24 フラウア祭り③
「さぁ、待たせちゃったから、その分頑張らないとね」
騒ぎの間もお客さんはどんどん訪れ、二十~三十人程が列に並んでくれている。
遅れてしまった分、頑張らなくてはと気合いを入れ直すアリアンナだったが、ポンと優しく肩を叩かれて、後ろを振り返った。
シュートさんだ。
「いや、アリーちゃんは変な奴に絡まれて疲れただろう。ゆっくり休憩してきたらどうだい?」
「え。じゃあ、そうしようかな」
「うん、アリーは休んだほうがいいよ」
助けにくるのが遅くなってごめんと、申し訳なさそうに謝りながらシュートさんが提案してくれて、何となく断りづらかったのもあり、お言葉に甘えることにした。
幸いにも今年は懐が温かい。
何か珍しいものがあれば、買ってもいいなと思いながら、ぶらぶら歩く。
近くにあったジュースの屋台で購入した、ココナッツジュースのようなほのかに甘い飲み物をすすりながら物色していると、普段見かけないお店を見つけた。
「こんにちは。ここは何を売っているの?」
「お嬢ちゃん、こんにちは。ここ、トラスト商会のお店では、装飾品を取り扱っているんだよ。ほら、このリボンとか、髪の毛に着けたらかわいいだろ?」
「ほんとだ。かわいい」
お兄さんが手に取ったのは、白いリボン。リボンからは紐が延びており、この紐で髪の毛に結びつけるようだった。
その他にも、ブレスレットやネックレス等、いくつもの装飾品が展示されている。
思えば、母アネッサをはじめ、この村では装飾品を身に着けた人をあまり見かけない。
唯一サングリアさんくらいだ。
サングリアさんは、親指ほど大きさの真っ黒な宝石のネックレスをいつも着用している。言っては何だが悪趣味だないつもと思っていたので、よく覚えている。
「ブレスレットは少し高いんだ。ひとつ銅貨五十枚」
「ご、ごじゅ……」
日本円にしたら五万円。そう考えると、高すぎるというわけではないけれど、まだ子どものアリアンナには手が出せない値段なのは間違いない。
それと同時に、この村で装飾品を身に着けた人が少ない理由も、なんとなく察しがついた。
「ははは。リボンはひとつ銅貨五枚だよ。気が向いたらお母さんとおいで」
「うん。ありがとう」
その後も屋台を見て回り、いくつかの掘り出し物を購入した後、マリ達のいる屋台に戻った。
お昼を過ぎたからだろうか。アリアンナが着いた頃にはもう行列は無くなっており、ルイが大きな声で呼びこみをしている。
「おかえり、アリアンナちゃん」
「うん、休憩ありがとうです」
「いやいや。じゃあ次は、ダン君とシュナちゃん、行っておいで」
アリアンナが戻ると、入れ替わりでダン君とシュナが休憩に入ったため、シュートさんにお会計担当から揚げ物担当に変更してもらって、マリと含む三人で店番。
しかし、お客さんの訪れは、ポツポツ来る程度まで落ち込んでいて、少し暇だと感じるくらい、何事もなく時間は過ぎていった。
「もうお開きかな」
「そうだね」
夜になれば、また食事を求めてお客さんも増えるのかもしれないが、大金を持って暗い中を歩きたくはない。
だから、もし準備した分を全て売り切れなくても、夕方には撤収しようとみんなで相談して決めていた。
もう夕方だし、お客さんも居ないし、ここらが潮時かな。
そう判断し、火を消そうとした時。
「少しよろしいでしょうか? こちらが、からあげとザコクのお店であっていますか?」
「はい、そうですよ。値段は銅貨一枚。からあげ三本か、二本とザコクおにぎり二個か。どっちにするかい?」
最後の最後に、とても丁寧な口調の男性客が現れた。
よく見ると、刺繍が施された、上等な着物を身に着けている。もしかしてこの辺りの人では無いのかもしれない。
同じように思ったのか、接客はなんとなくお会計担当のアリアンナがやっていたのだが、今回はシュートさんが対応してくれた。
「では、二個ずつのほうを、ふたつ、いただけますか?」
「銅貨二枚ね」
「どうぞ」
銀貨を受け取った時、ちらりと見えた、男性の背後に居たお兄さん。その顔に、見覚えがった。
「あれ? お兄さんは」
「お嬢ちゃんは?」
今日知り合った、あの装飾店のお兄さんだ。
「トニー。知り合いかい?」
「ええ。先程、お店に来てくれたお嬢さんです」
「かわいいリボンを見せてもらったの」
丁寧に説明してもらったにも関わらず、何も買わずに去ってしまったため、若干気まずい。
「失礼。私は、隣町に拠点を構える、トラスト商会のトラストと申します。この村で評判のからあげとザコクおにぎりに興味を持ちまして……。是非、こちらについてのお話をきかせていただけませんか?」
両手にからあげとおにぎりを抱えた状態で挨拶されるのは初めてで、少し戸惑った。
だけど、それ以上に気になること。
そう「商会」だ。
今日、セコーイ商会なる嫌味な男とやり合ったばかりのアリアンナ達は、商会という言葉に対する拒否反応が強く。
優しく接客してくれたお兄さんには申し訳ないけれど、ガメツの顔を思い出して、出来れば面倒事とは関わり合いたくないなと、咄嗟に思ってしまった。
「私達、明日も屋台を出すの」
「今日は帰ってその準備をしなくちゃ」
適当な言い訳をするアリアンナ達。
「ええ。勿論です。貴方がたのご都合に合わせますよ。明後日はどうでしょう?」
「お母さんに聞いてみなくちゃ。私達も分からないの」
「仰るとおりですね。では、また明日商品を買いに来ますので、その時にお返事をいただけませんか?」
「……それなら、まぁ」
「ありがとうございます。ではまた明日」
約束と取り付けると、「お騒がせしました」と言いながら去っていったお兄さん、もといトニーさん達。
「早く帰ろう」
「うん」
なんだか今日はどっと疲れたな。そう思いながら、今度こそ、かまどの火を落とした。




