❸
「クベルト伯爵のご子息なのね」
「はい、そうですよ。奇抜な髪色の方ですね、社交界では有名です」
「……知らなかった」
「「お嬢様」は興味を持たないと話を流す癖がありますからね。以前わたくしがお伝えしたのですが、覚えていないでしょう?」
どうせ、と心の声が聞こえてきた気がした。私は言い返す言葉が見つからず、話を逸らそうとする。
「そういえば以前から思っていたのだけど、その「お嬢様」ってやめてもらえないかしら?」
「……何故です?」
「私、今年で30よ?」
「それが、何か?」
キョトンと首を傾げるルビーを見ていると、この年齢でお嬢様はないでしょう、と言ってやりたくなる。それに私とルビーの付き合いは長い。お父様の目がある訳でもないし、もう少しフランクに関わりたいのが本音だもの。
「では「シャデリーゼ様」がよろしいのですか?」
「それも嫌ね」
「では何とお呼びになればよろしいのですか?」
「呼び捨てでいいわ。私とルビーの仲じゃない」
「それは難しいですね。私と「お嬢様」は立場が違いますから」
ガクッと肩を落としながら、ジトーとした目でルビーを見つめる。しかしルビーは表情を崩す事なく「メイド」として仕事を全うしようとしている。
「はぁ……もういいわよ」
「そうですか「お嬢様」」
今まで提案をする事を躊躇っていたのに、勇気を出して伝えると簡単に玉砕された。元々真面目だから、仕方ないのかもしれない。