散る
残酷な描写があります。苦手な方はページを閉じてください。
「おねえちゃん!」
「おねーちゃん?」
「おねえちゃん〜!」
行かないで、私の姫。
ずっと私のそばに居て―
目が覚めると白い天井が見えた。
いつのまにか寝てしまっていたらしい。
「はぁ、なんでこんな夢…もうあの子は居ないのに。」
私の妹、姫夏は4年前に死んだ。
まだ10歳だった。
私とは7つ歳が離れていて、それはもうかわいい妹だった。
姫夏は交通事故でこの世を去った。
飲酒運転のひき逃げで。
事故があったのは下校時間で、不幸なことに姫夏以外にも撥ねられた子が居た。
その子は姫夏の友達。
重度の障害が残ってしまったと聞いた。
何の罪もない子が殺されてしまった。
私のかわいい妹はもう二度と帰ってこない。
仏壇で微笑む彼女はもう二度と喋ってくれない。
重い身体を起こす。
「もう死んでいいかな。あの子の元へ行ったほうがきっと幸せなのに。」
カウンセリングを受けても、心の傷は癒えない。
薬を飲んでも、霊安室のあの光景が目に浮かぶ。
姫夏の葬儀が終わったあと、私は身投げをした。
そのせいで右腕が麻痺して動かなくなった。
バカバカしい人生が本当に嫌だ。
仏壇の前に座り、遺影を見つめる。
あの頃はどれだけ幸せだっただろう。
あの頃に戻れたらいいのに。
気付けば涙が溢れてきた。
弱いお姉ちゃんでごめんね。
守れなくてごめんね。
インターホンが鳴り、玄関ドアが開く音がした。
「零夏〜、今日はどう?」
「…」
「今日も暑いね。」
彼女は詩山奏。
高校の時の友達だ。
事故以来、学校にも行けなくなった私の元へわざわざ来てくれている。
有り難いが、もういいのに。そう思ってしまう。
「零夏、パン置いてくから食べれたら食べてね。」
パンを置いて、奏はバイトに行った。
ごめんなさい。
私、今日で終わります。
震える手でパンの袋をこじ開け、3日ぶりに食事を摂る。
美味しいかも分からない。
ただ無心で食べていく。
ゴミを床に放り、その場に寝転ぶ。
白い天井。無機質。
ごめんなさい。
昼下がりになり、身体を起こす。
姫夏の遺影を手に取り家を飛び出した。
これで終わり。終わりなんだ。
ボサボサの髪、汚い身。
道行く人はきっと私をゴミだと思うだろう。
それでいい。
もうそれでいいから。
遠くで響き渡る踏切の警報の音。
それも聞こえないくらい無我夢中に走る。
雨の降る街を走って、踏切の中へ入った。
線路を少し歩いて、横たわって。
雨が身体を濡らしていく。
姫夏、今行くからね。
警報が鳴り始め、遮断器が降りる。
電車の走る音が身体に響いてくる。
怖い。だけどいきたい。
轟音と汽笛が鳴り響き、私は散った。
遺影は粉々に。私はバラバラに。
これでよかった。
姫夏、これでずっと一緒だね。