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私の目の前の現れた赤子には光のプロテクトが貼られている。触る事は出来るがプロテクトを破る事は出来ない。どうなっているのかと思いながらも、光の壁をなぞると、嬉しそうにキャッキャッと笑っている。
その姿を見ると、少し安心した。ホッと息を整えると、自分のやるべき事を考えだしたのだ。この状況で冷静な判断が出来るかどうかは分からない。しかし、いつまでもこのままほうけているのも違う。
その時だった。私の考えている事を見透かすようにプロテクトから映像が流れ始めたのだ。映像として形を整えている映像は露庵の姿になった。
<リベスタ様、改めて初めまして。私はクベルトの妻「露庵」と申します。この映像を見ていると言う事は私は存在しないものとして役目を果たせたのですね>
今までの色香の漂わしていた露庵とは違う雰囲気の女性がいる。私はクベルトと言う名を聞いてクレイ伯爵のご子息と言う事実に気付く。私はその妻と寝ていたのかと思うと罰が悪かった。
<私の娘の名前はもう決めています。名前は「ミシャ」そしてこの子をどうかクベルトへと届けてください。勿論私と貴方との子供と言う事実は伏せて、ですわ>
この女は何を言っているのだ? 自分の旦那に私との子を預けるとか正気じゃない。私は彼女の言葉を理解するのに時間がかかりそうだ。正直、眩暈がしてきた。
<この子にはプロテクトを張っています。栄養なども全て与える仕様となっている優秀な結界。しかしある一定の年数が過ぎないと年齢を重ねる事が出来ません。その時が来たら結界は外れ、すくすくと成長しはじめるでしょう>
母親の声を聞いて嬉しいのか楽しそうな赤子……ミシャの笑い声がする。まるで露庵を求めているように。
<後はクベルトが色々出来ると思いますわ。貴方には過酷な事でしょうけど……それもまた一興>
<クベルトへ届けてくださいね。それではいつか来る崩壊の時まで──>
それを最後に露庵の姿は弾けて消えた。先ほどまで光っていたプロテクトも何もなかったように静寂を務めているようだ。これ以上の情報は何もない。しかし、自分のすべき事を把握する事が出来た。私とて、妻と子供がいる身、こんな事がおおやけになれば、ただじゃ済まないだろう。
彼女にどんな思惑があるのか不透明だが、ここは大人しく言う事を聞くしかないと思ったのだ。
私が人生の中で初めてした「過ち」をなかった事にする為に──