10 双子の装備
「じゃあ次は買い物だな!」
マリとルイの冒険者登録が終わった後は、お買い物だ。無事冒険者になったお祝いに、2人の装備を購入する話になっていた。
「よっしゃ!」
「わぁーい!お父さん、私ポーチがほしい!」
というのも、来月2人は、両親とともに森の奥にあるダンジョン(!)での魔物狩りに参加するのだ。
といっても、2人はまだサポーターとしての参加であり、戦闘要員ではないらしい。2人に経験を積ませてあげたい、という親心のようだ。
ダンジョンがあるだなんて、やっぱりここは地球ではないどこかなんだなと思うと同時に、ちょっと興味が湧く。果たしてどんな魔物が居るのだろうか?もしかしたら、見たこともないお宝なんかも眠っているかも?
あとでレオルに聞いてみよう。
あれこれ考えているうちに、駆け出し冒険者に人気があるという目的の店に着いた。
中に入ると、まず目に飛び込んできたのは、黒光りした大きな武器だった。アリアンナより遥かにデカい大剣や槍、斧等が一段と目を引く。
「こんな重そうな武器。とても持てっこない」
大きな武器に圧倒され、その場を動けずにいると、隣から小さな独り言が聞こえた。
「これを振り回して、戦える人も居るんだな······」
ルイだ。そそくさとレオルについていったマリとは違い、ルイは、アリアンナ同様、大型武器に目を奪われていた。短剣をメインにすると言っていたような気がするけど、やっぱり大型武器というのはロマンなんだろうか。
「ルイ、アリー。こっちだ」
名前を呼ばれて、声の主、レオルのもとに行くと、そこには皮で作られた装備が陳列されていた。意外と需要があるのか、マリやルイにちょうど合いそうな、小さめのサイズもちゃんと置いてある。
ちょっとした興味もあり、マリとルイが目をキラキラと輝かせながら装備を物色する中、店内をぐるっと1周してみることにした。が、レオルの見立てどおり、このあたりの皮製品が2人に一番よさそうな気がした。サイズだけでいえば、ほかにも合うものがないわけではなかったが、子供の成長に影響がありそうな固い鎧や、伸縮性が無く動きずらそうなよく分からない素材のもの等、性能はイマイチだった。
「あ、アリーどこ行ってたの?」
「ごめんごめん」
「まぁいいけど。それより見て!どう?似合ってる?」
みんなのもとに帰ると、マリが装備の試着をした状態で待っていた。いつになく興奮しているマリは、フード付きの黒いローブに、真っすぐ伸びたクセのない片手杖を身に着けていた。
「似合ってる!すごくかわいいよ!大人っぽくてマリに合ってると思う!」
アネッサと同じ深緑色の落ち着いたマリの髪の毛が、黒いローブとマッチしている。うん、文句なしにかわいい。
「そうかな?」
といいつつ、満更でもない様子のマリ。
悩みに悩み、先ほどの黒のローブ決めたマリとともに、今度はルイの様子を見に行くと、ルイも既にお目当ての装備を見つけたようだった。肘当て、胸の軽、短剣を大事そうに抱えている。
これらの他に、レオルの勧めで、ポーション専用の仕切りのついた斜めかけポーチと、背中に背負うナップサックみたいなバックをそれぞれ購入し、今日のお買い物はお開きとなった。
「ねぇルイ~。ポーチとバック、ちょっと見せてよ」
「ん?まぁいいよ。でも壊すなよ」
「うん。ありがとう」
帰り道、空間魔法を使う私の商売敵?ともいえるポーチとバックをルイから貸してもらった。どのくらいの物が入るのか、使い勝手はどうなのか、どうしても気になったのだ。
快く貸してくれたルイに感謝しつつ、舐めるようにその性能を確かめていく。まず、ポーチ、バックともに、手触りが悪い。きっとこれも動物の皮なのだろう。正しい表現なのか分からないが、なんだか毛羽だってゴワゴワしている感じだ。また、物もあまり入らなそうだ。少なくとも1日野宿するだけの荷物は入らなそうな気がする。それに伸縮性も悪い。伸びないから物を詰め込んだりもできないだろう。
「う~ん」
「どうした?もう満足か」
「うん。ありがとう」
正直なところ、前世で使っていたエコバックやリュックサックと比べると、期待外れではあったが、嬉しそうなルイには言えず、そっと心に留めておくことにした。
思えば日本の企業はすごかった。誰でも手の届く安価な料金設定で、工夫のこなされた便利な収納グッズがいくらでもあったのだから。折りたたんで小さくなるエコバックやポケットがたくさんついた軽くて丈夫で大容量のリュックサック。他にも、見せる収納グッズや一石何鳥にもなるグッズ等挙げ始めたらキリがない。
前世で自他ともに認める収納上手だった私だが、それはそれを可能にする商品存在のおかげもあったのだ、と今更ながらに思った。だって、さっき見たポーチやバックだけでなく、今まで生きてきた中でも、「あ、これ欲しい!」と思える収納グッズは一つも無かったのだから。
「誰でも収納上手になれるグッズが、この世界にもあればいいのに」
すっかり日が暮れた帰り道、なんだか無性に前世が懐かしくなって、そっと空を見上げた。




