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私は視線を彼からシャンデリアへと注ぎ、ホウッとため息を吐く。週末になると開かれるこのダンス会場。ここには色々な立場の人達が集まり、ひと時の癒しとして出会いとダンスを楽しんでいる。
自分の意思で来た訳じゃないのに、何故だか天井から零れ落ちそうなシャンデリアを見る事が楽しみになっている。お父様が「結婚」の二文字を出して、ここに来ている訳だけど、そんな気は起きなかった。
「綺麗」
シャンデリアはまるで海のようで幻想的な絵画を見ているように感じた。私はその光景に目を奪われていると、声をかけてくる人がいた。
「シャデリーゼ様ですか?」
私はフッと我に返り、問いかけてくる人物へと視線を移していく。
「そうですが? 貴方は?」
「貴女に見とれている男ですよ」
ああ。さっきの目立っていた子ね、私は彼が求めるであろう笑顔を演出しながら、仮面を被っていく。きっと貴方も他の男と同じ。本当の私を見る訳じゃない、気づく訳じゃない、と決めつけて……
「ダンスの相手は見つかりましたか?」
「……」
「もしよろしければ、僕とダンスしてくれませんか?」
「え」
名前も立場も名乗っていないこの状況でダンスに誘うなんて何を考えているのかしら。私は笑顔を作っていた事も忘れそうになってしまう。彼に気付かれないように小さくため息を吐くと、こう言った。
「名前を名乗らない方との申し受けは出来ませんわ」
少し冷たい言い方だったのかもしれない。しかし最低限のマナーくらいは守ってほしい所。まだ私だからよかったものの、他の女性にしていたらそれこそ後ろ指を指されてしまうわよ? 貴方。
「そうでしたね、僕の名前は「リオン」と申します」
にっこりと凶器的な笑顔を見せつけてくるリオン。私は見るからに年下で、礼儀もない彼を子供のようにしか思えなくて、あしらおうとする。
一応お父様の顔に泥を塗らない程度にやんわりと……
「すみません、先客がいますので」
「先客ですか? そのような方見えませんね」
「……えっと。トイレに行っているのです」
「それでは「その方」が戻られるまでお相手願いませんか?」
彼はどうにかして断ろうと理由付けをしている私に気付いているよう。どうしてここまでしつこくしてくるのか分からない。
声を荒げてきっぱりとお断りしたいのに、それが出来ない……してしまったらお父様が用意した好きでもなんでもない「婚約者」を勝手に決められてしまう可能性があるから。
ぐっ、と拳を握りながら耐える。
それしか逃げ道がなかった。
「大丈夫ですよ、僕がサポートしますので、ダンス経験がないシャデリーゼ様でも」
「なっ……!!」
ダンス経験がないですって? 私はその一言にカチンときてしまい、彼に言った。
「ダンスくらいできるわよ、バカにしないで」
プライドが高い私の性格に気付いていたのだろうか、それともそういう情報がまわっているかもしれない。私は彼の挑発に簡単に乗ってしまったの。
彼は満足そうな笑みでサッと手を差し出し、エスコートをする。
「行きましょう、お嬢様」