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23 フラウア祭り②

いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます!

お祭りのお話は、書いていて特に楽しいです。


 最高のスタートを切ったフラウア祭り初日。これを受けて、二日目である今日は、昨日の二倍の鶏肉を準備している。


「じゃあザコクが炊けたら、持っていくわね」

「うん、ありがとう」


 ザコクも朝から既に二回炊いていて、今は三回目の炊飯中。炊きあがったら、アネッサとレオルが、アリアンナ達の屋台まで持ってきてくれることになっている。


「よっしゃあ。今日は稼ぐぞー」

「おー」


 昨日の予想外の大繁盛で、若干の疲労を残しつつではあるが、ルイの掛け声で元気にお祭り会場に出発したアリアンナ一行。




「なぁ、ふたりはお祭りの売上で何を買うか決めてるか?」

「私は何も。そう言うルイは決めてるの?」


 道中、ルイが嬉しそうに尋ねた。アリアンナは、本当に特に欲しいものが無いので、素直にそう答えた。


「俺は肉がもっと食いたい。あと、俺は予備の剣も何本か欲しいかなぁ。マリは?」

「……私は、杖が欲しい。両手杖」


「マリも装備か。やっぱ今の装備は初心者向けだからなぁ。今のままじゃ駄目だよな」

「そうだね」


 冒険者としての生活を既に始めているふたりは、アリアンナと違い、欲しいものが明確にあるようだった。

 アリアンナも、いつかはふたりとともにダンジョンに行くつもりでいるので、そのいつかのために、今から貯金をしておいて損は無いだろうと思った。

 そしてそのためには。


「じゃあ今日は頑張らなくちゃだね」

「おう! そうだな」



 改めて気合いを入れ直す三人。


 そうこうしているうちに、市場に到着。

 昨日と同じ、通りのすみっこがアリアンナ達の屋台の場所だ。


 が、昨日とは異なることがひとつ。



「え、待って、もうお客さん来てる」

「嘘。早く準備しないと」

 

 なんと、アリアンナ達が来るより先に、お客さんが待ってくれていたのだ。その事実に驚きつつ、急いで空間から荷物を取り出すアリアンナ。


 双子とアリアンナで出来る準備をしていると、すぐにダン君達も来たので、大急ぎで油を熱して、からあげを揚げつつ、おにぎりを握った。




「昨日は大繁盛だったな。俺食べ損ねたから、今日は楽しみにしていたんだよ」

「俺は穀物屋のおっさんから噂を聞いてね。何でもここのザコクは別格に美味しいんだって? それを食べてみたくてさ」

「子ども達だけでこんなに商売を成功させて、本当に優秀なのね。立派だわ」


 アリアンナ達が必死に接客をしている間、並んで待ってくれていたお客さん達は、まるで「焦らなくてもいいよ」というように、この屋台に来てくれた理由を口々に話してくれて。


 町の人達の優しさに、心が温かくなった。




「よおルイ。頑張っているな」

「シュートおじさん!」


 昨日と違い、呼び込みには行かず、行列の整理をしているルイ。そんなルイに声を掛けたのは、ルイの剣の師匠であるシュートさんだった。


「噂には聞いていたけど、すげえ行列だな。良かったら手伝うよ」

「いやまだ元気だから、大丈夫」

「いや、休める時に休んでおけ。昼になるとさらに客が来るぞ。その前に交代で休憩を取るんだ」

「……ありがとう、おじさん」



 シュートさんのご厚意で、順番で休憩を取ることに。

 まずはルイから。先程は遠慮していたルイも、「美味しそうな肉を食べてくる」と、元気に駆けていった。



 ルイが休憩に出てしばらくした時、行列の横から割り込みをしてきた男が居た。


 華やかな服装をした、恰幅のいい男だった。

 その後ろには、従者だろうか、フードで顔を隠した男が控えている。



「おい、お前、列に並んで無かっただろ!」

「ええい、汚い手で触るな、田舎者が。わしの服が汚れるだろ」

「なんだと!」


 当然と言えば当然だが、ちゃんと順番を守って列に並んでくれていた人達から非難の声が上がる。


 だが男は気にもせず、アリアンナ達に話しかけた。


「この店の商品を作っているのは、お前達か?」

「うん」


 高圧的な態度だった。

 正直無視してやろうかとも思ったが、ここで騒ぎが大きくなったら面倒だと、代表してアリアンナが対応した。


「はぁ。『うん』とは。やはり田舎の子どもは、ろくに敬語も使えんのだな。おい、そこの子ども、良い話だ。よく聞け、このセコーイ商会のガメツ様が、この商品の権利を買い取ってやろう。金貨一枚だ。どうだ? 貧乏人には、喉から手が出る程欲しいだろう?」


「アリー……」

 

 心配そうなマリ。眉が八の字になっている。


 からあげを買いにきてくれた町の人達を不快にさせ、マリにもこんな顔をさせたこの自称商人のことが、一瞬で大嫌いになったアリアンナは、意地でもこの男とは付き合いたくないと心底思った。


 将来のための貯金は大事だと思ったばかりだけど、この男と関わったら、たとえお金が手に入ったとしても、それ以上に不幸になる。そんな確信を持ったアリアンナは、この話を断ることにした。


 ただ、それを態度に出すと面倒なことになりそうなので、いや、もう既に面倒なことにはなっているのだが、出来るだけ穏便にすませたくて、適当に言い訳することにした。

 

「もう作れない。たまたま出来ただけで、私も作り方分からないの」

「な、なんだと!? そんなはずが無かろう! この餓鬼が舐めやがって」


 それが良く無かったのか、子どものくせに舐めた態度だと怒り狂う商人。


「う、うぇぇぇん」


 その怒鳴り声を聞いて、シュナが泣き出してしまった。

 前世の記憶があるアリアンナだって、大声で怒鳴られ、思わずビクッとしてしまったくらいだ。まだ幼いシュナは、きっともっと怖かっただろう。

 怒り心頭のアリアンナ。


「おい、ガメツイ商会だかなんだか知らないが、いい加減にしろよ!」

「そうよ! こんな小さな子どもを泣かせて恥ずかしくないの!?」


 それは、町の人も同じだったようで、周囲の大人達が商人に向かって一斉に抗議し始めた。



「おい、どうしたんだ!?」

「アリー! マリ! 大丈夫か?」


 そこへ、最後尾で行列の整理をしていたシュートおじさんと、休憩を終えたルイが駆け付けてくれて。剣を携えたふたりの登場でさすがに分が悪いと思ったのが、商人は「ちっ。覚えてろ!」と捨て台詞を吐いて逃げていった。

「一昨日来やがれってんだ」

「そうだそうだ」





「お騒がせしてごめんなさい」


 関係ない町の人たちを巻き込んでしまい、罪悪感いっぱいのアリアンナ。


「お嬢ちゃんが謝ることないさ」

「そうよ、怖かっただろうに毅然とした態度で。偉かったわね」

「……ありがとう」

 

 だけど、町の人達はとっても優しくて。

 じわっと瞼に、涙が溜まった。

 

「はい。アリーを助けてくれてありがとう。お兄ちゃんとお姉ちゃんのおにぎりは大き目に作ったよ」

「からあげも、こっそりひとつ増やしておいたの」


 マリとシュナも、町の人達にお礼を言いながら、こっそり? サービスをしていた。その素直さが可愛くて、「ふふふ」と思わず笑みが零れるアリアンナ。

 

 一瞬で心が回復したところで、こうしちゃいられないと腕をまくる。

 

「さぁ、待たせちゃったから、その分頑張らないと。キビキビ働くよ!」

「うん!」



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