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31 いざダンジョンへ①


 色々なことが起こった一日。いつもより遅い時間に帰宅したアリアンナ達を心配そうな面持ちで待っていたのはレオルとアネッサだ。

 

 両親の顔を見た途端、張りつめていた緊張の糸がぷつりと切れた。アリアンナと双子は、その場に崩れ落ちるように泣き出し、声を詰まらせながら今日起こった出来事を必死に伝えた。


「そうか。そんなことがあったのか」


 腕を組んだまま、険しい表情で息を吐くレオル。抑揚こそないが、そのいつもより一段低い声から、激しい怒りを抑え込もうとしているのだと分かる。


「とにかく、あなた達が無事で良かったわ」


 アネッサは、子ども達の悲痛な話を聞きながら目に涙を浮かべていたものの、最後には「無事に帰ってきてくれて良かったわ」と、胸に手をあててほっと安堵した。



 今日は疲れているだろうからと、半ば両親に追い立てられるように布団へもぐりこむ。膝を抱えるように布団の中で蹲ると、意識を失うように一瞬で寝てしまったアリアンナ。そしてそれは、双子も同じだった。



 そのスヤスヤと深く眠っている姿を確認すると、音を立てないようその場を離れたレオルとアネッサ。ふたりは、子ども達を起こさないよう、極力声を抑えて話し合いをはじめた。


「あなた、ダンジョンの外で魔物が確認されたのって、いつぶりかしら?」

「分からん。少なくとも、俺たちが冒険者になってからは初めてだろう」

「そうよね。ねぇあなた、明日村長に相談しましょうよ。……何だか嫌な予感がするの」

「あぁ、その方がいいだろうな」


 






 翌日、アリアンナは両親にあるお願いをした。


「お父さん、お母さん、私に魔法を教えて! 昨日思ったの。自分の身は、自分で守れるようにならなくちゃ駄目だって」


 珍しく朝からふたりで出かけていたレオルとアネッサ。ふたりがやっと帰ってきたところを捕まえての行動だった。


 一瞬、驚いた顔を見せたアネッサだったが、すぐに優しい表情を作った。


「そうね。アリーが魔法の練習をするというのは、お母さんも賛成だわ。でもね、ごめんなさいアリー。お父さんもお母さんも、空間魔法のことはよく分からないのよ」

「そっ、そうかぁ」


 期待に満ちていた気持ちが、しゅんと萎むのをアリアンナ自身も自覚した。そんな彼女の右肩に、そっと温もりが触れる。ゴツゴツとした大きな手。

 思わず見上げたアリアンナの瞳が、優しい笑みを捉えた。


「でも、一緒に考えることはできる」

「お父さん!」


「そうね。それならばお母さんも協力するわ!」


 アリアンナの左肩を抱くアネッサ。


「空間魔法で何が出来るか、色々と試してみよう」

「ありがとう!」




 まずアリアンナが考えたのは、魔法を収納する力、これの強化だ。極論、これが常時できるのであれば、アリアンナは魔法に対して無敵の存在となる。


 しかし、そんな非常識な存在に出会ったことがないレオルは、たとえそれが我が子の言葉とて、いまだに信じられずにいた。


「魔法を収納できるなんて、そんなことができるのか……?」


 


「そうだよね。こんな話、信じられないよね」

「いや、アリーのことを疑っているわけじゃないんだよ。ただ、そんな話を聞いたのは初めてで、父さんも混乱しているんだ」


 慌てて言い訳のような言葉を口にするレオル。だが、それもそうだとレオルの考えも理解できるアリアンナは、そんなことは気にせず、まずはふたりの目の前で魔法を収納してみせることにした。



「ねえお母さん。何か魔法を出してよ。収納してみるから」

「えぇ、いいわよ。じゃあ危なくない魔法ね。そよ風とかでいいかしら」


 頷いたアリアンナを確認すると、アネッサが優しい風を放った。その風に乗って、土埃が舞う。


「こんな感じ」

 その土埃ごと風を収納してみせたアリアンナは、得意げにそう言った。


「ほんとだわ!」

「なるほど。確かにこれは……」


 昨日は咄嗟に身体が動いて収納できただけで、特に練習していたわけでは無かったので、上手くいってホッとしたのは内緒だ。


「これはすごい力だぞ、アリー!」

「そうでもないよ。だって、サーペントウルフに襲われた時は、何も出来なかったもの」


 そう。何も出来なかったのだ。あの時、レイさんが居なければ、子どもたちの誰かが怪我をしていたに違いない。そう思うとぞっとした。



「なるほど。確かにサーペントウルフは魔法を使わないものね」

「うん。だから、魔法を収納する以外にも、何か身を守る術を身に着けなくちゃって思うんだけど」


 それ以外の方法。

 ただでさえ情報量が少ない空間魔法だ。特にいい案も浮かばず、考え込む三人。



「アリー。こんな言葉を聞いたことはない?」


 沈黙を破ったのはアネッサだった。


「?」

「攻撃は最大の防御」


 あるかと聞かれれば、何度か耳にしたことがある。でもそれは今世ではない。前世において、特にスポーツなんかの場面でよく耳にする言葉だ。


 魔物や悪意を持った人間に対峙した場面で使うには、違和感がある言葉だと思うけれど、それはここが異世界だからか、それとも両親が冒険者だからなのか。


 考えを巡らせながらも静かに頷いたアリアンナを確認し、話を続けるアネッサ。


「アリーが積極的に、魔物を攻撃する必要はないと思うわ。ただ、万が一襲われてしまった時に備えて、何でも良いのだけど何か武器になるもの。例えば大きな石だったりを収納しておいて、それを魔物の頭の上に取り出すだけでも充分な牽制になる効果と思うの」


「……なるほど。それなら私にもできそう。どうせなら形を整えて、石包丁っぽくしようかな」


「何もなかった場所から、いきなり無数の包丁が降ってくるとは……。なんて恐ろしい光景だろうな」


 冗談で言った案だったが、その光景を想像して顔をしかめるレオル。その表情を見て、この案は味方に悪影響がありそうだし却下かな、と思うアリアンナだった。


「包丁は冗談として、動く魔物に上手く石をあてられるか、一度試してみたいな」

 

 一応、目的は牽制なので、命中しなくても効果はあるのだろうが、精度は高ければ高いほうがいいだろう。


「そうね。じゃあ行きましょう」


 アネッサの言葉に、レオルも頷いた。

 よく分かっていないのは、どうやらアリアンナだけのようだ。


「行くってどこへ?」


 返ってきたのは、まさかの言葉だった。


「もちろん、ダンジョンよ」


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