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あまりにも気持ちよくて長湯をしてしまった。少しのぼせたようだ。私は髪を乾かしながら、微睡んでいる。
「本当に、便利ね」
両手で長い髪を挟みながら、空気の流れを変換していく。すると風は微力だが温度を一定に保ちながら、テキパキと髪を乾かし続けた。
(これくらいでいいかしら。喉が渇いてきたわ)
魔法を使う事には慣れているのだが、何せのぼせと喉の渇きが酷い。以前から感じていたけど、魔法の副作用なのかもしれないと思う。祖母にも人によって副作用の出方が違うとも教わっていたから、これがそうなんじゃないかと考えているの。
──コンコン
「入っていいわよ」
「失礼します「お嬢様」」
ガチャリとドアが開き、ルビーが入ってきた。タイミングがいい事、そう思いながらも、決して口には出さない。ここで何か言ったら反論されるのが見えているから。
「喉が渇いたでしょう? 飲み物をお持ちしました」
「……ありがとう」
私の目の前にグラスが置かれる。私は待っていましたとばかりにグラスに手を伸ばした。唇をつけようとすると、ルビーの視線を感じた。
「昨日はごめんなさいね」
「いつもの事ですから慣れています」
「あら、そう」
コクンと水を流し込み、喉を潤していく。全身に浸透していく感覚に酔いしれながら、ゆっくりと飲んでいた。
「ダンス会場で何かありましたか?」
唐突に聞いてくるルビーに視線を注がせながら、グラスを置いた。私は何も言うつもりはなかったが、軽くリオンの事を告げる。
するとルビーは驚いたように目を見開いた。今までの私とは明らかに何かが違ったのだろうか。自分ではその変化に気付いていないのだけど、ルビーには一目瞭然だったよう。
「物好きもいるのですね。よかったじゃないですか」
「物好きって何よ」
「リオン様、と言うとクベルト伯爵のご子息ですね。まだ若いのに、なんと言うか……」
困った笑みを浮かべながらそう言うルビーの表情は少し安心しているようだった。