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第7話 千年戦争

絵美と千夏はペットショップからアメリカンショートヘアーの子猫を引き取り千夏の家まで連れて帰っていた。


千夏の部屋で二人と一匹の会話は続く。


「よろしくお願いします。小太郎さん。」


絵美が小太郎に頭を下げる。

子猫の名前は本来ミカエルというが、本名を声にすると敵が近寄り、絵美達に危害を加えるかも知れないということから、今後ミカエルのことは「小太郎」という名前で呼称することとなったのだ。


「それで、もう少し小太郎さんのことを教えて頂けませんか?どうして私達と会話ができるのか、とか、小太郎さんとサタンの関係とか・・」


小太郎は少し険しい表情になった。


『うむ。よいだろう。少し長くなるが、絵美が疑問に思っていること全てに応えよう。ただし、途中で質問を入れるな。絵美が千夏に説明を入れるのはかまわないが、とくに千夏からの質問は私が話し終わってからにして欲しい。』


絵美が頷く。

そして千夏に向いた。


「ちなっちゃん。」


「うん。」


「今から小太郎さんが私達の疑問に答えてくれるけど、質問は話が終わってからにして欲しいそうなの。だから少しの間我慢してくれる?」


「もちろん。いろいろ質問したいけど、我慢する。」


それから小太郎は長い時間をかけて絵美に語りかけた。

小太郎の説明はおよそ30分にわたって続いたが、要約すれば、このような内容だ。


小太郎の本名は「ミカエル」神の軍隊の戦士長。


挿絵(By みてみん)


双子の兄ルシファーと供に神の軍団を率いていた。


地球には太古の昔から天使を含む神族、人々が悪魔と呼ぶ魔族、ドラゴンと呼ばれる龍族、フェアリーと呼ばれる妖精族、そして人類が存在していた。


神は全ての種族を平等に愛していたが、神族でもあるルシファーが「神は人族のみを寵愛している。」と邪推し、あるとき神に反旗を翻した。

しかしミカエルが指揮する神の軍団に敗れ、堕天使となった。

堕天使となったルシファーはゲヘナ(地獄)に潜伏し、復活の時を伺っている。

ルシファーは過去に何度か地上界(人間界)に姿を現し事件を起こし、やがて「サタン」という名で人々に恐れられる存在となった。


ルシファー(サタン)は今でも復活の機会をうかがっていて、ここ数年活動が活発になっている。


小太郎が今、猫の姿をしているのは、サタンの計略により『輪廻の大樹』が不具合をおこしているから。


全ての種族の根幹は『魂』であり、その魂は原則として永遠に不滅である。

ただしこの世に存在するためには魂の器、つまり肉体が必要であり、その肉体はいずれ滅する。


肉体が滅んでも魂は『輪廻の大樹』で魂が浄化され、前世の記憶も消去された後、次の器に入魂される。

これが人間界で言うところの『輪廻転生』である。


神以外の種族、天使を含めて全ての種族は、この輪廻の輪から外れることはない。


ミカエルは本来、人族として受肉する手はずであったが、サタンが『輪廻の大樹』に何か悪影響を与えたようで猫に受肉してしまった。


「だいたいわかりました。」


絵美は小太郎が一息ついた時にそれまでの小太郎の話を千夏に伝えた。

千夏は何か言いたそうにしたが、絵美がそれを制して、小太郎に向いた。


「小太郎さん。少し質問して良いですか?」


小太郎が蹴伸びをした。


『良いよ。』


「小太郎さんが天使様だというのはわかりました。でも、なぜ私と天使様が会話できるのでしょうか?」


『ふむ。私も少し疑問に思っていた。なぜ絵美に霊力が備わっているのか。霊力については絵美自身、何のことだかわかっているよね?』


「はい。人の霊魂が見えたり、その霊魂と会話できる力のことでしょう?」


『うむ。そのとおりだ。私と会話できるのもその霊力のおかげだ。そここで絵美になぜ霊力がそなわっているかだが・・・・おそらく・・・』


「おそらく?」


『絵美は神族だろう。何世代・・・何十世代前は天使だったということだ。』


「え?え?え?」


『何も驚くことはあるまい。絵美に、霊力・・不思議な力があることは幼い頃から感じていただろう?絵美が普通の人間達と異なる存在であることは感じていただろう?』


「はい。自分は他の子供達とは違うとは思っていました。周囲からも『変な子』とか『悪魔付き』とか呼ばれていました。」


『悪魔付き?酷い言いようだな。絵美は悪魔付きどころか天使の生まれ変わりだよ。もっともまだ自覚はできないだろうけどね。絵美の霊力は日増しに強くなっている。私と接触した影響もあるだろう。そして完全に覚醒したときには天使だった頃の記憶が蘇るはずだ。』


「私が天使・・・・」


「絵美が天使って・・・」


絵美のつぶやきに千夏が反応した。

絵美は困惑の表情で千夏に向く。


「私、人間じゃないそうなの・・・」


「どういうこと?」


絵美はミカエルからの話を要約して千夏に伝えた。


「びっくりした。・・・でも絵美は絵美よね・・・ねぇ絵美。」


「うん。私は、私、千夏の親友よ。それは間違いないわ。」


「よかった。アハ。」


千夏の顔に安堵の灯りがともる。

絵美が蹴伸びをしている小太郎に再度、問いかける。


「小太郎さんの言うことはある程度理解できました。もう一つ質問があります。」


『なんだね?』


「私が初めて小太郎さんに会った時、小太郎さんが言っていた『この世にとってしごく重要な事』って何ですか?」


『ああ、そうだったね。その情報を伝えることが私の解放条件だったね。この世にとってしごく重要な事・・・それは・・・千年戦争の時期が迫っている。ということだよ。』


「千年戦争?」


「!!」


絵美のつぶやきに千夏も驚く。


『サタンは過去に二度、神に対する反旗を翻し二度とも敗れ「ゲヘナ」、絵美達の言葉で言う「地獄」へ追いやられている。最初の戦いは紀元前10年頃、前回の戦いは西暦1000年頃だ。そして前回の戦いから1000年以上経過してサタンは力を蓄えた。そろそろ行動の時期なのだよ。絵美、君なら少しはわかるだろう。この世の変化が』


「そういえば・・・私が幼い頃より、彷徨う霊魂の数が増えているような・・・」


『それも前兆の一つだろうね。ルシファー・・・サタンは輪廻の大樹を悪用しているらしい。詳しいことはまだ私にもわからないが、人族の輪廻転生が阻害されているのは事実だ。』


「それは・・・大変なことですよね。簡単に言えば最終戦争・・・この世の終わりが近づいているってことでしょう?」


『うむ、簡単に言えばそうだね。』


「じゃ、私はどうすれば?」


『何もしなくて良いよ。というか今は何もできない。』


「え?どういうことです?」


『私も絵美も今は弱者だ。サタンの行動を止めるすべが無いのだよ。それに絵美や私は神族だから、例え何があろうとも輪廻の輪から外れることはない。この人間界が滅んでも魂が消滅することはないからね。』


絵美は千夏を見た。


「私や小太郎さんだけは魂が消滅しない?・・・じゃ千夏は?」


『・・・千夏には言うな。・・・場合によっては魂が消滅するかもしれない。しかし、それもまた人間の運命だ。』


「そんな・・・」


千夏を見る絵美の目が少し充血した。


「え?何?どうした?私なにか悪いことした?」


絵美の表情を見て慌てる千夏。


慌てた千夏を見て何か答えようとした絵美を小太郎が制する。


『駄目だ。今はまだ言うな。千夏に絶望を与えるだけだ。』


『そんな・・私、千夏にだけは嘘をつけません。』


『嘘をつけとは言っていない。今はまだ言うなと言っている。』


『今は・・・ということは、いずれ話せる時が来るということですか?』


『明言はできないが・・・その時がきっと来る。』


『何時です?』


『絵美と私が覚醒したら・・・その時には話してもよかろう・・わずかだが希望の光はある。』


『覚醒?』


『詳しいことは説明が難しいが、絵美と私が強くなって・・・その時、絵美に天使の記憶が蘇れば・・・ということだ。』


『わかりました。私が強くなれば良いのですね?そうしたら千夏を守れる。・・・そういうことですよね?』


『簡単に言えばそういうことだ・・・長くしゃべりすぎた。少し疲れたから寝るよ。子猫の体力はか細い・・・』


そういって小太郎は丸まった。


「あ、あ・・小太郎さん。」


丸まった小太郎を見て千夏が言った。


「何?何?何がどうなったって?」


千夏の問いにすこし戸惑う絵美。


「あのね、小太郎さんの話だと、この世の終焉が近いんだって・・・」


「ええ~、ナニソレ・・・私達死ぬの?・・・」


「そうじゃない・・・そうじゃないけど・・・詳しくは言えないの。言わないんじゃなくて、言えないの。でも、私何があっても、ちなっちゃんのことだけは守るから、必ず守るから。ねっ・・信じて、ちなっちゃん。」


「・・・詳しくはなして・・・って言っても無理のようね・・絵美が私に嘘をつくわけなもんね。よっしゃ!!信じる。今までと同じ。絵美の事は私が守る。だから絵美もなにかあったらワタシを守ってよ。ねっ。」


「うん。」


(ちなっちゃんは必ず守るわ・・・何があっても・・・)


その日の夜、絵美はうなされた。

絵美達に襲いかかる悪魔の軍勢、それに立ち向かう絵美と小太郎。

悪魔の軍勢は火を噴きながら絵美達に迫ってくる。


炎と絵美達の間隔が徐々に狭まる。

やがて絵美と小太郎は炎に包まれる。


「あぁぁぁ~やめて~」


自分の声で眠りから覚める絵美。

体中に汗をかいている。


「ふぅ~。」


タオルで首筋を拭いているときに声をかけられた。


「絵美ちゃん。」


絵美が振り向く。


「じいちゃん。」


『ずいぶん、うなされていたね。どうしたの?』


「うん。ちょっと悪い夢を見たの。怖かったわ。」


『そうかい。じいちゃんも夢には勝てないけど、もしじいちゃんに出来ることがあったら、言いなさい。じいちゃん、絵美ちゃんのためなら何でもするから・・・』


「うん。ありがとう。・・・ところでじいちゃん。」


『うん。なんだい?』


「じいちゃんは輪廻に還らないの?」


『成仏しないことを言っているのかい?』


「うん。」


『それはいくつか理由があるけど、まず一つは絵美ちゃんだ。』


「私?」


『そうだ。絵美ちゃんのことが心配なんだ。』


「何がそんなに心配なの?」


「ワシが死んだとき、家族全員の姿を見納めてからあの世へ行こうと思っていたんだが、その時にね。絵美ちゃんにね・・・」


「何?」


『絵美ちゃんに黒い影が付いていたんだ。おそらく何か悪いモノだ。じいちゃん、一生懸命、その黒い影を追い払ったよ。でも駄目だった。それでしばらく様子を見ていたら、その影は近所の子供・・・・なんてったけ・・えーと。ほら・あの生意気な・・・』


「ユウキ?同級生の山田ユウキ?」


『それそれ、黒い影は絵美ちゃんから離れて、そのユウキっちゅう子にとりついたんだ。後から耳にした話では、そのユウキ、殺されそうになったんだってね。それを絵美ちゃんが阻止した。なのに大人達は・・その後も時々黒い影が絵美ちゃんの周りをうろうろしてたけど、なぜだか絵美ちゃんが成長するに従って絵美ちゃんに近寄らなくなったんだよ。』


「それじゃ、もう大丈夫でしょ?成仏できるでしょ?」


『うん。何年か前に一度、成仏しようとしたんだ。』


「それで?」


『成仏したいと願ったら、いつの間にか別世界におった。そこは湖の畔じゃった。何処までも透き通る水、湖に突き出た半島の先には大きな木があって、ワシは直感的に悟ったんじゃ。その木の中でワシは生まれ変わるのだと・・・その木の前に立った時、突然、何人か・・いや何個かの魂が木から飛び出てきた。そして口々に叫んでいた。」


「なんて叫んでいたの?」


『サタン、サタン。と叫んでおった。』


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