35 事件①
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「アリー。今日は何して遊ぶ?」
石鹸と空間魔法を駆使して綺麗に洗った洗濯物。そのシワをパンパンと伸ばしながら、マリが言った。
「そうだなぁ。私は今日は家でゆっくり過ごすよ」
同じくシワを伸ばし、洗濯物を物干しに干しつつ返事をした。
今日は、両親ともに朝早くからダンジョンに出掛けている。夕方には帰ってくると言っていたから、自由に過ごせる時間はあまりない。
マリには悪いが、アリアンナには、両親、とくにアネッサが居ない間にしておきたいことがあった。
「えぇ。そうなの~? ルイも出掛けちゃったし、暇だなぁ」
寂しそうなマリに罪悪感を覚えながら、さくっと掃除・洗濯を終え、ひとり部屋に閉じこもる。
そして自身の空間から、あるものを取り出した。
「食品用ラップに、シリコン風お弁当箱、それからフェイスパックね」
無価値とされたスライムゼリーの素材で、何か作れないか。そこから始まった新しい製品作り。
スローライフを目指して地盤固め中のアリアンナは、トラスト商会さんと協力し、化粧水と石鹸の販売をしている。有難いことに、商品の売上は好調だ。
ただ、この商品だけでアリアンナの理想のスローライフを完成させるのは難しい。
なぜなら、ザコクの精米も、ツバキ油の抽出も、現状アリアンナの空間魔法が不可欠だからだ。精米機等を再現できればいいが、前世で普通の会社員だったアリアンナにそんな知識はない。
故に、アリアンナが原料を準備して、サングリアさんに錬金を依頼して、トラスト商会に商品を卸す。このサイクルは永遠に続く。収入を得るためには、アリアンナは、この地を離れられないのだ。
アリアンナが目指すスローライフは、好きな時間に目覚め、一日自由に過ごす。たまにきまぐれにふらっと旅に出て、大自然に触れる。
そんな自由な生活で、伝書鳩のような多忙な生活ではない。
そう考えると、目指す収入源は、空間魔法に依存しないものが良い。
前世でいう、印税やライセンス料のようなものだ。
誰もが入手できる素材で、何か有用な物を作って、その権利を売る。それがベスト。
そこで目をつけたのが、簡単に入手できる素材、スライムゼリーだった。
スライムゼリーの長所は、弾力性の高さ。そして、衝撃にも強く、高い位置から落としても衝撃を吸収することができる。一方、鋭い刺激に弱く、剣先が触れると簡単に破れてしまうという脆さもあるそうだ。
この特性を前提に、前世の商品を何か再現できないかと考え、新商品のアイデアを十個ほど伝え、その錬金をサングリアさんにお願いしていた。
何故前世の商品に絞ったかというと、今世で使われているものは、すでに研究しつくされていると考えたからだ。以前ルイも似たようなことを言っていたし。
それに、今世に存在しない商品を錬金できた方が、より高値で商品が売れて、スローライフにまた一歩近づくのではないか。そんな思惑もあった。
そしてその結果、納品されたのが、この三点というわけだ。
「食品用ラップは、思ったよりかなり分厚いね。ラップというより、蓋みたいな感じだ。でもこれなら乾燥は防げるね」
意図が上手く伝わっていなかったのか、想定より分厚くなってしまったラップ。ただ、洗って繰り返し使うということを考えたら、分厚く破れずらい方がかえって良かったかもしれない。
「お弁当箱は思ったとおりだ。使い終わったら小さく折りたためるし、荷物が多い冒険者にはうけるかも」
折りたためるお弁当箱は、見た目は完璧だ。あとは性能に問題がないかの確認。
今日のうちに、ごはんとからあげをつめておいて、翌日も美味しく食べられたら大丈夫だろう。
「でも、たとえ問題なかったとしても、トラスト商会さんに売るのは微妙だよね。かといって、他に信頼できる商会さんを探すのも大変だなぁ」
装飾品をメインに取り扱っているトラスト商会。
ラップやお弁当箱は、いくら何でも管轄外すぎる。かといって過去にセコーイ商会と揉めた経験のあるアリアンナにとっては、他の商会を探すという行為も億劫だった。
「食品用ラップとお弁当箱は、しばらくは様子見だね……。さてと」
最後の商品を見つめる。
唯一、トラスト商会での販売が見込めそうな商品。
化粧水が満ちた瓶の中から、真っ白なフェイスパックを取り出す。
「これも思ったより分厚いね。ちゃんと顔に貼りつくかな」
ラップ同様、厚めな印象。自重で床に落ちてしまわないか、少し気になった。
しっかりと化粧水を吸収しているようで、持ち上げたフェイスパックから、化粧水が滴り続ける。
「化粧水を入れすぎだね。化粧水は、今の一割くらいにしよう」
しばらく摘まんだまま待っていると、滴るスピードが落ちたため、床を汚さないよう顔を近づけて、フェイスパックを顔にあてる。
「気持ちいい~」
実際につけてみると、分厚さも気にならず、また顔に密着してずり落ちることも無かった。
ただただ、冷たくて気持ちが良い。それだけだった。
「アリー? 何しているの?」
「あ、マリ」
あまりの気持ちよさに少しうとうとしていると、どこかに出掛けていたであろうマリが帰宅した。
「し、死神!? だ、だれか助けて」
「待ってよマリ。どうみても私でしょう?」
フェイスパックをつけたまま返事をしてしまったからか、アリアンナのことを死神と勘違いして、手に持っていた長ネギを振りかざすマリ。
にしても死神なんて失礼なと思いつつ、パックを外してマリを落ち着かせる。
「……なんだ。アリーだったんだ。私、びっくりして心臓止まるかと思った」
「こんなところに死神が居るわけないじゃん」
「だって、顔が真っ白だったんだもん」
「そういえば、死神は真っ白な顔をしているって言ってたね」
「うん。だから死神が出たって咄嗟に慌てちゃったの」
長ネギを振り回すマリを思い出して、アリアンナは「ふふふ」と笑った。顔が真っ赤になるマリ。
「もう! 何で笑うの?」
「ううん。もしかしたらね、実は死神も錬金術師で、フェイスパック貼っているんじゃないかって思ってね。だとしたら死神は、私にとっては商売敵だね」
笑っては可哀想だと、とっさに話題を変える。
「もうそんなわけないじゃん! それで、それってもしかして、新しい商品?」
やはり小さくても女の子。マリにとっては、目の前の美容品の方が気になるようだ。
「そうだよ。今確認中だったの。完成したらマリの分も用意するね」
「うん。楽しみ」
その一言ですっかり機嫌を直したマリに一安心。
「そういえば、食材買ってきてくれたんだよね。一緒にご飯作ろう」
「そうだね。お母さん達が帰ってくる前に、パパっと作っちゃおう」
無心で料理を作りながら、フェイスパックの改良点を考える。
(とりあえず、分厚さの調整と、適切な化粧水の確認が必要だね)
自分のことばかりで、やりたいことに無我夢中。
そんなのんきなアリアンナは気づいていなかった。
「大変よ! 誰か家に居ないの? マリちゃん! ルイ君! アリアンナちゃん!」
「グレイスさん、そんなに慌ててどうしたの? ルイは遊びにいってるよ」
バタバタと訪れたのはグレイスさん。冒険者ギルドの職員さんだ。
フラウア祭りの時に、ユーリさんと一緒に、アリアンナ達のご飯を美味しそうに食べてくれた綺麗なお姉さん。そんな皆の憧れの女性が、髪を振り乱してこの家を訪れた。
アリアンナは、緊張で身体が強張った。
「そう。ふたりとも、落ち着いて聞いてね。……ご両親が、ダンジョンで怪我をしたそうよ」
自身を取り巻く状況の変化に。




