37 Aランクパーティ
先週は知恵熱が出て、更新お休みさせていただきました。
第2章もあと数話。ゆっくりお付き合いいただけると幸いです!
アリアンナ誘拐未遂事件から一ヶ月。あの事件の犯人は、まだつかまっていない。
そんな状況下、両親が過保護になるのは必然のことで、アリアンナは、単独行動を控え、窮屈な生活を送っていた。
外に出るときは、必ずレオルやアネッサ、シュートおじさん等について来るのだ。
仕方ないことだとは思いつつ、本当はフェイスパックの改善やら新しい製品の開発やらをしたかったのに、という不満を抱く日も多い。そしてそんな鬱憤を、ダンジョンでの活動で発散させた結果、なんと空間魔法による攻撃の腕が上がった。今では、一日で数体のスライムを討伐し、素材をたんまりと集めて帰っている。
素材は鮮度が命。
まだスライムしか刈れないアリアンナと違い、素材に価値がある魔物も討伐する両親は、その素材を卸すため、毎日冒険者ギルドに向かう。
そしてそれは、その素材を空間に保管しているアリアンナも一緒だ。
ギルドに着くと、受付のグレイスさんが手を振ってくれた。
アリアンナ誘拐未遂事件で、村長の遣いを名乗る者に伝言を頼まれ、レオル達が負傷したという偽の情報を掴まされたグレイスさん。
その時の対応がギルドで問題となり、減給の処分となってしまったらしい。
どうやら伝言の真偽を確認しないまま、子ども達に会ってしまったのが不適切だと判断されたようだ。ギルドのマニュアル上、真偽不明な場合は、ギルド職員が情報の確認を行うことになっている。それを遵守せず、危うく子ども達に危害が及ぶ所だった。そういった理由での処分らしい。
あの日、グレイスさんは非番だったようで、完全に巻き込まれた側の人だと思うのだが……。
意外と異世界の冒険者ギルドの規律は厳しい。ざっとしていそうなイメージなのに。
後日、グレイスさんやその上司であるユーリさん達に深々と謝罪されながら、そんなことを思った。
そんなこんなで、以前より話す機会が増えたことで、親しくなったグレイスさん。
受付嬢によって素材の買い取り価格が変わるなんてことはないけれど、どうせなら親しい美人に査定してもらいたいというのは、子どもでも変わらない。
両親がギルド長と話をする間、素材の納品を頼まれたアリアンナは、真っすぐお目当ての美人の列に並んだ。
「グレイスさんこんにちは。素材の納品に来ました」
「いらっしゃい。まぁ上質な素材がこんなに沢山。さすがレオルさんのパーティね。助かるわ」
「フラウアも大量ですよ」
「この薬草はアリアンナちゃんね。ギルドは常に薬草不足だから、とってもありがたいわ」
はぁ。癒やされる。
美人の優しい笑顔に、ほわほわと凝り固まった何かが解きほぐされる。
「よぉ、お嬢ちゃん、何だか大変だったんだって?」
そんな癒やしの時間が、誰かによって強制的に終わってしまった。
「えっと確か……」
声の方に振り返ると、いつか助けてくれたAランクパーティの彼だ。名前は確か。
「ブラッドだよ」
「お久しぶりです。ブラッドさん」
「あぁ、会えて嬉しいよ。でもこんな所で君を見つけられるだなんて、今日は運がいいな」
床にしゃがみ、アリアンナと視線を合わせながら言う。
「でも話を聞いたときは驚いたよ。お嬢ちゃんがまさか神の愛し子だったなんてな。俺たちは隣町のもんだからさ、知らなかったんだよ」
「有名な話だと思いますけど、それが何か?」
アリアンナは身を固くした。
命の恩人を疑うのは良くないと思うが、自分が狙われる理由として思い当たるのは、この三つだ。
・化粧水、米ぬか石鹸等の商品
・空間魔法
・神の愛し子
この時期に、これらの関連で接触してくる人が居るとしたら、疑うのは無理もないだろう。
「いや。でも大変だよな。犯人の目的は、一体何だったんだろうな」
「さぁ。それは私にも分かりません。でも、神の愛し子だからって、特別なことは何も無いんですよ」
そもそも、空間魔法が使えるから神の愛し子と言われているだけで、正直アリアンナが神の愛し子であるのか怪しいところである。本当にそうなら、アリアンナを攫おうとした者たちに天罰が下っても不思議ではないが、今のところそんな話は聞いていない。
「ほう。じゃあ空間魔法は特別なことではないと?」
「それほど使い勝手の良くない魔法ですよ」
もし自由に魔法を選べるとしたら、マリの水魔法が良かった。ダンジョン攻略でも、私生活でも活躍する汎用的な使い方ができる便利な魔法だ。
そう思っていたら、頭のはるか上からため息が聞こえた。
「はぁ。君は世間知らずだな。まぁ、洗礼式前の子どもだし、それも仕方ないのか。いいかい、アリアンナちゃん、君がもし、洗礼式を終えて、立派な大人だったとしたら、俺は今すぐ君をパーティに誘うだろう」
「私を? スライムくらいしか倒せませんけど」
「分かってないな。アリアンナちゃんは、なぜAランクパーティである俺たちが、最も難易度が低いとされる薬草ダンジョンの攻略に手こずっているか想像したことはあるか?」
「それは……無いですけど。やっぱり地下深くに行けば行くほど、魔物が強くなるとか?」
「敵が強すぎるんじゃない。ダンジョンが広すぎるからだ」
「あぁ。そういえば看板とか置けないんだっけ。でもそれと空間魔法に何の関係があるのか、私にはさっぱり」
「関係大ありだ。俺たちの問題は他でもない。百階層まであるというダンジョンを攻略するまで、水と食料の補給が出来ないということだ。だが、空間魔法があれば、攻略するまでに必要な物資を、全て持ち運ぶことが出来る。それも簡単にな」
「要するに、ただの荷物持ちってことですね」
「ただの荷物持ちって。全ての高ランクパーティが求める人材なんだがな。ただ俺たちも鬼じゃない。子どもを何日もダンジョンに連れ回すなんて真似、できればしたくない。だから、提案だ」
ブラッドさんは、会うたびいつも笑顔だった。だから、そんな人の真顔がこんなに恐ろしいとは、想像だにしていなかった。
鋭い視線に見下ろされながら、アリアンナは、蛇に睨まれた蛙のように固まったまま、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「アリアンナちゃん。君、マジックバックを作ってみないかい?」




