❹
ルビーとの気まずい空間が続き、変に疲れてしまった。何を言っても丁寧に返されてしまうから、何も言えなくなった私は無言でいるしかなかった。ルビーも何か考え事をしていたようで、会話を続ける気がないようにも見えた。
私は癒しを求めるようにフラリと自室を出た。お茶が欲しい。そこまで知識はないけど、私はお茶好きで有名。自分でも理解している。それほどお茶を愛しているのだ。
「フランス……いないかしら」
フランスは、執事だ。お茶を入れるのが上手くて、何かある事に彼の元へ行くのが習慣になっていた。呼び鈴を鳴らしてくれれば、こちらから行きますと何度も言われたが、それじゃ意味がない。
屋敷を歩くのも癒しの一つになっているから、楽しめる。まるで逃げているフランスを見つけるゲームをしているよう。彼はいつも上手く隠れているから、中々の暇つぶしになる。
「おや。どうした? シャデリーゼ」
「げっ……お父様」
一番会いたくない人に遭遇してしまう事もある。それは運が悪かったと思うしかないのだが、どうしても言葉や態度に出てしまうのだ。
「「げっ」とは何だ。父に言う言葉か?」
「いえ。そのような事はありませんわ。お父様がお屋敷にいるとは思わなかったので……」
忙しいお父様が屋敷にいる事自体が珍しい。それもまだ昼間。何かあったのかしらと首を傾げてしまったが、ハッと我に返り、体制を元に戻した。
「今日は来客があるのでな。お前こそ何をしている」
「……フランスのお茶が飲みたくて彼を探しているのです」
フランスに用事があると言う事はまた気に入らない事があったと言う事。それに気づいたお父様は頭を抱えながら、言葉を落とした。
「何か嫌な事があったのだな。お前は……少しは自分と言うものを理解す──」
「説教は夜にしてください。私はフランスに用事があるのですから」
私はお父様の言葉を遮って、自分の言葉を無理矢理被せた。今説教を受けるのなら、いつものように夜受ける方がいい。昨日は私があんな状態だったから説教はま逃れたが、毎日の日課になっている。
「ところでフランスは何処にいますか?」
「はぁ……私の書斎だ」
「探しても見つからない訳ですわ」
「私が呼んでこよう」
「いえ。お父様のお手を煩わせ訳にはいきませんから、自分で行きます」
「そう……か」
いつもの私ならお父様の説教を受けていたかもしれない。私の様子が変わったと実感したお父様は、私の背中を試すように見つめている。