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クベルト伯爵は待ち人を待っていた。ある程度の仕事を終わらせて後は来るのを待つだけだった。腕を組みながら、難しい表情で考え事をしていると、コンコンとノックをする音が聞こえた。
「──入れ」
「旦那様、失礼致します。クロウ様がお見えになりました」
「通せ。リオンには気づかれぬようにな」
「はい」
前々からクロウとは話さないといけないと思っていたクベルト伯爵なのだが、今日は私とリオンが会っているのを知っていて、この日を指定するとは、何を考えているのだ、と思いながら深いため息を吐く。
クロウの言いたい事は分かっている。妹のミシャの事だろう。昔から何度も婚約の申し出があった。勿論相手はミシャだ。リオンは優しくしているようだが、知識もない令嬢にこの家を預ける事は出来ない、そうクベルト伯爵は判断している。
年齢を考えると、リオンと二つしか離れていないから、丁度いいように見えるが、実在は違う。いくら年齢が近くても、リオンはクベルト伯爵の後継者なのだ。中身のある、知的な女性が欲しいと思っていた。
そんな時にリオンが興味を示した女性が現れたと聞き、リオンに色々質問したのだが、プライドは高いが、きちんとした作法やマナー、後は情勢についても知識を持っている事が発覚した。
唯一、リオンが気にしていたのは年齢差の事だった。クベルト伯爵自体は若い奥様を選んでいる事もあり、理解してくれる可能性があると思いながらも、言うのを戸惑っていたらしい。
「リオン。お前はその令嬢に惚れたのだろう? 何を迷う事がある」
自分の置かれた状況も理解しているリオンはクベルト伯爵の立場を心配していた。その時はまだリオンが惚れた令嬢が、何処の令嬢かも分からない状態だったのだから不安もあっただろう。
クベルト伯爵はポツリと呟いた。
「グール伯爵ならリオンのサポートをしてくれる、そして家柄もいい。それに比べてクロウ家は……」
──コンコン
クベルト伯爵の返事を待つ事もせずに、部屋のドアを開けてくる常識知らずな客人がやってきた。
「お久しぶりです。クベルト伯爵」
「……クロウ」