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馬車の用意が出来たので、私はリオンの屋敷へと向かう事にした。少し時間はかかるが、決して遠い訳ではない。一応令嬢だから、何かあってはいけないとお父様が配慮し、馬車を使う事になったのだ。
私とお付きの人で行くのも考えたのだが、何せ歩きは時間がかかる。足も疲れるし、綺麗なドレスを着ているのに、汚れたりしたら大変。これが街に出かけるだけだったのなら、歩きを選択するけど、今日は違うから仕方ない。
お付きの人は誰になるのだろうと思っているとなんとメイドのルビーだった。彼女の仕事はお付きじゃないのに、今回はどうしても私に付き添いたいと申し出たらしい。社交界や伯爵達と関わる事がない彼女からしたら、未知の世界なのだろう。
「ルビーが付いてくるのね」
「はい。「お嬢様」のような立派なドレスは持っていませんが、私なりに身なりを整えてみました」
いつも黒がベースで白フリルのメイド服を着ている所しか見た事がなかったから、別人のように見える。私のドレスの色に合わせて「ブルー」のスーツを着ている姿はしっくりしている。
「似合っているわ」
「ありがとうございます。色を合わせてみました」
「でもどうして男性のようなスーツを着ているの?」
私は彼女の姿を見て、ズボンではなくスカートを選べばよかったのに、と指摘した。するとルビーは主役は「お嬢様」ですから、ときっぱりと言い切り、背筋を伸ばして、私をエスコートする。
その姿はどんな男性よりも頼もしくて、力強く感じた。