02 物は試し ステータスオープン
「ただいま」
7日ぶりに、父レオルが家に帰ってきた。
「おかえりなさい、あなた」
「父さんおかえり〜」
その姿に、母アネッサと兄ルイが嬉しそうに出迎える。
「おかえりなさい!」
遅れて気付いた姉のマリも、レオルに抱きついて出迎える。
マリを抱き上げたレオルは、満面の笑みだった。そりゃそうだ。久しぶりに会えた妻とかわいい子ども達に、こんな風に出迎えてもらえたら嬉しいだろうね。
あまり家に居ない父だが、家族仲は悪くなさそうで安心した。
「ははは。マリもルイも母さんもただいま。元気だったか」
「うん!」
マリが元気に返事をする。全力でかわいい。
一方、マリと双子のルイは、頬をポリポリしながらその様子を見ていた。大好きなお父さんに抱きつきたいけど、気恥ずかしいのだろう。
これはこれでかわいい反応だなぁ、とアリアンナは微笑ましく思った。
「お父さんも帰ってきたことだし、さぁご飯にしましょ。マリ、ルイ、手伝って。あなたは水浴びでもしてきたら?」
アネッサが、パンパンと手を叩く。
「あぁ、ありがとう」
レオルが水浴びをしている間に、ルンルンで食事の準備をするアネッサ。あぁ、アネッサはレオルの事が大好きなんだなぁと、見ていてなんだかホッコリした。
マリとルイも、お皿の準備をしたり、サラダを取り分けたり、テキパキとお手伝いをしている。偉い子たちだ。
そうこうしているうちに、美味しそうな香りが漂ってきた。
丁度いいタイミングで、レオルが水浴びを終えて戻ってきたので、このまま夜ご飯をとるようだ。
「今日の夜ご飯は、角うさぎのスープよ」
「おぉ、うまそうだ」
レオルは口数こそ少ないが、美味しそうにガツガツ食べている。
ルイとマリも、おしゃべり無しで一心不乱だ。
「アネッサ、風をくれないか」
半分くらい食べ進めただろうか。レオルが風を求めた。
よくみると、全員じわりと汗をかいている。スープが熱かったのかな?
「ええいいわよ」
出た!魔法だ。
アネッサが呪文を唱えると、その手から風が吹いたのだ。
「ありがとうアネッサ」
ふと疑問に思った。何故レオルは、自分で風を出さなかったんだろう?
魔力切れ?それとも何か別の理由が?
もしかして『おいお前、メシ』的な、亭主関白な行動のかとも思ったけれど、ありがとうと感謝の言葉を口にするあたり、違う気がする。
「いいなぁ〜お母さんの風魔法。私も早く魔法使いたいよ」
マリはアネッサの魔法が羨ましいらしい。気持ちはわかる。正直私も羨ましい。
「10歳までの辛抱よ。2人とも、来月で7歳になるし、あと3年じゃない」
3年なんてあっという間よ、と言ったアネッサは少し残念そうだった。
「マリも風魔法が使えるといいな。それでルイはどうだ。どんな魔法がいいんだ」
「俺は父さんみたいに、武術がいいな。剣術とかカッコいいと思う」
レオルの問いかけに、ルイは気恥ずかしそうに、だが正直に答えた。
「そうね。お父さんの盾術はカッコいいのよ。お母さん、お父さんが盾術のスキルで魔物からみんなを守ってくれた時に、この人となら結婚したいなって思ったんだから」
家族の会話を微笑ましく聞いていたアリアンナだったが、アネッサの惚気話の中に仕込まれていた爆弾に思わず耳を疑った。
魔物?今魔物って言った?
え?この世界、魔物が居るの?じゃあ気軽に外にも出られないじゃない。
というか、ルイは頻繁に1人で外に遊びに行くけど、それって大丈夫なの?
「へぇ〜。お父さんカッコいいね!」
「やるなぁ〜」
衝撃を受けたアリアンナと違い、マリやルイに動揺した様子はない。彼らはきっと、魔物の存在を知っていたのだろう。
魔物が居る。新事実はそれとして、その他にも、今の会話で分かった事がある。
どうやら、父レオルは盾術のスキル、母アネッサは風魔法が使えるようだ。
マリとルイはまだ使えないけど、10歳になったら何かがあって、それで魔法が使えるようになる可能性がある。
······ということは、私も10歳になったら使えるようになるのかな。
10歳、10歳か。
まだ1歳にもなっていないのに、随分先だな。
あ〜。私も早く魔法使いたいなぁ。
「おぎゃあ」
その願望が、思わず口からこぼれた。
「ははは。お父さん、アリーも早く魔法使いたいって」
「うーむ。アリーにはまだ早いかな。あと10年我慢してくれ」
「うふふ。アリーはどんな魔法を気に入るかしらね」
「武術だったら俺と勝負だ、アリー。シュッシュ」
剣を振り回す真似をするルイ。可愛すぎるんですけど。
◆◇◆◇◆
レオルは盾術、アネッサは風魔法が使えるみたいだけど、私はどんな魔法が使えるのだろう?
とにかく早く魔法を試してみたくて、まずはアネッサの風魔法を真似してみることにさした。
「おぎゃあ」
・・・
駄目か。
やっぱりまだ早すぎたみたい。
いや、結論づけるのは早い。
私の適性が風魔法じゃないだけかもしれないし。
そもそも、レオルやアネッサは、どの時点で自分が使える魔法に気付いたんだろう。
やっぱり10歳になった時の、何らかのイベントの時かな?
しかし10歳か。そんなに長く待つなんて、時間が勿体ないよ。
10歳を待つ以外に、何か良い手段はないのかな?
まだうまく発声ができない私は、その答えを誰かに聞くことはできない。
だから、何か良いヒントはないかと、前世の記憶を呼び起こすことにした。
そういえば、昔読んたファンタジー系のアニメで、主人公がなんか言っていたな。
確か、ええっと。そうだ。
「おんぎゃあ《ステータスオープン》!」
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アリアンナ
体力∶5/5
魔力∶5/5
属性∶―
祝福∶空間魔法 レベル1
『収納』
特質∶早熟
幼少期の成長度が高い
称号∶異世界からの転生者
あらゆる言語を理解可能
__________________
出た!
うっわ!本当に出ちゃったよ!ステータス。
やっぱり物は試し。とにかくやってみるもんだね。ありがとう、先人達の知恵。
というか、これって出ていいやつなのかな?
若干の疑問を残しつつ、早鐘を打つ心臓を深呼吸で抑え、それからゆっくりと自分のステータスを確認する。
まず、体力と魔力は5だった。少なっ。こんなの、ちょっとぶつかったくらいで大怪我扱いだよ。
まぁ生まれたてだし、確かにちょっとぶつかるくらいで大怪我でもおかしくはないのかもしれないけど······。
体力と魔力は、今後の成長に期待するとして、次の属性をみてみよう。
あれ?属性は、【―】となっている。そもそも属性って、何を表しているのかな。よく分からないけど、何も無いのは残念だなぁ。
祝福は、空間魔法。この祝福ってやつが、いわゆる魔法適性ってやつかな?
今使える空間魔法は、【収納】という魔法。きっとアイテムボックス的なアレだろう。
自慢じゃないけど、収納は得意な方だから、正直異空間とか要らなかったかもなぁ。それよりも、どこでも生きていけそうな水魔法とかがよかったな。
空間魔法の真価をまだ知らないアリアンナは、自身の祝福を少し残念に思った。
いずれこの魔法に、命を救われることになるとは知らずに。