地下にある古の香り
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
壁に染み付いた煙草の匂いと、骨董品特有の古い匂いは例外なく鼻を押し付けたくなります。
※一応、異常である事は分かってます。
僕は、僕達という種族は、その特性上、地下を好む。太陽が微笑まない、薄暗い世界を好む。だから、こうなるのは必然なのだ。
螺旋のその手前、ツンとした古いカビの匂いが鼻を突く。それに誘われる様に、ただゆっくりと下って行くと、赤茶と橙が入り交じる空間がある。僕はそこで、静かに珈琲を嗜みながら、ただゆったりと彼と会話を重ねていた。
「いつ来ても良い匂いだ。骨董品の匂いがする。何重にも時代を重ねた古い匂い」
彼はチェーン付きの眼鏡の縁を押し上げながらそうボヤいた。
彼は骨董品店の店主である故に、その様な匂いにも敏感であるらしい。偶に類似する匂いを察すると、誰に呼ばれるまでもなく近寄ってくる。それが空間そのものだったら、火が着くのはなおのこと。その中に潜りたいと言って聞かない。
「この地下はも一つその匂いが強い。良ければ潜ると良い」
「言われなくとも、もう潜ったさ。何も来るのは初めてじゃない」
そう言って僅かに口角を上げる。君に言われなくても、この子の全てを知っている様だった。
この純喫茶は世にも珍しい地下二重構造。螺旋を下った先に、また古い匂い纏わせた別の世界がある。正午の時間はまだ光さえ灯らない暗い闇の世界。ボックス席だけが静かに身を落ち着けている。その、なんとも背徳的な仄暗さが、僕の興奮を誑かして仕方がない。
「ふふふ」
「なんだ。気持ち悪い」
骨董品の店主は窘める様に僕を睨む。突然笑いだしたら気味悪がるのも必然か。
「君もよく知る僕の同業のお嬢さんと前に来たことがあるんだ。地下を見た時に、『背徳的でゾクゾクした』と話していた。君もそうなんじゃないかと思ってね」
仄暗い空間と言うのは、生命の背徳感を煽る。お天道様の前では悪い事が出来ないけれど、おつき様の前では甘え、縋ってしまうように。それは何も、夜の貴族である僕達だけに限らないだろう。
「まぁ否定はしないね」
オマケ 彼の性癖
骨董品店の店主は、古きものを愛する余りに、時折異常な行動に及ぶ。勿論、自分の持ち物で、そうしても障りないものに限られるが、膝の上に乗せて、素手で触れ回り、顔を近付けて匂いを嗅ぐ。そうして恍惚とした表情で、胸に抱き込む。
何となく、やましさを感じて、それを裏返した言葉が出る。
「やらしんだ」
「君だって似たような者だろうに」
その時の蠱惑的な目が窘める。ふしだらな一幕を覗き込んだ者を妖艶に詰る様に。『悪い子だ』と静かに窘める様に。
壁に染み付いた煙草の匂いと、骨董品特有の鼻を刺す匂いを嗅ぐと、手を伸ばして顔を押し付けたくなります。
絶対に手放したくない。
それに仄暗い空間が合わさると、背徳感でゾクゾクするんですよ。
例え何もやましいものがなくても。
その空間自体に魅了されて、情を煽られるんです。
だからオマケは彼の性癖(本来の意味と、スラング的な意味の両方)であり、私の性癖でもあると思います。
人間だけが脳を焼くわけじゃないんですよ。