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18 地味に便利な空間魔法

たくさんブクマありがとうございます!

今回は少し長めです。

よろしくお願いします!


「それだ! それだよ、お母さん。毎日使っているのに、なんで気づかなかったんだろう」

 

 転生してから五年間、毎日空間魔法を使ってきたというのに、こんな単純なことに気づかなかったなんて。

 三日かけて精米したせいで、筋肉痛気味の右腕をさすりつつ溜息をついた。


 そして、異空間に収納しているザコクの茶色い部分を思い浮かべながら、「消去」、続いて「取り出し」と唱える。


 すると、ふたりの面前に、小瓶に入った真っ白なザコクが現れた。


「まぁ、さすがアリーちゃん! 一発で成功させるなんて、天才だわ」


 喜ぶアネッサ。一方アリアンナはやや曇った表情。


「私が手でしたものより、空間魔法の方が綺麗に精米できてる……。三日もかかったのに」




 足取り軽く白いザコクをもって台所に向かったアネッサ。

 アリアンナは、他に試したいことがあって、外に出かけることにした。



「良かった。ちゃんと着いた」


 やってきたのは、ツバキの木の群生地。先日、マリ達と薬草採集に出かけた時に、たまたま見つけた場所だ。今日はひとりで来たので、ちゃんとたどり着けるか不安だったが、無事に見つけられて良かった。


 先日は木になっている実ばかり見ていて気づかなったが、木のすぐ真下には、ぱっくり割れたツバキの実がいくつも落ちていた。割れた部分からは、もうすでに黒い種が顔を出している。


 とびきり乾燥していそうなものを選んで、手に取ってみる。欲しいのは中の種だけなので、種から実をはがすと、乾燥しているためか簡単に取れた。


「この種から、油だけを取り出せれば……」


 そう言って、黒い皮と、その内側の黄緑の薄皮を剥いた後、近くにあった石で、ツバキの種をぎゅーっとつぶしてみた。すると、予想通り、油のような液体がしみだした。


 それを見て満足そうに頷いたアリアンナは、地面に落ちている実だけをまとめて空間に収納した。


 普通の一般市民だった清子時代は(前世では)、油は普通にスーパーで買ったものを使っていた。だから、ツバキの種から油を抽出する方法なんて聞いたことは無いし、調べようと思ったこともない。まぁきっと、種を細かく砕いたり、絞ったりするのだろうと、何となく想像はつくけれど、その方法だと、とんでもない時間がかかりそうな気がして。だから、前回ツバキを見かけた時は、結局ひとつしかツバキの実を採集しなかったのだ。


 これには、替えがない白米と違い、油は動物の油、いわゆるラードが簡単に手に入るというのも理由のひとつだった。


 でも、空間魔法という抽出方法を思いついた今は違う。

 簡単に油が手に入るのであれば、それに越したことはない。ツバキ油が大量に手に入れは、ラードでは出来ない調理法も使えるようになるし、髪の毛のケアにも使える。


 

 アリアンナは、ザコクの時と同様に、実の部分と種の黒い部分を思い浮かべながら「消去」と唱え、今度は油をイメージしながら、ザコクを精米した時に買った小瓶に向かって、「取り出し」と念じたのだった。





「もしかして、アリアンナちゃん?」


 油の抽出に成功し、意気揚々と家に帰るアリアンナを呼び止めたのは、ダン君。ルイのお友達だった。


「あれ? ダン君だ。もしかして、薬草を採りにきたの?」

「そうだよ。この前沢山採ったばかりだけど、一~二本くらいなら、探せばあるからね」


 その言葉に、先日ギルドで、薬草がそんなに早く生えるわけないと笑われたことを思い出したアリアンナは、ひとり赤面した。



「ねぇお兄ちゃん。この子は?」


 赤い顔のまま声の主を見ると、アリアンナと同じくらいの身長の女の子が、ダン君にしがみついている。



「シュナ、この子はアリアンナちゃん。ルイの妹だよ」

「ルイ君の!」

「そう。ルイ君の妹のアリアンナちゃん」

「アリアーナちゃん!」

「アリアーナじゃなくて、アリアンナちゃんね」

「アリアナちゃん!」

「アリアンナ」

「アリアンナ!」

 アリアンナは発音が難しいのか、何度か間違っていたけれど、最後には飛び切りの笑顔でアリアンナと呼んでくれた。


「か、可愛い」

 

 その笑顔に、心を鷲掴みにされてしまったアリアンナは、思わず地面に両手両膝をついた。


「ありがとう。アリアンナちゃんにも紹介するね。僕の妹のシュナだよ。アリアンナちゃんと同い年だから、仲良くしてあげてね」


 アリアンナの手についた土をパンパンと落としながら、ダン君が妹を紹介してくれる。名前はシュナというらしい。


「うん! よろしくね、シュナちゃん!」

「よろしく!」


 シュナはとても可愛くて、いい子だった。

 この辺りでは珍しい、クリーム色の髪の毛が、肩のあたりでふわふわと揺れて、まるで天使のようだ。

 それに、アリアンナは、アネッサやマリの深緑色とも、レオルやルイの赤茶色とも違う、色素の薄い桜色のような自身の髪の色が、少し気がかりだった。


 はっきりした色を持つ家族のなかで、自分だけ浮いているような気がして……。 

 

 そんな中で現れた、自分と近い色を持つ、同年代の女の子。親近感が沸くのは当然のこと。

 

 その上シュナは、中身もとてもチャーミングな子だ。ダン君曰く、人見知りで初対面ではなかなか会話が続かない子ということだったけど、全くそんなことはなくて。優しい笑顔で自分の話を沢山してくれた。

 

 

 家に着く頃にはすっかり仲良くなった五歳児達は、翌日遊ぶ約束をして別れた。




 翌日、アリアンナは、大量の蒔と、市場で買ったばかりのお肉を持って、シュナの待つダン君の家に来ていた。

 一緒に行くと言って聞かなかったルイと、お目付け役のマリも一緒だ。


 今日何をするかはもう決めてある。

 それは、ザコクとそれに合うおかず作りだ。


 ルイの希望もあり、ザコクの精米方法をルイとダン君に教えつつ、手作業で精米したら日が暮れるからと、空間魔法で白米にしたザコクでお米を炊いた。


 ダン君のお母さんは、お仕事で不在にしているらしく、火起こしや調理は、慣れた様子でダン君がしてくれた。

 

(この様子だと、ご飯の準備や家事は毎日ダン君がしているのかも……)

 アリアンナは胸が締め付けられる思いだった。


 お米を炊いている間、今日は別のおかずも作る。全人類の大好物と言っても過言ではない、鶏の唐揚げだ。


 子どもだけで調理するのは危ない気もするが、今日はアリアンナも居るので大丈夫ということにして、早速鶏肉に下味をつけていく。下味は、この辺りでよく使われているよくわからない調味料と、市場で手に入れたニンニクを使う。


 どうやらこの辺りでは、ニンニクは丸かじりで食べるものという認識らしく、例によって正しい調理法が伝わっていないばかりに、安く売られている食材のようだった。

 

 そんな安く買えたニンニクをすりおろし、調味料と一緒につけた後で、小麦粉を付けてツバキ油でカラリと二度揚げ。


「肉が泳ぐほどの油で、ニンニク風味の唐揚げを揚げる……。なんて悪魔的なんだ」 


 ジュージューと油を飛ばしながら、ついでに悪魔的な匂いを充満させながら、茶色に変わっていく唐揚げ。アリアンナは、ジュルリをよだれを垂らした。



 カラリと揚げあがると、直ぐに昼ごはん。

 悪魔的な匂いに我慢できなかったダン君の弟妹達が、今か今かと身体を揺らしながらご飯を待っている。


「兄ちゃんまだ~?」

「ごめんごめん、待たせたな! みんなで食べようか」


 机にご飯と唐揚げを置くと、みんな我先にと唐揚げを掴んで、そのまま口に運ぶ。


 アリアンナは、心の中で「いただきます」と感謝すると、お皿にご飯と唐揚げを乗せて、フォークで食べ始めた。


 唐揚げを噛むとじゅわっと肉汁があふれて、口いっぱいに広がる。その味を堪能しながら、今度は白米を口いっぱいに頬張る。

 

 うん。やっぱり、ニンニクの効いたしっかりした味付けに、白米が絶妙に合う!


「熱っ。何だこれ! うめー」

「ふぅふぅ。うん、おいしいー! やっぱアリーの考える料理は最高だよ!」

 この味に満足したのは、アリアンナだけではない。人生初の唐揚げに、双子も夢中だ。


「この肉だけで、ザコク何杯でも食べられそう」

「これがザコク? 甘くて美味しいね」

 ダン君とシュナちゃんは、ザコクの新しい食べ方を気に入ってくれた様子で、美味しい美味しいと言いながら、沢山食べてくれている。

 

「もっと食べたーい」「私も!」「おかわり!」

 そしてそれは、まだ小さな子ども達も一緒だ。


「はいはい。たくさんあるからゆっくりお食べ。それから、ご飯を作ってくれた、ルイとマリちゃんとアリアンナちゃんに、しっかり感謝するんだぞ」

「「「ありがとう」」」

「「「どういたしまして」」」


 元気にご飯を頬張る子ども達。自身もお腹いっぱい満足するまで食べて、ご機嫌のアリアンナ。


 転生して、白米も油も、手を加えないと手に入らない不便な世界に来てしまったけれど。

 でも、優しい家族や友達との穏やかな日々に、それなりに満足している。

 



 ……そんな彼女は気づいていない。

 穏やかな日々に影を落とさんとする存在が、彼女の近くで、その機を待っていることを。


 これにて第1章スローライフ編終了です。

 少し不穏な空気もありますが、基本的にはほんわか癒し系のお話を投稿していけたらと思っています。


『面白かった』『続きが読みたい』と少しでも思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いできますと執筆の励みになります!


 第2章死神襲来!?編もよろしくお願いします!

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