❸
「このような日に何故お前と会う時間を作らなければならない?」
「……」
「今日は大切な客人が来ていると伝えておいただろう? ミシャの監視はどうした」
「侍女に任せました。どうしてもクベルト伯爵とお話すべきだと……」
クベルト伯爵からはリオンや私に向けた優しさを感じる事が出来ない程、ピリピリしている。機嫌が悪いようだ。そりゃそうだろう、婚約者が来ている所に部外者の者の来訪など、失礼に値する。
「悪いが、お前と話す事はない」
「……私と関わりたくないのはお察しします。しかしミシャの為に、どうか」
先ほどまで無表情を保っていたクロウが唯一見せた感情的な表情に、また一層、苛立ちを募らせていくクベルト伯爵。相手が話をする気がない、聞くつもりもないと言うのに、強引に言葉を吐き続けるクロウが醜く見えていた。
「お前達クロウ家は表向きは評判がいい。しかし実際は違うだろう。裏を見てきた私がそう言うのだ。悪いがお前達の私情に息子を巻き込ませる訳にはいかない」
「そんな事は致しません。私、クロウハーベストが誓います」
話は平行線を辿っている。元々深い繋がりがあったクベルト家とクロウ家。昔は互いが互いを支え合うような関係性だったのに、クロウがミシャに入れ込んでしまい関係性が壊れてしまったのだ。
その事で、クベルト伯爵もミシャに対していい思いは抱いていない。それもミシャはクロウ家の血筋を持っていない、それならば余計に、必要がないのだろう。
「口では何でも言える。言い訳は結構だ。ミシャの事がそんなに大切なのならば、お前の嫁にすればいいだけだろう? 血の繋がりもないのだし」
「……」
クロウは侮辱された事に痛みを感じながらでも、耐えた。どんな言葉の刃が降り注ごうとも、ミシャを守るのは自分の役目だと自負している。それは兄妹愛を超えてしまっているレベルだ。
クベルト伯爵はクロウの気持ちに気付いているような話し方をしている。お前にとっても、私にとっても、それが一番いい形だと説得するように。
話す事も、聞く事もしないと言っていた割には、きちんと向かい合うクベルト伯爵の人柄がにじみ出ている。クロウ家との間に何があったのかは、両家しかしらない事柄だから、余計に──だ。