34 多忙なスローライフ
2026年1月18日、連載中注目度ランキングで82位をいただきました!
ありがとうございます!
ダンジョンアタックを経験して、アリアンナは悟った。
私に魔物討伐は向いていない、と。
以前アネッサが言った、『攻撃は最大の防御』という言葉は正しいと思う。
だが、人には向き不向きがある。
ルイのように、強敵にも躊躇わずに突撃できる才能があればその言葉は正しいが、動きが鈍いスライムでさえも気を失いかけたアリアンナには当てはまらない言葉のようだ。
正直、下手に攻撃しようと前に出るよりも、後衛で安全確保しながら、パーティのサポートをする方が、まだマシだと思う。
そう結論付けたたアリアンナは、やはり当初の予定通り、身を守る術を増やすという方向性で空間魔法の活かし方を考えることとした。
それはさておき、今世ではスローライフを目指しているはずのアリアンナは、何故か齢九歳にして、既にその辺りの大人以上に多忙を極めている。
理由は、トラスト商会に卸す商品の製造のためだ。
アリアンナが化粧水と米ぬか石鹸を卸し出してからというもの、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで成長中のトラスト商会。
顧客もどんどん増えているが、それ以外には以上に貴族等の有力者の客の増加が著しいらくし、アリアンナへの商品の要求も多くなってきた。
化粧水の方は、安価でかつ入手が容易いザコクがあればいいので、比較的簡単に作れるからまだいいが、石鹸は、原料となるツバキの種には限りがあるし、作るのに時間もかかるし、そのうえアリアンナ一人では最後まで作れない(サングリアさんの錬金術で仕上げてもらっている)ということで、アリアンナにとっては、あまり旨味が無い商品となっていた。
だからこそ、先日のダンジョンアタックでは、石鹸に代わる新商品の開発に使えないかと、唯一入手した素材であるスライムゼリーを持ち帰ってきたのだ。
「サングリアさ~ん」
そして今日、もはや週の半分は訪れている気がするサングリアさんのお店【ガルニエ】を訪れていた。
「あぁ。いらっしゃい」
お茶を飲みながら返事をするサングリアさん。
元々親切な人だったが、長く通ううちにすっかり壁が無くなった。……ような気がする。
「今日はおみやげがあるよ」
お土産とは、ルイ曰く何にも使えないというスライムゼリー。
……ではなく、ダンジョンで採ってきた薬草だ。
「おぉ。これはマヒナだね! もらっていいのかい?」
「うん。好きに使っちゃって」
マヒナというのは、フラウアと同じく薬草の一種だ。
ただ、フラウアとは異なり、ダンジョン以外の場所で自生することは滅多にないらしく、欲しい場合はダンジョンまで足を運ばなくてはならない。
ただ、薬草ダンジョンでは、地下十一階層以降で採集できるらしく、それほど珍しいものではないようだ。ただし、如何せんフラウアと同じく背丈が高く、ダンジョンの外まで持ち運ぶことが面倒なため、市場に出回ることは少ないようだ。
そしてそのマヒナの効果はというと。
「これで、麻痺薬、……じゃなくて、麻痺回復薬が作れるね」
「うん、上手くできるといいね、麻痺回復薬」
怪しげに笑うサングリアさん。
麻痺回復薬よりも、優先して麻痺薬を作りたそうにしていて少し怖いが、喜んでくれて良かったと思うアリアンナだ。
それから、仕上げをお願いしていた石鹸を大量に納品してもらって、その倍くらいの石鹸の仕上げをお願いした。
サングリアさんは苦笑いで、「まぁ、私は儲かって助かるけどね。でも、魔力が足りるかねぇ」とボヤきながらも、仕事を引き受けてくれた。
その様子を見て申し訳なく思いながらも、本日の本題を口にした。
「あと、こういうのって作れないかな?」
スライムゼリーを両手で抱えながら、いくつかのアイデアを口にするアリアンナ。
「はぁ。あんたって子は。どうしてそんな突拍子もない案をポンポン思いつくのかねぇ」
前世の記憶を持ったアリアンナにとっては、『思いつく』というより、『思い出す』に近い感覚なのだが、そうとは知らないサングリアさんは、驚きを通り越して呆れている。
ただ、最後には、「分かった。でも少し時間をおくれ。私はあんたと違って、それほど魔力は多くないんだ」と言ってくれた。
少し項垂れているように見えなくもないサングリアさんの背中に向かって、「ありがとう!」と大きくお礼を言うと、アリアンナに背を向けたまま片手を上げて、部屋の奥にすたすたと歩いていった。
きっとそこに工房のような部屋があるのだろう。
もし今回のアイデアが上手くいったら、サングリアさんにはもっと特別なお土産を持参しないとなと思うアリアンナだった。




