シャンデリアの舞う海へ
短いようで長い。それが私の感想だった。私とリオンは認められた関係へとなったのだ。夜は婚約パーティーが開催される。当然舞踏会がメインになるのは当たり前の事。楽しみでもあり恥ずかしい。
「緊張しているのですか?」
「そりゃあそうよ。この年になって妻になるなんて思いもしなかったもの」
「ふふふ。そうですか」
いつもの調子でリオンと話している。この瞬間が楽しくもあり、少し切ない。リオンは国王の元へと挨拶をする為に、離れていく。私は彼の背中を見つめながら初めて出会った時の事を思い出した。
「不思議ね」
まるで昨日の出来事のような錯覚に陥っている。デジャブと言うのだろうか。私はワインを片手にくるくると回しながら楽しんでいると、誰かの視線を感じた。見たくない、でもきちんと向き合わないといけないと思いながら振り向くと、人込みの向こう側にミシャがこちらを見ている。
私はにっこりと微笑みながら、軽く会釈をする。すると罰が悪そうな顔をしながらでも私と対等に立とうとする彼女の意思なのか会釈を返してくれた。内心はらわたが煮えかえる程の感情を抱いているに違いない。そんな彼女をたしなめるようにクロウが横にいて、ミシャをエスコートしている。
兄妹なのに、以前感じた時とは違う関係性のような気がしたが……それは私に関係のない事だと割り切りながら一口ワインで清める。色々な人達がいる中でも私とリオン、そしてミシャとクロウだけが浮いて見える。
「待たせてごめん」
数秒しか経っていないと感じていた時間は私が感じた以上に過ぎていたらしい。リオンの声に引き寄せられるように、彼の手を掴む。いつもはリオンから差し出してくれていたのに、今日は自分から行動するなんて自分にも大胆な所があったのだと気づいた瞬間だった。
驚いていたリオンは次第に頬を赤らめていく。
◇◇◇◇
シャデリーゼがトイレに行っている間にことが起こった。ミシャがリオンに挨拶に来たのだ。ミシャとはあの日以来会っていないリオンは、今までと同じ自分で接する事が出来なくなっていた。
自分から話す事は何もないと思っていたリオンだったがクロウの計らいで仲直りをしてほしいと懇願されたのだ、無下に断る事なんて出来なかった。
「リオン……この間はごめんなさい。取り乱してしまって」
「もういいよ、終わった事だ」
「……怒っているよね?」
「……大丈夫だよ」
精一杯の笑顔が作れているだろうかと不安が押し寄せてくるリオン。きっと表の表情だけでもきちんとしていれば新しい関係性を作る事が出来ると思っての行動だった。しかしその笑顔を見たミシャは、諦める決断をしていたのに、揺らいでしまった。
他の女性と夫婦関係になっているリオンの立場など気にせずに自分の想いを八つ当たりのように吐き出したのだ。
「聞きたくなかったよ……ミシャ」
悲しい顔でそう呟くと逃げるように、シャデリーゼの待つ自分の心の居場所へと戻っていくのだ。
◇◇◇◇
私は何も気づかなかった。リオンも私に負担がかからないように、この事を話す事はない。でも空気感が少し違う事に気付いた私は、リオンの頬を撫でキスをする。周囲に人がいて、この光景をその他大勢が見ていても、構いはしない。
「シャデ……ん」
唇を離すとあどけない少年がそこにいる。私達はふふっと笑い合うと同時に証明が暗くなった。そして淡い色の光に包まれて、ダンスが始まるのだ。
私達はきっとこうやって支え合いながら幸せを作っていく、そう信じて。
シャンデリアの中で舞う魚達のようにステップを踏み続けるのだから──