01 転生
ここはどこだろう。病院?にしては、天井が高い気がする。
まさか天国?
······そっか。じゃあ本当に余命3ヶ月だったんだ。
私は3ヶ月前、主治医から宣告された。
胃がんで余命3ヶ月だと。
まさか、まだこんなに元気なのにと思っていたけど、そうか、本当に余命3ヶ月だったんだ。
······やりたいことも、まだまだあったのに。
まさか20代で急に死ぬだなんて。
いや、若かったからこそ、この早さだったのだろう。両親より早く旅立つとは。とんだ親不孝者になってしまった。ごめんね、お父さん、お母さん。
「おぎゃー」
その瞬間、自分の口から出た言葉に驚く。だって私は、ごめんねと言ったつもりだった。
「おぎゃー?おぎゃー?」
どうして。
思った通りに声が出せない。おぎゃーだなんて、まるで生まれたての赤ちゃんみたいじゃない。
まるで赤ちゃんみたい?
自分の言葉を反芻する。
まさか、天国に来たんじゃなくて、赤ちゃんに転生しちゃったとかじゃないよね?
念のため、もう一度、発声してみよう。
「······おぎゃぁ」
イ、ヤ、だー!
「おっぎゃー!」
その日、家の中いっぱいに、元気な赤ちゃんの声が響き渡った。
それから数日間過ごしてみたけれど、状況は変わらず、私は赤ちゃん姿のまま。
夢なら早く覚めてくれ、と願ったけれど、ど全く覚める気配はない。
どうやらこれは、夢ではなく現実の話のようだ。
そう悟った私は、潔く新たな人生を前向きに過ごすことにした。
そしてそれと同時に、私は新しい人生における、ある目標を掲げた。
【ゆるく生きる】
前世では遊ぶ暇なく真面目に学びすぎて、結果身体を壊し早死してしまった。
そこから教訓を得て、現世では、頑張る時間はほどほどにして、その分ゆるく生きることにしようと思う。
目指せ、スローライフ!
◆◇◆◇◆
あ〜、寝ても寝ても眠い。
幼児とはこうなのか、毎日飽きるほど寝ているのに、眠くて眠くて仕方がない。
そんな中で、かろうじ出来ることといえば、発声練習と、情報収集くらいしかなかった。
発声練習の方は、正直順調とは言い難く、まだまだ「おぎゃあ」と「おぎゃー」としか言えないけれど、情報収集の方は成果があった。
情報収集の方法は、観察と、会話の盗み聞き。そしてその結果、分かったことが2つある。
分かったことその一、私の家族の構成。
現世の家族は、私を含めて恐らく5人。父、母、兄、姉、私の5人家族だと思う。
父レオルは、あまり家に居ないのか、まだ2回しか見ていない。印象としては、とにかく体格がいいクマみたいな人。
兄のルイと姉のマリは、双子らしい。会話から察するに、私が生まれる半年程前に5歳になったようだ。
二卵性双生児なのか、ルイはやや父親似、マリは髪の毛の色や瞳の色等、明確に母親似だった。
分かったことその二、魔法の存在。
「アリー。アリアンナ。お腹はすいていませんか〜?」
この柔らかい深緑色の髪をしたグラマラスな女性が、私の最後の家族である母親だ。
名前はアネッサ。
年齢は、見た目から推測するに、20代後半〜30代前半くらいな気がする。
23歳だった清子との年齢差があまりなく、なんとなくお母さんとは呼びづらい。だから、心の中ではアネッサと呼ぶことにした。
勿論、心の中以外では、きちんとお母さん呼びするつもり。
けど、いつか、本心からお母さんと呼べる日がくればいいなと思う。
話を戻して、何とこのアネッサ、驚くべきことに、魔法が使えるらしいのだ。
ある日、沢山の睡眠と充分なミルクを飲んで、準備万端の状態で発声の練習をしていたら、私が暑がって泣いているのだと勘違いしたのだろう。
彼女は、何か呪文を唱え、涼しくて気持ちいい風を作り出してくれた。
その出来事がきっかけで、私は少なくとも日本ではない、魔法が存在するどこか別の場所に転生したことを知ったのだ。
私が見たアネッサの魔法は、この心地よい風が吹く魔法だけだけど、もしかしたら他にも使える魔法があるのかもしれない。
そして、まだ見ていないだけで、レオルやルイ、マリも使えるのかもしれない。
そう考えるだけで、とてもワクワクした。
その日から、私の関心は専ら魔法のこと。
もし幼児である私にも魔法使えたら、格好の暇つぶしになると思ったからだ。
そうして、引き続き家族の、主に母アネッサのことを観察しながら、どうにか私にも魔法が使えないかと日々願望が募るようになった。