った。しかし、あるとき言われたのだ。どうもこいつはたぬきみたいだ。しっぽがしましまじゃないと」
ラスカルじいさんは出会う生きものすべてにいつも同じ思い出話を聞かせます。ほうっておいたらこのままずっと夜になるまで話しているかもしれません。
ピピンはあわてて口をはさみました。
「そんなにがっかりすることはないよ。しっぽがしましまじゃないアライグマだってたまにはいるかもしれない。ところでじいさん、教えてほしいことがあるんだ。このあたりにうさぎの住んでいるところを知っているかな?」
「むろん知っているとも」
ラスカルはひげをピンとはって答えました。
「ようち園さ。ようち園の小屋にはむかしからたくさんのうさぎが住んでいる」
「今はいっぴきしか住んでいませんよ」
ミミさんがかなしそうに答えました。
「ラスカルさん、わたしはそのようち園から来たのです」
「ミミさんはほかのうさぎをさがしているんだ。暗くなる前に小屋にもどりたいから、できるだけいそいでね」
「なるほど」
ラスカルじいさんは重々しくうなずき、しばらく考えてから言いました。
「それなら小学校だな。小学校にはきっとうさぎがいるはずだ」
ラスカルじいさんはあいにくと小学校までの道じゅんを知りませんでした。でも、さすがに物知りのじいさんのこと、どうやって小学校へ行けばいいのかはちゃんと知っていたのです。
「道にな、出てみるのだ」
ラスカルじいさんはおもおもしく言いました。
「そして黄色いほどうきょうのかいだんの下でまっている。すると、ランドセルというものをせおった子どもたちがやってくるはずだ。ミミさん、ランドセルを知っているかね?」
「ええ。知っていますよ」
ミミさんがうれしそうに答えます。
「小学校へかよう子どもがせおうしかくいかばんでしょう? 春になると、小学校へあがった子がときどきようち園に遊びにくるのです。何度か見せてもらいました」
「ああそう」
ラスカルはちょっとつまらなそうに言いました。
「で、そのランドセルをせおった子どもを見つけてな、そのあとをついていけばいいのだ」
「なーるほど!」
ピピンはかん心しました。
「そうしたら小学校につくってすんぽうだね。さすがにラスカルじいさん、ちえがふかいや。お礼にりんごのあるところをおしえてあげるよ」
「ふむ」
じいさんはうれしそうに目をくるくるさせました。