06 洗礼の儀
「マリ、ゆっくり準備してっと置いてくぞ」
「あ、待ってよルイ。じゃあお父さん、お母さん、アリー、行ってきます」
「おぉ、しっかりな」
「2人とも、気を付けてね」
「マリ!ルイ!がんばって!」
今日は朝から、家族全員がソワソワしていた。
それもそのはず。今日、10歳を迎えたマリとルイが、洗礼の儀を受ける。つまり、2人の魔法適性が今日分かるのだ。
魔法適性は重要だ。最近知ったのだが、盾術のレオルと風魔法のアネッサは、冒険者として魔物を狩ることで生計を立てているらしい。もっとも、アネッサは現在育児に専念しているところだが。
でも両親のように、魔法適性で、将来の職業がある程度決まってしまうと言っても過言ではない。
果たして2人は、どんな魔法が使えるんだろう。願わくば、希望の魔法に適性があるといいんだけれど。
「2人とも遅いわね。何かあったのかしら」
まだ2人が出てから1時間くらいだろうか。これで遅いというなら、魔法適性の確認ってそんなに早くできるものなのかな。
と思っていたら、レオル曰く、「魔法属性の確認をして、師匠になる人に挨拶に行くんだ。今日は遅くにしか帰ってこないよ」とのこと。何だ、アネッサの心配性が出たのか。
それに、初めて知ったことだが、魔法適性が分かったら師匠がつくのか。なんだか面白そうだね。
◆◇◆◇◆
レオルの言う通り、ルイ達は昼を過ぎてもなかなか戻ってこない。
両親はいつまでもソワソワしているが、待ち疲れたアリアンナは少し退屈してしまっていた。
ついに、時間を持て余したアリアンナは、今この時でも当たり障りのない魔法の話を振って、ルイ達の帰りを待つことにした。
「ねぇお父さん、お母さん。魔法適性の確認ってどうやるの?」
「あぁ。アリーにはまだ教えて無かったな。魔法属性の確認はね、水飲式という方法が使われているんだよ」とレオル。
「水飲式?」
「えぇ、言葉通り、水を飲んで確認するのよ。ただし、特殊な水をね」
知らない単語に、頭上に大きなハテナが浮かんだアリアンナのために、アネッサが噛み砕いて説明してくれた。
「魔法属性は大きく分けて3種類に分けられる。武術、魔術、そして生産だ」
「お父さんみたいな盾術とか、ルイが欲しがっていた剣術とか棒術ね。それでお母さんの風魔法は魔術。生産は、大工とか鍛冶とか料理とか。珍しいものだと錬金とかがあるわね」
「へぇ〜」
「水を飲んで、辛いと感じたら武術、甘いと感じたら魔術、何も味がしなければ生産に適性があると言える。ここで大まかな属性が分かったら、それぞれのグループに分かれる。次に飲むのは、自分の属性の時だけ美味しく感じる水だ」
「武術グループの子なら、最初に剣術属性がある子だけ美味しく感じる水を飲むの。美味しく感じたら、その子は剣術属性ね。次に、剣術属性が無かった子達に、今度は盾術がある子だけ美味しく感じる水を飲んでもらうの。その繰り返しね」
「だから水飲式」
じゃあ、マイナーな適性だと、何杯も水を飲むことになりそうだ。私の空間魔法も、大工や鍛冶に比べると、きっとマイナーだよね。
なんだかお腹がたぷたぷになりそうだと、もう5年後の自分の水飲式を心配するアリアンナだった。
アネッサは、その時を想像しているだろう、お腹をさすりながら眉を歪ませる我が子を愛おしそうに見つめた後、フッと顔を綻ばせ尋ねた。
「うふふ。アリーは、どの魔法がいいかしら?」
◆◇◆◇◆
side∶ルイ
「では、みんなには、まずこの水を飲んでいただきます。辛く感じた子は、左手の女神像前に、甘く感じた子は、右手の本棚前に、味がしなかった子は、この場に残ってください」
父さんに聞いていた通りだ。この村での洗礼の儀は、水飲式で行われる。この水を飲むことで、俺の魔法属性が分かるんだ。
まず狙うは武術。俺も父さんと一緒に、魔物狩りがしたい。いざという時、村のみんなを守って、それで······。
水が入ったコップが手渡された。
そして、勢いよく飲む!
「······かっ辛〜!コホコホッ」
辛すぎて思わず咳こんでしまったけど、どうでもいい!まずは武術属性。順調だ!
意気揚々と女神像前に向かう。
チラリと後ろを振り返ると、マリが右手の本棚前に移動していた。あいつも希望通り魔術属性か。
全体の半分よりちょっと少ないくらいが、武術属性で、人数的には一番多い。次が生産属性で、一番少ないのが魔術属性だった。一番少ない魔術属性を引き当てたのか、アイツなかなかやるな。
「ここに集まった皆さんには、武術に属性があります。武術には、剣術、盾術、棒術、弓術、拳術等がありますね。次に飲んでいただくのは、······」
教会の長い説明がようやく終わり、また水が手渡された。
要は、次飲む水が美味ければ剣術属性といいことらしい。
周りを見渡すと、何人かがもう既に飲み終えているようだ。「何の味もしなかったよ〜」という声も聞こえた。
俺を含め、普段遊んでいる剣術希望の奴らは、まだ動けていない。当然だ。これで味がしなかったら、この場で泣き崩れる自信あるぞ、俺は。
「俺、飲んでみる」
だが、ここは先陣を切って、水に手を伸ばすことにした。大人になって魔物と闘うときも、先陣を切って道を切り開く剣士になりたいからだ。
「お、おぅ」
友達が固唾をのんで見守る中、俺は、先ほど同様、勢い良くガッと水を傾けた。
飲み方によって属性が決まるなんてことは無いだろうけど、さっきこの飲み方で希望通り武術属性だったし、願掛けみたいなもんだ。
グイッ
「······どうだ?」
「んん〜、美味い!」
何だコレ!?
涙が出そうなくらい美味いぞ!
なんというか、肉肉しい味だ!
念願の剣術属性は、いつも食べているものより数段美味い、高そうな肉の味がした。