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20 死神の噂

新連載「ぐうたらニートは異世界でもゆっくり寝たい」始めました。

こちらも併せてご覧いただけたら嬉しいです!




「死神が出たぞー!!!」

「キャーッ!」






 急に大声を出したルイに驚き、目をまん丸にてルイの方を見た。

 

 両腕をあげて、獲物を捕獲する動物のような格好で固まっていたルイだったが、硬直するアリアンナを見て、プッと吹き出すように笑った。



「……ふはは。ごめんごめん。でもこんなに驚くなんて思わなくて……。ぷっ。くくっ」

「え? 何? どういうこと?」

「もうルイったら、何てことするの!? アリーが戸惑っているでしょ!」

 よく分からなくてキョロキョロしていると、マリがルイに苦言を呈した。


「ふはっ。大声出してごめんな、アリー。でも、アリーも知っていた方が良いと思ってさ」

「ふんだ。自分だって、最近知ったばかりなくせに」


 そう言って頬を膨らましたマリだったが、身体をアリーの方に向けると、両親に教えてもらった【薬草ダンジョンの死神】に関する噂を話してくれた。

 

 曰く、隣町との境目にある薬草ダンジョンには、黒の死神が現れる。

 どこからともなく現れるその死神に遭遇したが最後、ダンジョンから脱出するまで永遠に追いかけられてしまう。薬草ダンジョン自体は、強力な魔物が少ない難易度の低いダンジョンだが、最悪の事態を想定し、常に万全の注意を払って臨むべきだ。


 最後の一文は、噂というより両親の感想じゃないか? と苦笑しつつ、気になったことを尋ねてみる。

 

「死神なのに、追いかけられるだけなの?」


 アリアンナの頭の中には、宙に浮かぶ骸骨が浮かび上がっていた。確かワイトっていうんだっけ。あんなのに遭遇したら、追いかけられるだけじゃ済まない気がするんだけど……。


「さぁな。俺も聞いたけど、父さんは『死人に口なし』って言ってたぜ」

「……」


___なんか、ダンジョンに行くの怖くなってきた……。 





◆◇◆◇◆




 翌日、前から話が出ていたように、両親とともに、初めてのダンジョンアタックに出かけたマリとルイ。 


 両親が一緒だから何も心配ないと思うけれど、少し緊張した面持ちだったマリと、逆に興奮して落ち着きがなかったルイ。さすがに普段通りでは無かったふたりを思い出し、アリアンナは心の中で「どうか無事に帰ってきますように」と祈った。



 そして、ひとりお留守番することになったアリアンナはというと、ダン君とシュナと一緒に街道に来ていた。薬草採集と、ある準備のためだ。


「にしても、僕たちで出店をやろうなんて、ルイってやっぱ突拍子もないこと考えるよね」

「そうだね。まぁそれだけ、はやくダン君とパーティ組みたいんだよ」


 ルイは、我が道を突っ走っているように見えて、実は結構思慮深いのだ。そして特に、突拍子もないことを言うときは、誰かのためであることが多い。毎日一緒に過ごすうちに、アリアンナはだんだんとそんなルイの性格が分かってきた。


「私もアリーと一緒に冒険者なりたい!」

「なろうよ! 楽しみだね」


 仲良くなって、愛称で呼んでくれるようになったシュナ。彼女が魔法を使えるようになった時、すぐに冒険者登録ができるように、今のうちにお金を準備できるだけ準備したい。


 そう思っていたアリアンナは、ルイの提案に乗ったのだった。

 



 ルイが出店を出そうしているのは、十日後に開催される町での【フラウア祭り】。年に一度、三日間にわたって行われるお祭りだ。

 毎年見て回るだけだったこのお祭りだが、今年は白いザコクと鶏のからあげを販売しようというのがルイの案だった。


 確かに、鶏のからあげは滅多に見ない料理だし、匂いが強い料理なので、それにつられて買ってくれる人が居るかもしれない。一見地味な白いザコクは単品だと難しいかもしれないが、からあげとセット売りにしてしまえばいい。原価が安いので、上手くいけば儲かるだろう。


 ということで、出店で使う、油の原料であるツバキの種と、からあげに刺して使えそうな竹と、ザコクおにぎりを包む葉っぱを探しにきたのだった。


 しばらく歩き回って探していると、ダン君が竹を見つけてくれたので、空間魔法で収納。おにぎり用の葉っぱの方も、竹の葉が使えそうだったので、葉も含めて収納することにした。


「すぐに見つかってよかったね」

「ね」


 トントン拍子で出店に向けた準備が進んだ。特に、ザコクおにぎりを包むのに適した葉っぱがすぐ見つかったのは幸運だった。上機嫌の三人。


「今日の薬草は、錬金術師さんのお店で売ってもいいかな?」


 そして今日は、薬草も大量に採集できた。いつもなら冒険者ギルドに卸しに行くところだが、今日は冒険者登録している双子が居ない。

 そのため、ダン君の希望で、元々買い取ってもらっていたという錬金術店に売りに行くことになった。


 昔からあるという錬金術師のお店【ガルニエ】は、この町のお店については珍しく、中心街から少し離れた場所にあった。


 辺り一面、草が鬱蒼と生い茂る中、そのお店の周りだけ不自然な程植物が生えておらず、恐らく企業努力で綺麗にしているのだろうが、かえって入りずらい雰囲気を醸し出していた。


 ただ、ここを何度も訪れているというダン君は、ずんずんと足を進め、躊躇なく店の扉を開いた。

 


「サングリアさん。こんにちは」

「いらっしゃい」

 店の中から、しゃがれた声が聞こえた。


 ダン君に続いて中に入る。狭い店には、店主らしき人物がひとり。


 代表してダン君が薬草を売ってくれている中、アリアンナは店主__サングリアさんをじっと観察した。



 何だか、不思議な雰囲気のある人で目が離せない。


 恐らく、化粧をしているのだろう。真っ白な肌はなんだか少し粉っぽいが、その白さとの対比で、真っ赤な目と赤黒いルージュが目を引く。

 深緑の髪の毛は、後ろでひとつにまとめていて、きっちりとした印象だ。

 しかし、せっかく真っ黒な親指大の宝石のネックレスをつけているのに、仕立ては良いが、真っ黒なワンピースを着ているせいで、宝石の輝きが半減している気がする。なんとも勿体ない。

 

 そしてダメ押しの、人間離れしたボンキュッボンのスタイル……。

 

(この人、すごく綺麗にしているのに、声はしゃがれていて……、一体何歳なんだろう。それに、化粧もしていて、胸もあるし、女性……なんだよね?)


 年齢も性別も当たりがつかず、なんだかちぐはぐな人だと感じた。




 店を出ると少しほっとした。なんだか緊張していたみたいだ。


「なんだか少し不思議な人だったね。あっ」


 ほっとして、素直な気持ちを吐露してしまった後、「しまった」と思った。ダン君がお世話になっている人なのに、悪いように言ってしまったかもしれない、と。


 ただダン君は特に気にした様子もなく、微笑んだ表情のまま、アリアンナに今日の取り分、銅貨十三枚を手渡してくれた。


「そうだね。……でもいい人だよ。今日も少しおまけしてもらったしね。アリアンナちゃんも、何か困ったことがあれば相談したらいいよ」

「……うん」


 ダン君は笑ってそう言ったものの、何となくひとりでこの店に来るのが戸惑われるアリアンナだった。


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