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隔絶世界の万象図書館管理者がチラ見する、見習い神様達の試験風景の一幕~問題児は概ね赤印を選ぶ~

作者:

ノリと勢いだけでぽや~っと書いたものです。

山なし落ちなしというやつですが、お暇つぶしにでもなれば幸いです。


 ただただ静かで穏やかな、だけど虹色の光に満たされた空間。上下も左右もなく過去も未来も曖昧で、ありとあらゆる場所に繋がりながらも繋がっていない、そんな隔絶された空間に、大小様々な泡沫が浮かんでいる。


 その泡沫に近づいてみれば、幾つかには建造物が見える。

 地面や水辺なんかも見えるが、端的に言うと何らかの施設を敷地ごと、丸い空間で包んで隔絶したかのような場所だ。


 そんな幾つも浮かぶ泡沫の一つに、ここ万象図書館は存在している。

 知識や事象、創作された物語等が流れ着く場所で、水辺や空中に、無数の世界で発見されたり作られたりしたそれらが、宝石のように輝く小さな結晶となって突然現れるのだ。

 それらは図書館の管理者によって拾い集められ、適切に分類整理されてから保管される。



 普段、万象図書館は管理者たちが黙々と作業をしているだけなので、この泡沫の中は静寂に包まれているのだが、時折やって来る者達によって少々騒がしくなる事がある。


 神様見習い達が卒業試験の参考文献を求めてやって来るのだ。その時期だけは巨大な万象図書館の泡沫に、別の小さな泡沫が接岸される。

 その参考文献を手にした神様見習い達の卒業試験会場だ。


 卒業試験会場では、神様見習い達が仮想空間を貸与され、そこで仮想生命を作り出し、それを育成、発展させていく。

 あくまで試験である以上、試験後は消し去ってしまう為に全てを仮想で行うのだ。

 無事育成できれば晴れて卒業。神様見習い達は、各神様の元へまずは補佐官として送り出される。偶に違う道を選択する者も居るが…。





 今日も今日とて突然現れる結晶を、大きめの家猫のような姿をした管理者が拾い集めている。

 家猫の様なと言っても本当に家猫という訳ではない。

 尾は3股に分かれ、背には2対の大きな翼を見て取れる。結晶を拾い集めているのは、これまた大きく尖った耳の付け根から伸びた、触手の様な毛束だ。先の方は人間の手のようになっていて、耳手と呼ばれている。


 管理者はその姿だけでなく能力もかなり高い。無限収納は言うに及ばず、転移転送もお手の物だ。

 とはいえ平穏平和な万象図書館で、いや、それ以前にこの隔絶空間で、そんな能力が本当に必要かどうかはわからない。

 現在結晶を拾っては眺め、収納へ放り入れている家猫様管理者は、収納は兎も角、移動については自分の翼で飛んだり、自分の足を使う事の方を好んでいるようだった。


「おぉ、管理者殿、お久しぶりです」

「あ? あぁ、学長やないですか…って、あれ? もう、そないな時期やったですかね?」


 金糸で刺繍の施された眩い程の純白衣装に身を包み、真っ白な髭をたっぷりと蓄えた御老人が声をかけてきた。

 眩いと言えば聞こえは良いかもしれないが、単に目に痛いだけである。


 彼は見習い神様達をここまで引率してくる神様の一人で、誰とはなしに『学長』と呼ばれている。

 真っ白で豊かな髭が、老獪な学校長を彷彿とさせるのだろう。

 ついでにいうなら真っ白な眉毛も豊かで、目は隠れて確認できない。


「えぇ、今回は2名ばかりお邪魔させていますよ」

「2名、ね。了解です。とはいえ僕らはあんま関わる事ないですけど。

 それはそうと、何ぞ用でも?

 いっつも知らん間に来て、何時の間にやら帰ってはりますやん」


 これまで何度も神様見習い達がこの図書館に出入りしているが、何名か存在している引率の神様達の殆どが、管理者に声をかけたりしない。

 今目の前にいる『学長』は珍しく話しかけてくる方だが、それもそうあることではなかった。


「……そうなんですが、その……今回は少々問題児が…」


 酷く言い辛そうに紡がれた言葉に、猫っぽい管理者は一瞬目を丸くした。


「ぁ、あ~そういう事ですか。せやけど今までも結構いろんなんが来てますやん?

 こんな事言うたら拳飛んできそうやけど、神様名乗ったらあかんでっちゅうのんも、ちらほらおったような記憶が無きにしも非ずやし……まぁ破壊神とかの見習いやったら、それでええのんですけど」

「いや、まぁそうなんですけど、残念ながら今回は破壊神見習いではなく、創造神見習いでして……今回もご迷惑をおかけしそうなので、先んじて…と言う次第です」

「学長も苦労が絶えへんですな。とは言えいつも通りで構へんのですよね? 見習い神様達には一切関わらへんっちゅう事で」

「はい。それでお願いします」


 挨拶できたことに満足したのか、にこやかに去って行く学長の背中を見送り、自身は拾い集めた結晶を分類するべく、作業部屋へと足を向けた。


 学長が心配する見習い神様がどんな輩なのかは知らないが、見習いとは言え仮にも神様の末席に連なる存在なので、神力というか魔法と言うか、当然ながらそう言う摩訶不思議な力を有している。

 特に今回は創造神見習いらしいので、あまり羽目を外されると困るのだが、この万象図書館に接岸された試験会場ではそれも含めて審査対象となるため、やりすぎる見習い達も多い。

 そしてそんなやりすぎ見習い達には概ね共通点があった。


 集めた結晶には分類印がつけられる。

 生命達に役立ちそうなモノには青い印とか、取扱に注意を要しそうなモノには黄色い印とかである。

 そしてやんちゃな見習い神様が参考にするのは、大抵赤い印がついていたりする。

 赤……注意を要するどころか、やばいというか不味いものにつけられる印だ。


 創造神の見習いならば、試験に合格し、神様として歩み始めれば、いずれ自ら世界を作る事もあるだろう。その時はそれぞれが良いと思う方向へ導いてやれば良いだけの事だが、神様とは言え得意不得意がある。不得意部分については他から助言を貰ったり、ここで参考になりそうなものを探したりなどするのだが、まだ知識も経験も全く足りない見習いには、その取捨選択も難しい為、あらかじめ何を参考にすれば良いか程度は教えられているのだ。だが……ある意味引っ掛けとして、ここの分類基準などは教えられないままやってくるため、知らず赤い印を手に取ってしまうというケースがままあったりする。

 いっそ破壊神とか堕落神とかの試験ならそれで良いのだが、創造神となると少々問題だ。


 ちなみに参考文献としてお勧めされているのが、色々な世界から流れ着いた物語。

 それを参考に、あるいは真似て世界を育成する。

 試験と言う限られた時間の中で、それなりに結果を出す方法として推奨されているのだが、やんちゃな見習い創造神様達は、何故かヒドインやらヤバイン、ヒドイ―ローやらヤバイーロー等が出てくる、最終的に世界が崩壊するような赤印の物語を、どうしてだか選んでくるのだ。


 とはいえ、何を手に取ったとしても管理者が口を挟んだりする必要はないので、高みの見物だ。


 言ってる端から当の見習い神様達がやってきたようだ。猫っぽい管理者はさっと天井近くの梁に飛び上がる。

 図書館の天井近くには梁がむき出しになっている場所もあり、キャットウォークさながらになっていた。


「そっちはそっちで勝手にやればいいでしょ!?」

「良いじゃん~、八泉ン所の住民って真面目なのが多いからさぁ、ちょ~っと転移か転生をって、あっぶな」


 八泉と呼ばれた少女の様な見習い神様は、もう一人の金髪キラキラ青年見習い神様にイラついたのか、拳を無言で振り抜いた。


「いい加減にしてよ! フランシスの所に転移とか転生なんて、させる訳ないでしょ!」

「え~良いじゃん~ 八泉ン所ってば単一種族だし、数人居なくなったって問題ないっしょ?」

「問題しかないわ!! アンタんとこの住民を頑張らせなさいよ!」

「僕ちん所は見た目と流行重視にしたからね~」

「それも含めてアンタの采配でしょ。私を巻き込まないで」

「えぇ~八泉ってば意地悪だな~」


 等と、フランシスとか呼ばれた青年の見習い神が一方的に、黒髪の八泉見習い神に絡んでいた。

 なるほど、学長の言っていた問題児がアレか……と管理者は納得する。

 もう片方が可哀そうになってしまう。

 あれは昨今流行の〇〇盗用だとかに抵抗がない奴だと、つい冷ややかな視線を送ってしまった。

 というか、アレは合格させちゃダメな奴だろう。



 万象図書館は時間も曖昧だ。いやここに限らずこの隔絶された空間そのものが、そう言う存在なので、見習い神様達も、時間に縛られる事なく、好きに活動している。

 八泉(言いにくいので『見習い神様』『神様見習い』等割愛する)は試験会場の泡沫と図書館の泡沫を忙しく行き来している。

 何の気なしに眺めていると、彼女が参考にしている物語は、とある世界の古典文学のようだ。

 試験としては多くの場合、参考文献に選んだ物語の世界観をもとに、自身の仮想世界を育成するのだが、偶に登場人物を再現までする者もいたりする。

 概ねそれなりに育成結果を出す見習いが多いので、管理者は時折試験会場を覗きに行ったりして、存外楽しんでいる。


 是非とも彼女の仮想世界が発展した姿を見たいと思っていると、またしても彼女の機嫌を損ねる存在が現れた。

 チャラ男なフランシスだ。


「八泉~、僕ちん良い文献見つけたんだよ~」


 声をかけられた八泉の方は、思い切り苦虫を噛み潰した表情を隠そうともしていない。

 まぁよくよく観察しなくても水と油なのは丸わかりだ。

 真面目な八泉は心底フランシスを嫌っているようなのだが、それも仕方ないだろう。というのも、フランシスの方の仮想世界は育成が捗っていない。

 その理由が住民気質にあるようで、仮想世界の住民気質を、フランシスは自身に似せたようだ。

 一見しただけで享楽的且つ短絡的な部分が垣間見える彼に似せれば、世界がどうなるか等想像するまでもない。

 その上昨今流行だよね~とか言って、文化や思想の合わない人々を小さな世界に押し込めているのだ。

 勿論文化や思想が合わないなど、珍しい事でもないだろうが、それを受け入れないのは悪だとか言って、そういう人々を消し去ったりしているのだ。

 仮想とは言え仮にも命を軽々しく扱うフランシスには、管理者も嫌悪を覚えるが、どうせ試験期間しかうろつかない。だから耐えられない事もないのだが、気の毒なのは八泉だ。

 彼女は真面目に仮想世界と仮想生命に向き合って取り組んでいる。

 試験期間だけではあるが、彼女は確かに自身の世界とそこに暮らす命を大事にし、愛おしんでいる。

 そんな彼女がフランシスなどに悩まされるのは、本当に気の毒で溜息が洩れてしまう。

 しかし管理者にできる事はないと、結晶分類でもして来るかと立ち上がった所で、フランシスが八泉に見せている文献が目に入った。


 赤い印……間違いなく、しかもでかでかと赤い印がついている。

 そして思い出した……アレはヒドインが出てくる物語だったはず。


 確か孤児として育ったヒドインが王侯貴族や豪商の子息と仲良くなり、彼らの婚約者や恋人たちを蹴落としていくという、まぁ安っぽい話だったはずだが、ライバル女性たちを蹴落とすやり口があまりに酷すぎる。

 もう反対にさっくり殺害に至ってくれる方がマシだろうって思わせられる場面もあった。

 例を挙げれば……いや、やめておこう、生理的嫌悪感が半端ない。管理者も正直気が滅入って仕方なかったくらいなのだ。


「でさぁ、僕ちん、この娘再現しちゃった♪ この娘可愛いよね~。ほら、この主人公♪」

「煩い、寄るな……」


 再び聞こえてきた声に、管理者は暫し呆然とした。

 あのヒドインを再現したのか……こいつ試験に合格する気が最初からないんだなと、棒読みで嘆息した。

 とは言えそれも彼の選択。管理者は関わらない。


 暫く後に彼の断末魔が聞こえた……か、どうかはわからない。


 そんな万象図書館は今日も平穏だったり騒がしかったりするけれど、猫っぽい管理者は常と変わらず結晶拾いと分類整理に忙しい。

 



ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

思い付きで書いただけの短編で、締まらないお話ですが、何卒宜しくお願いいたします。


もし宜しければブックマーク、評価、いいねや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

誤字報告も感謝しかありません。


よろしければ他作品もございますので、宜しければお暇つぶしにでも!……もう誤字脱字が酷くて、本当に申し訳ございません。報告本当にありがとうございます。それ以外にも見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>


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