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20/30

19 三年前 side:???

第2章はサイドストーリーから!

(差別や戦争の話に触れています。苦手な方はブラウザバック推奨です)


いいね、ブクマ、評価ありがとうございます!

大変励みになります!!


転生幼女の活躍譚、第2章もよろしくお願いします!




『頼むぞ、アブリル。君にしかできぬことだ。君の母親も、きっと誇りに思うだろう』

『はい、お任せください村長』

 

 清流のような青色の長い髪をなびかせ、ゆっくりと、それでいてしっかりとした足取りで前に進む少女。

 その胸元で、親指程の大きさがあるだろうか、まるで血を閉じ込めたかのような、()()()()()()()()()()()()()()が揺れていた。



 ◆◇◆◇◆



「あれからもう三年か。月日が経つのは早いわね」


 こののどかな村に移り住んで、もう三年。十七歳だった私も、もう二十歳。

「お母さん、私。……いや、何でもない」


 アブリルは、この村に来ることになった、三年前の出来事を思い出していた。


 故郷を離れ、()()()()()このミレーア村での生活を始めてからというもの、とても平和な日常を送っている。

 それこそ、十七年間過ごした故郷での生活よりも、この村での生活の方が、良い思い出が多いと言っても過言ではない。

 だって、故郷の村では、いい思い出など全く作れなかったから。



 ……私、アブリルは、故郷の村において、浮いた存在だった。

 両親は既で他界していて、歳の離れた祖父母と暮らしていたことも理由のひとつだったと思う。だけど、一番は、私が【ハーフ】だったことが理由だろう。


 父は普通の人間だった……らしい。

 私がまだ小さかった時に死んでしまったので、父のことはあまり覚えていない。だけど、祖父母の反応から、私の容姿は父から受け継いだものが多くあるのだろうと想像できる。

 それと、私の属性が水魔法だったことも、同じく水魔法の使い手だった父の影響なのかもしれない。

 


 一方、母は精霊族であった。水の精霊、ウンディーネ。人里離れた場所に生息する、不思議な精霊。

 それが母であった。


 美しい精霊といわれるウンディーネの中でも、母は格別だった。

 白くみずみずしい肌に、大海原のようなキラキラした青い瞳と、つややかな髪がよく映えた。柔らかな物腰と、鈴のなるような声も、男性のみならず老若男女を虜にした。

 そしてその内のひとりが父だった、という訳だ。

 

 ウンディーネは、綺麗な水の近くでなければ生きられない。基本的には毎日、少なくとも三日に一度は、綺麗な水を取り込み、そして身を清める必要がある。

 にも関わらず、うっかり者の母は、ろくな準備もせず森に出かけ、案の定迷子になり、水の欠乏で気を失いかけた。しかし、そんな母を見つけ、魔法で新鮮な水を与え、助けた人間がいた。


 人間に近い見た目を持つウンディーネ。それとは知らずに一目ぼれしてしまった男がだったが、母の真実を知っても、その気持ちは変わらなかった。そして、その愛の結晶として、私が産まれたのだった。



 人里離れた小さな村という、閉鎖的な環境において、【少し変わっている】ということは致命傷だ。

 同年代の子どもたちは、アブリルを気味悪がって仲良くしてなかったし、祖父母も同じ家で暮らす事は認めてくれたが、最低限の接触しかしなかった。


 それでも、優しい母が居れば、アブリルはそれで良かった。


 しかし、そんな母をも奪ったものがあった。__戦争だ。



 優しく人気者だった母は、種族間の領土をめぐる争いの犠牲になったのだ。

 アブリルは、戦争を、そして母の命を奪った者を恨みながら、ひとりぼっちの生活に耐え続けた。


 村長から呼び出されたのは、そんな時だった。

 

 夜中に村長宅を訪ねると、そこには村長と、フードで顔を隠した見知らぬ男が居た。村長曰く、お世話になっている異国の商人とのこと。


 何故顔を隠すのか、不審に思うアブリルだったが、村長からある作戦への参加を命じられ、そんなことはどうでもよくなった。

 

 それは、母の命を奪った種族を陥れることができるかもしれない、そんな作戦。場所は、ミレーア村という遠く離れた田舎町。

 

 ハーフであるアブリルは、母のように強力な魔法は使えない。

 だが、普通の人間よりは多くの魔力量を有していたし、ハーフなので他のウンディーネよりも、水の欠乏に陥りずらい。何ならアブリル自身が水魔法を使えるので、人の里で暮らしていたとしても、毎日綺麗な水を取り込むことも、身を清めることも可能であった。


『これは、アブリルにしかできないことなんだ』


 アブリルにとっては、村長のことも、故郷であるこの地の者も、どうでもよかった。

 ただ、母の無念を晴らしたい。そんな思いに支配されたアブリルは、村長の指示通り、ミレーア村に向かうことを決めたのだった。





◆◇◆◇◆




「あれ?」

「どうしたの? アリー」


 急に立ち止まるアリアンナ。ふと、何か言い表せないような違和感を覚えたのだ。


「早く行こうぜ。もう俺お腹すいた。アリー、また白いザコク作ってくれよ」

「もうルイったら、この前からそればっかり! ちょっとは自分も手伝おうとは思わないの!? まったくもう! アリー、大丈夫? ルイのわがままなんか、無視してたらいいんだからね」


 アリアンナお得意の空間魔法で、ザコクの精米ができると分かってからというもの、化粧水を欲しがるアネッサと、食べ盛りのルイのために、毎日精米を続けているアリアンナ。

 自分で使っておいてなんだけど、もしやこれは空間魔法の無駄遣いなんじゃないかと、たまに首を傾げている。

 

 そしてそんな彼女を一番近くで見守る姉のマリは、家族全員、まだ小さな妹を頼りすぎなのではないかと、日々心配している。


「ううん、ありがとマリ。早く行こう、私もお腹すいちゃった」

「もう、アリーまで。ふふっ。みんな食いしん坊なんだから」


 しっかり者のようにみえて、まだご飯のことばかり口にする小さな妹が可愛くて、思わずクスリと笑うマリ。

 それと同時に、家族のわがままに気を悪くしていない様子のアリアンナに安心し、ふたりしてお腹がすいたと言うのならば早く帰らなくちゃと、我が家への岐路を急いだ。


 だから、気づかなかった。


「今、誰かに見られていたような……。ううん、気のせいだよね」

  

 彼女の後方で、ひとり不安な表情を浮べる妹に。



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