08 それぞれの訓練
「「行ってきま〜す」」
マリとルイは、朝から元気にお出かけだ。
行く先は、2人の師匠のもと。
洗礼の儀の後は、魔法が使えるようになるまで、師匠のもとで指導を受けることになっているらしい。
希望通り、剣術属性だったルイは、レオルの冒険者パーティのメンバーである、シュートおじさんが師匠。
何度かうちにご飯を食べに来たことがあるので、私も見たことがあるけど、背が高い細マッチョで、なかなかイケてるオジサマだった。
そんなイケオジは、なかなか腕も立つらしく、パーティ唯一のBランク冒険者とのこと。
ちなみに、マリがよく遊んでいるお友達のお父さんでもある。
いい人が師匠になってくれて安心だ。
一方、水魔法属性だったマリの師匠は、村のはずれに住むベテランのおじいちゃん魔術師。
冒険者を引退して結構時間が経っているらしいけど、その間に何人もの弟子を育て上げたお師匠さんの中のお師匠さん。勿論、腕も確かとのこと。
正直、マリのことは少し心配していた。
それは、希望通り剣術属性だったルイとは異なり、希望の属性では無かったから。
確かマリは、『風魔法が良い』と話していたはず。
でも、属性を聞いたレオルとアネッサが慰めると、「お母さんと違う属性の方が、家族の役に立てるから、水魔法で良かった」と、泣きそうに笑った。
······なんだこの子は!良い子すぎるじゃないか!
でも、きっと無理しているんだろうな。
「マリ!私に出来ることがあれば、なんでもするからね!」
健気なマリの姿に心打たれ、彼女のために出来ることがあれば、協力は惜しまないと誓うアリアンナだった。
余談だが、今年風魔法属性だった子は、1人も居なかったらしい。そのため、普段なら師匠役を充てられるアネッサは、今年はお休みだ。
一方盾術の名手レオルは、2人の子ども達の師匠役を頼まれたらしい。
うち1人はルイの友達。将来はルイとパーティを組むかもしれないな、と嬉しそうに語っていた。
そして、私はというと、毎日母アネッサと一緒に行動していた。
掃除、洗濯を手伝ったり、買い物について行ったりと、主に家事を手伝っている。
そして、生まれて初めて、空間魔法が役に経っていることを実感している。
掃除は、ホコリやゴミをポンポン収納して、そのまま消去。はい、簡単。
洗濯は、まず汚れがひどい洗濯物を収納して、汚れのみを消去。その後、一旦全部取り出して、アネッサが手洗い。最後に、洗濯に使った汚れた水を私が収納して消去している。
アネッサは、空間魔法のおかげで掃除洗濯の時間が半減したと大喜びだ。
だけど、一番役に立っているのは、やっぱり買い物。
「お!アリーちゃん。今日も偉いね」
「おじちゃんこんにちは!」
ここ一ヶ月程、定期的にアネッサと市場に来て、買った商品を収納していたら、すっかり有名になってしまったアリアンナ。
まだ幼いのに魔法が使える=祝福持ち=神の愛し子だと察しているであろう村の人達は、みんな親切だ。
「沢山買ってくれたから、はいコレおまけね」
「わぁ!おじちゃん、ありがとう!」
「すみません、ありがとうございます」
おまけで小ぶりのリンゴをもらった。ラッキー。
上機嫌で、リンゴとその他買い物した商品を、スッと異空間に収納する。
「入るかい?」
「はい!私、収納上手なので!」
収納の大きさは、まだ5歳のアリアンナが1人入るくらいだと説明している。
今日は結構買ったから、空間に入るかどうか心配されたが、アリアンナの空間は家一軒くらいは入る大きさだから何ら問題はない。
でも、疑われないよう、収納上手だから、と誤魔化している。こう言うと、大抵みんな「空間魔法なんてよくわからないし、そんなものなのか」と納得してくれるのだ。
稽古中のマリとルイに負けじと、日々空間魔法に触るアリアンナだった。
◆◇◆◇◆
side:ルイ
「せいっ!せいっ!」
「やぁルイ。稽古前に自主練とはやるなぁ!感心感心」
「シュートおじさん!今日もよろしくお願いしますっ!」
シュートおじさんは、父さんの冒険者パーティのメンバーで、パーティのメイン火力だ。
背が高く、細マッチョのイケメンで、正直マジでカッコいい。
武器は両手剣。その威力は凄まじく、頑丈な魔物だって一撃で真っ二つだと聞いている。
「今日の訓練では、魔法を教える。集中して聞けよ」
「はい!」
稽古を初めて半年!ついに魔法を教えて貰える!
俺にも必殺技かぁ···。最高だな。
「これから教える魔法は、【スラッシュ】。剣術では最も簡単な魔法だ」
「スラッシュ!」
シュートおじさんが、訓練中によく使っている魔法だ。
遠目で見たことはあったけど、じっくり間近で観察するのは初めてなので、ワクワクする。
「よく見ておけ」
そう言うと、シュートおじさんは、一歩前に出て型をとった。
すると、おじさんの身体が、何やらモヤモヤさしたものに包まれていく。
もしかして、あれが魔力?と思ったら、モヤモヤが一気に剣に移動した!
その瞬間。
「スラッシュ!」
おじさんが、剣を振った。
それと同時に、刃のような斬撃が真っ直ぐに飛んでいく。
ザッ
「!」
音がした方を見ると、練習用の木が真っ二つになっていた。
このスピードで、狙いまで正確なんて凄すぎる。さすがはBランク冒険者だ。
「やってみろ」
おじさんの言葉に、思わずゴクリとツバを飲み込む。
こんな技が、俺にも使えるようになるっていうのか?
そもそも、おじさんみたいに魔力を全身にまとわせるにはどうすればいいんだ?
と一瞬思ったが、その疑問は直ぐに解決した。
なぜならば、どうすればと頭の中で考えた瞬間には、もう既に魔力が体内から溢れ出していたのだ。
魔法って、やっぱり不思議だ。まるで生まれたての子どもが、誰に教えられなくても呼吸ができるように、ド素人の俺にも自然に使えるんだもんな。
と、一瞬余計なことを考えたが、直ぐに集中し直して、溢れ出た魔力を剣に移動させてみる。そして力いっぱい剣を振り下ろす!
「スラッシュ!」
······カコン
すると、木に何かが当たったような、軽い音がした。
「いいぞ、ルイ!!成功だ」
おじさんが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「せ、成功?じゃあ!」
やったぞ!!
おじさんみたいに木を真っ二つとはいかなかったけど、俺にも魔法が使えたんだ!
「あぁ、もうお前は立派な剣士だ」
【立派な剣士】
憧れのシュートおじさんからの、最高の褒め言葉。
思わず鼻がツンとする。
「も、もう一回やってみます!」
それを悟られないよう、先ほど切り損なった木の方に身体を向けた。
どうせやるなら、次こそは真っ二つにしてやる。
と意気込んだが、なんだか急に全身が重くて、その場にへたりこんでしまった。
「ルイ?大丈夫か?」
「は、はい!」
大丈夫だけど、何が起こったんだ?
「きっと初めての魔法で、疲れたんだろう。今日はもうやめておけ。にしても、初めてにしては上出来だよな。お前、才能あると思うぞ。しっかり鍛錬すれば、冒険者としていいところまで行けるかもな。頑張るんだぞ」
なるほど。初めて魔法を使ったから疲れてるのか。じゃあ仕方ない。残念だけど、おじさんの言う通り、今日はもうやめておこう。
それよりも!
俺ってもしかして才能あるのか!?
このまま努力すれば、将来はA級冒険者も夢じゃない······?
謎の体調不良に疑問を残しつつ、明日からの鍛錬に胸を踊らせるルイだった。