33 いざダンジョンへ③
今年もよろしくお願いします。
スライム。それは、前世でもお馴染みの魔物。冒険者の始まりの町に出現するような、腕の中にすっぽり収まる程度のか弱い魔物。それがアリアンナが描くスライム像だった。
だが、目の前のこれはどうだ。
腕の中に収まるどころか、アリアンナの背丈よりも、何ならレオルよりも大きな物体。これがスライムならば、到底勝てる気がしない。
「落ち着きなさい、アリー。練習するんだろう」
だが、アリアンナのそんな心の中を知らないレオルは、盾でスライムを抑えながら、「どうした? 練習しないのか?」という顔でこちらを見てくる。
無理もない。レオルにとってのスライムは、このサイズなのだ。アリアンナが手のひらサイズの魔物を想定していたとは、夢にも思っていない。
「大丈夫。的が大きいということは、命中させやすいということだから。お父さんに当たらないように気を付けながらやれば大丈夫。……多分。ええぃ!」
勢いに任せて、無数の小石をスライムの頭上に取り出す。が、スライムの柔らかいボディに跳ね返されて、パラパラと地面にむなしく落ちてしまう。
「え。なんで!?」
「どうやらその大きさでは効かないみたいだな」
「こんなに大きいと思って無かったもんなぁ。じゃあこれはどうだ」
そういって取り出したのは、先程の百倍はありそうな石。もはや石というより、岩だ。
そのゴツゴツした岩をスライムの頭上に落とすと……。
ベシャ
◆◇◆◇◆
「もうやだ。まだスライムの体液が身体にまとわりついてる気がするよ」
ダンジョンから戻り我が家にて。温かいタオルで、身体を入念に拭きながら、今日の出来事を思い出す。
あの後。巨大スライムに、収納していた大岩を見事にぶち当てた。しかし、喜ぶ間もなく、ベシャという嫌な音とともに、スライムが破裂して……。
「おおげさだなぁ」
思い出して涙目になるアリアンナに、マリが笑う。
「だって、目の前でスライムが破裂して、体液が大量に身体にかかったんだよ」
破裂した衝撃で、スライムの中身? であるドロドロとした粘着液が身体に降ってきた時は、気を失いそうになった。スライムの体液なんて、全てを溶かしたって不思議ではない。
実際には、ただ気持ちが悪いだけで、人体には無害らしいけれど、それでももうあんな思いはしたくないと思った。
「アリーは収納が使えるから、まだマシな方だよ。普通はあの体液が付いた状態のまま、ダンジョン攻略を進めるんだから」
「うえ~本当に? 信じられない」
一度かかっただけで気を失いそうだったのに。あれが身体にまとまりつつなんて、まともに行動できそうもない。魔物との戦闘なんて、もってのほかだ。
「まぁだから、強い冒険者はスライムとの戦闘は避けるんだけどね。スライムから取れる素材は、価格が付かないし」
なるほどな。そりゃ汚れるうえに、素材も価値がないとなれば、避けて通る方がいいだろう。
アリアンナは大きく頷いた。
「そう言えば、やっぱりこれって買い取ってもらえないんだね」
空間の中から、本日の戦利品のひとつである、プルプルの物体を取り出した。
体液を全部放出した後の、スライムの亡骸だ。
レオルに「それはダンジョンに置いていきなさい」と言われた時点でだいたい察しはついていたけれど、やっぱりスライムの素材は価値がないみたいだ。
「あ、持って帰ってきたんだ」
「うん。何かに使えたらと思って」
アリアンナがスライムの素材をポンと嬉しそうに叩くと、マリは眉を下げた。
「スライムゼリーか」
ちょうど身体を拭き終えたところで、どこからか現れたルイ。アリアンナの手元を身ながら、少し得意げに語った。
「そんなのみんなが試してるさ。で、結果、何にも使えないって話になったから、ギルドでも買い取ってもらえないんだ」
「そうなんだ……。じゃあ仕方ないね」
そう言いつつも、何故か気になるスライムゼリー。
何だろう。いつだったか、どこかでこれを見たことが、触ったことがあるような気がして。
「気になるなぁ」
プルンとした見た目のわりに、意外と固さのあるそれを、指でつついた。




