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一 ピピン ミミさんとであう

ピピンはいっぴきぐらしのねずみです。

 毛がわの色は雪のように白く、目の色はぬれたすいかのたねのように黒く、足と耳のうちがわは明るいピンク色です。ねずみの手と耳のうちがわには毛が生えていませんから、血の色がすけて見えるのです。


 ピピンはお寺のシイの木の根もとに住んでいます。(シイというのは木の名前です)。

 このシイはとても古い木で、むかしかみなりにうたれたためにふたつにわれています。われ目には石のおじぞうさまがおかれています。ピピンはそのおじぞうさまの後ろに住んでいるのです。


 さて、ある春の日の朝です。ピピンは朝だというのに少しもねむくならずにこまっていました。ねずみは夜行せいですからですから、人間とは反対に、夜におきて朝からねむるのです。

「こまったな。ちっともねむくないよ。朝のさん歩をしてみようかな」

 ピピンはひとりごとを言うと、前足でひげをしごいてピンとさせてから、おじぞうさまの横をすりぬけて外へ出ました。


 外はもうずいぶん明るくて頭がくらくらしました。

シイの木のまわりはチェスばんのようです。地面より少し高い四角い台のうえに、切りたてのようかんみたいにぴかぴかした黒いたてながの石が立っています。それはみなおはかでした。ピピンはピクピクと鼻をうごかしました。

「なんだかいいにおいがするよ!」

 においのするほうへと走っていくと、ひとつのおはかの前にぴかぴかと光る大きなまるいものが三つもならんでいるのが見えました。


 りんごです。

 ぴかぴかつるつるの大きなりんごが三つも!


 ピピンは大よろこびでかいだんをかけ上がると、口をいっぱいにあけてりんごにかじりつこうとしました。

 でもなんてことでしょう! 

 りんごにはたっぷりワックスがぬってありましたから、ピピンの前歯はつるっとすべって少しもかみつけません。白ねずみはがっかりしました。

「こまったな。かみなりでもおちないかな」


 ちょうどそのときです。

 ピピンのうしろから知らないだれかの声がきこえました。


「どうしてかみなりがおちてほしいんだい?」

 ふりかえるとおはかの前のかいだんの下にピピンよりずっと大きなまっしろい生きものが後ろ足ですわっていました。

 ふっくらやわらかくまるい生きです。

 ピンと立った二本の長い耳のうちがわが、ピピンの耳と同じように明るいピンク色をしています。ピピンはおっかなびっくりたずねました。

「きみはだれなの?」

「わたしはうさぎだよ。子どもたちはミミさんとよぶね」

「子どもたちがいるの?」

「わたしの子どもたちではなく人間の子どもたちだよ。わたしはようち園のうさぎなんだ。ところできみはねずみかい?」

「そうだよ。白ねずみのピピンさ」

「ならピピン、どうしてかみなりがおちてほしいんだい?」

「ぼくの歯じゃこのりんごがかじれないからだよ」

 ピピンがしぶしぶうちあけると、ミミさんが大きな前歯をむき出して見せました。

「わたしの歯ならかじれそうだね」

 そう言うなりピョンとはね上がっておはかの前までのぼると、前足でりんごをころがしてがぶりとかじりつきました。つるつるのかわに歯がくいこむなりあまいにおいがぱっとたちます。ピピンは思わずさけびました。

「なんていいにおいなんだ! おねがいだから一口かじらせてくれよ」

「どうぞえんりょなく。もともときみのりんごだからね」

 ミミさんのかじったところはもうつるつるのかたいかわがやぶれています。ピピンはむちゅうでかじりました。



 じきに二にきはまんぷくしました。りんごはまだ二つ残っています。ピピンは前足でひげをしごきながらたずねました。

「ねえミミさん、ようち園のうさぎがどうしておはかにいるの?」

「小屋の金あみがやぶれていたからにげだしてきたんだ」

「そいつはあんまりかん心しないな」

 ピピンは小声でいいました。

「きみは知らないかもしれないけれど、白い生きものが外で生きるのは大変なことなんだよ? カラスもいるしイタチもいる。ぼくはこのとおり小さくてすばしっこいし、なんといってもむかしから外ぐらしだけどね、小屋そだちのきみなんかすぐ何かに食べられてしまうよ。暗くなる前にもどったほうがいいと思うね」

「もちろんもどるよ。でも、せっかく出てきたのだから、やりたいことがあるんだ」

「なんだい?」

「友だちに会いたいんだ」

 白うさぎはまじめに答えました。

「きみの友だち、どこにいるの?」

「それがわからなくてね」

 ミミさんはさびしそうに答えました。

「ようち園にはわたしのほかのうさぎがいないから、わたしはほかのうさぎにあったことがないんだ。このあたりでうさぎの住んでいるところを知っているかな?」

「ざんねんだけど知らないな。でもラスカルじいさんなら知っているかもしれない。もしよければじいさんのところにつれていってあげるよ」

「ありがとう! きみはなんてしんせつな白ねずみなんだろう」

「たいしたことじゃないよ。りんごをかじってくれたお礼さ」


 白ねずみがちょこちょことかいだんをおりると、白うさぎがぴょんとひととびでついてきました。


 ちょこちょこちょこちょこちょこちょこ。

 ぴょん。


 ちょこちょこちょこちょこちょこちょこ。

 ぴょん。


 何度もくり返すうちに、二ひきはじきにおはかをぬけてお寺のけいだいにつきました。

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