07 愛し子
「アリーは、どの魔法がいいかしら?」
······どうしようか。空間魔法を使えることは、いつかは打ち明けたいと思っていたけど、こんなに早くその機会が来るとは思ってもみなかった。
でも、そもそも隠すべき事ではないのかもしれないし、何より普通の子どもだったら、使えるようになった時点で、両親には嬉々として報告するよね。
だとしたら、今後も前世の記憶なんてない普通の子どもとして生活していく予定の私が、ここで報告しても何の違和感もないだろう。
もし、報告して問題があった時のことは、その時考えれば良い。
大丈夫。最悪この空間魔法があれば、荷運びの仕事をしながら、何処ででも生きていけるさ。
「今まで黙っていてごめんなさい。私、もう魔法が使えるの。空間魔法だよ」
私がそう口に出すと、アネッサは、口をあんぐりと開けて、驚いた顔をした。
レオルは、手を顔の前で組んだ体勢で、眉をひそめている。
「___ア、アリー?ちょっと待って、何の冗談?」
「冗談じゃないよ。昔、お母さんのお気に入りのハンカチが無くなったことあったでしょう?あれ、私が空間魔法で、異空間に収納しちゃってたからなの。今更だけどあの時はごめんね」
「え?いやそれは構わないのだけど。いや、そうじゃなくて!」
アネッサが、机にバンと力を入れて立ち上がった。
思いの外、その音が大きくて、3人の動きが止まった。
「アリー。証拠はあるのか」
レオルがまっすぐに見つめてくるので、私はこっくりと頷いて、そして立ち上がり、今まで自分が座っていた椅子を収納した。
「キャッ」
「······ウソじゃ···無いんだな」
「うん。機会がなくて、今まで黙っていてごめんね」
そう謝って、椅子を元あった場所に戻した。
「アリー。___君は神の愛し子なのか?」
いつから使えるのか?とか、どうやって使えることに気づいたのか?とかを根掘り葉掘り質問攻めされると思っていたから、予想外のその言葉に驚いた。
「神の愛し子?なにそれ?」
「空間魔法は祝福。魔法属性とは別物なのよ。そしてその祝福は、神から愛された者だけに与えられる特別なもの。アリー。あなた、神様に会ったことがあるの?」
「え?神様?······一度もないけど?」
神様に会ったら、さすがに覚えているはず。
アリアンナは不思議そうに答えた。
「___そうか。まぁそういうこともあるだろう。アリー、よく聞きなさい。お母さんが今言ったように、祝福は神様から愛された子どもが授かる、特別な力だ。そして、神の愛し子が居る場所は、幸せが訪れるといわれている。だから、神の愛し子は、幸運の象徴とされている」
「そうなの?じゃあ隠れて使わなくてもいいの?」
神様なんて会ったことないけど、いつの間にか愛されていた?
そんな馬鹿な、といまいち信じられないアリアンナだが、幸運の象徴ならば、レア?な魔法を使っても下手なことはされないだろうと安堵した。
「あぁ。少なくともこの村では問題無いだろう。だが、悪い事を考える奴らはどこにでもいる。だから注意は必要だし、もし村の外で魔法を使うなら、護衛を付けた方がいいかもしれないな」
「······分かった。じゃあしばらくは村の中だけにするね」
なんだかよく分かっていなさそうな、でも安心した様子のアリアンナ。それを見て、優しく微笑むレオル。
ただ、彼はまだ知らなかった。
アリアンナの特異さは、祝福持ちという点だけではないということを。
◆◇◆◇◆
side:レオル
「まさか、我が子が神の愛し子だったとはな」
「えぇ、どうするの?あなた」
どうすべきか。
神の愛し子は、幸運の象徴。故に、村の住民には好意的に受け取られるだろう。
だが、他の村や貴族なんかに目をつけられたら、最悪誘拐なんかもあり得る······。
出来るだけ、アリアンナから目を離さないようにしなければならない。
「しばらくは様子をみよう。大きくなったら稽古をつけて、自衛できるくらいには鍛えた方がいいかもしれん」
「そうね。じゃあ冒険者ギルドには?」
「報告はする。もしかしたら護衛が必要な状況になるかもしれんからな。ただ、冒険者登録はまだだ。登録時には、属性を記録されてしまうからな。もしかしたら祝福も同じかもしれん。そうなったら面倒だ」
「冒険者ギルドの登録情報は、全国で共有されているものね」
「あぁ。そういうことだ」
冒険者ギルドは、このアーレン王国が管理している国営の大きな組織だ。
その活動領域は王国全土にわたり、故にこんなへんぴな村にも支部が設立されている。
つまり、何が言いたいかというと、冒険者の情報は国の管理下にあるということだ。
その情報をもとに、有能な魔法を扱えるものや、能力が秀でているものを、王都に招集させる。なんてことがあっても、おかしくは無い。
······まぁ、こんな村の情報まで、隅々確認している者が居るとは思えないが、用心するに越したことはないだろう。
「アリーは、家族は、俺が守る。この盾に誓って」