❼
馬車から降りようとすると、目の前にリオンが姿を現した。さっきまでエスコートしていたルビーは気をきかせたようで、リオンにバトンタッチをする。満面の笑みで私にそっと手を差し出してくるリオン。私は恥じらいながらも、手を置いた。
「お待ちしておりました。シャデリーゼ様」
「……こちらこそお招きありがとうございます、リオン様」
ダンス会場の時のリオンとは少し印象が違う。落ち着いた服装をしているからだろうか。それとも髪のセットの仕方を変えているからかもしれない。そんな変化にもドキッとしてしまうなんて、不覚。
「疲れたでしょう? 僕の屋敷でゆっくりしてください」
「ありがとうございます」
あの夜はトゲのある言い方が殆どだったけど、今日のリオンはどちらかと言うと優しさ全開って感じかしら。こういう一面を見ているとクベルト伯爵と似たエスコートの仕方だな、と感じた。
あどけなさ、幼さが残っているリオンのこれからの成長が楽しみになってしまいそうになる。
まだ「婚約」段階であって結ばれた訳でもない。これが会うの二回目だし、まだ彼の事を知らないのだから慎重に動かないといけない。グッと心の中でそう誓う私に気付く事なく、リオンは屋敷の中へと私のペースに合わせて歩いてくれている。
(こういう心遣いも出来るのね)
意外な一面を見ている。第一印象は失礼な人だったのに、こうも変わるものかしら?
「どうしましたか?」
「少し考え事をしていただけよ」
「僕がいるのにですか?」
周りの使用人達と離れて歩いていると、トゲを出してくるリオン。彼の姿が変に輝いて見える私は近づいてくる顔を逸らしながらも、喜びに満ちていた。