夢の中
クロウに見つめられながら寝ているミシャがいる。暴れ疲れたのか、泣きつかれたのか、両方が原因でスヤスヤと夢の中。そんな彼女の姿を見ているクロウはゆっくりとミシャに近づき、瞼にキスを落とす。
「寝ている時は可愛らしいのにな……」
切なそうに呟く、クロウの瞳は嫉妬の炎が揺れている。クロウとミシャは年が離れている。幼い頃に親が他界したミシャをクロウ家が養女として引き取ったのが出会いだった。
最初の頃はクロウにばかり甘えてくる可愛らしい女の子だった。しかし成長していくにつれて、年が近いリオンの事を意識するようになったミシャ。幼馴染の関係を壊して、婚約をしたいと聞いた時は、ズキンと胸を痛めた事もあった。
クロウはミシャを義理の妹としてではなく、一人の女性として意識している。その事には誰も気づいていない。真実を知っているのはクロウ本人だけだ。
あの夜、自分のせいでミシャが遅れて行った。リオンとの出会いの日幼い頃に親に連れられてきた時に、二人は関わりを持ち、幼馴染となった馴れ初めがある。本来は大人しか参加が出来なかったのだが、それはごく最近に改正された。
ダンス会場はクロウ家が所有しているからこそ、ミシャの年齢に合わせて規律を変えていたのだ。特別扱いをしていると思われるかもしれないが、それ程、片時もミシャの傍を離れたくなかったクロウの想いがある。
「お前を渡していいのか……本当に」
ミシャに聞こえていたらどう回避したらいいのかと考えながらも、彼女の愛らしい寝顔を見る度に、ぽつりぽつりと言葉が溢れていく。最近になって得にミシャは美しくなった。
いつか自分に振り向いてくれるなら、と色々な事も我慢してこれた。リオンはミシャに対して優しかったし、自分の気持ちを封じ込めてでも、認めるべきなのも覚悟していたのだが、他の令嬢を気に入るなんて思いもしなかった。
クロウはミシャを起こさないように、侍女に見張っとくように、と念には念を入れ、彼女の元を後にした──