09 冒険者ギルド
約半年の鍛錬の結果、マリもルイも無事に魔法を習得することができた。
これにより、師匠による訓練期間も終了。これからは、各自で鍛錬を行うことになるようだ。
親元でゆっくり鍛錬を続ける子、また指導料を払って引き続き師匠に指導をお願いする子、中には鍛錬は一旦中断し、家の手伝いに専念する子もいるらしい。
そして我が家はというと、レオルとアネッサが定期的に2人に稽古をつけることになった。
最近知ったのだが、マリもルイも将来の夢は冒険者らしい。そんなやる気に満ちた2人のために、レオル達が冒険者としての心構えや魔物と対峙した時の立ち回りや野営の方法等、長期的な目線で、より実践的な内容を早い段階から教えていくそうだ。
そして、今日はその初めの一歩。冒険者ギルドへの登録の日。
レオル達によると、冒険者ギルドは、冒険者たちに仕事の斡旋やパーティメンバーの紹介、それに素材の売買なんかを行っている組織。
ラノベなんかでよく見る、冒険者のための何でも屋さんだ。
縦横の繋がりがない駆け出しの時期は特に、ギルドの斡旋無しに稼ぐのが難しいらしく、冒険者として働くためには、ギルドへの登録はほぼ必須なのだとか。
故に、マリとルイには早い内から冒険者登録をさせつつ、ついでにギルドでの依頼の受け方やオススメ依頼なんかを教えようということらしい。
「ここ、冒険者ギルドだったんだ。酒場か何かと思ってたよ」
マリとルイの冒険者登録だというのに、何故か冒険者ギルドに連れてこられたアリアンナ。そんな彼女が見たのは、見覚えがある建物だった。
「俺は知ってたぜ。シュートおじさんが入っていくのを見たことがある」
「私も知ってたよ」
マリとルイはちゃんと知っていたらしい。やはり5歳の差は大きい。
「さぁお喋りはここまでだ。中にはいるぞ。ルイもマリも元気に挨拶するように。最初が肝心だからな」
「分かった」
「うん!」
「よぉ!レオル」
レオルが重そうな木のドアを押すと、男性が声をかけてきた。
「あぁ」
「珍しく1人じゃないな。どうかしたのか?······って後ろの子らは、お前の子どもか?」
「こんちには!」
「よろしくお願いします!」
レオルとの約束通り、マリとルイが元気に挨拶をした。私は今日は付き添いなので、2人の後ろでペコリと頭を下げる。
「あぁ、双子のマリとルイ。それと、末娘のアリアンナだ。今日は、マリとルイの冒険者登録を頼む」
男性は、「へぇ〜なるほどな」と言いながら、面白そうにあごを触った。
「何だよ」
「いや、じゃあマリちゃんとルイくんは、これを」
そう言うと彼は、どこから持ってきたのか、羊皮紙のような紙をマリとルイの間に置いた。アリアンナが覗き込んで確認すると、【同意書】と大きく書かれてあった。
両親、それからマリもルイも、文字がほとんど読めないらしい。アリアンナが解説する訳にもいかないので、どうしようかと考えていると、先程の男性が丁寧に読み上げてくれた。
ちなみに私が、すんなり読めたのは、日々の努力の賜物。なんてことはなく、恐らく称号のおかげ。確か、あらゆる言語を理解可能という称号を持っていたはず。
内容に異論が無ければ、下の方に名前をサインをするようだ。レオルが頷いたのを見て、2人は自分の名前を書いた。
署名したのを確認すると、受付の男性は2人をバックヤードに案内した。
「あれ?まだ何かあるの?」
「あぁ。これから2人は、魔力の測定するんだよ。中に測定機があるんだ」
測定には時間は掛からないらしく、3人はすぐに戻ってきた。あとは、ライセンスカードの発行を待つのみ。
ワクワクする2人を見て、「ちょっと待っててな」と少し可笑しそうに笑いながら、受付さんは再度バックヤードに姿を消した。
「ふたりとも嬉しそうだな。あと少しでライセンスカードができるぞ」
マリとルイの頭を撫でながら、自分も嬉しそうなレオル。
「待たせたな。これが2人のライセンスカードだよ」
名刺くらいのサイズの、白いカードが2人に差し出された。
「すげー!俺のカード!」
「えへへ」
カードを高く掲げるルイ。
大事そうに胸元で撫でるマリ。
「尊い······」
「なんか言ったか」
「何も」
カードを貰った後、受付さんが色々説明してくれていたが、カードに夢中な2人も、そしてその2人を微笑ましく見つめるアリアンナも、全く頭に入ってこなかった。
唯一覚えたのは、冒険者のランクの話。冒険者のランクには位があり、低い方から、F→E→D→C→B→A→S。
2人はこのうち、最低ランクのFランクからスタートするらしい。
「アリアンナちゃんはまた今度な」
「はぁい」
マリとルイを見つめすぎた。受付さんは、どうやら私もカードが欲しいのだと勘違いしたらしい。なんだが恥ずかしくなって、俯いて返事をしてしまった。
「ははは。かわいいもんだ」
「マリちゃんもルイくんもアリアンナちゃんも、とってもかわいいね。困ったことがあったら、冒険者ギルドにいつでもいらっしゃい」
周囲からの生暖かい視線に、冒険者ギルドは案外気安い場所なのだと思った。




