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(レ)凱旋式とかどうでもいいよ

またまたレイヤード視点です。

 間抜けなほど豪華な衣装を着せられ、月桂樹の冠をかぶせられ、でっかい荷台に乗せられた俺たち3人。



 魔王討伐の勇者として、この都市の凱旋式に招かれたのだが、今まさに式の真っただ中だ。



 馬車にひかれた凱旋用の高い荷台。そこから見下ろす景色は壮観だ。群衆で埋め尽くされる城塞都市ガルガンの中央街道。こちらを見る市民はみな一様に笑顔を向けている。



 黄色い歓声と拍手、楽隊の勇ましい音楽が都市中に響いている。



 勇者様! 勇者様! とアチコチから声が飛んでくる。俺たちはそのたびに声に顔を向けて手を振る。



 人もここまで多くなると奇妙に思えてくる。まるで見世物だ。猿にでもなった気分にさせられる。歓迎というのはされる方よりする方が楽しむものなのだろう。



 俺は右手を挙げながら笑顔をつくる。そして隣で間抜け(づら)で手を振っているオドベルに聞く。



「おい、これいったいいつまでやるんだ?」



 オドベルも俺と同じように顔からは想像ができない悪態をつく。



「知らねぇよ。てかこの馬車おそいな。俺が前にいる馬のけつを蹴り上げりゃ、城まで一気にたどり着くってのに」



 オドベルの向こうに立っていた魔法使いミールが口をはさむ。



「何を言っているんだ君たち。見られるって気持ちいいよ。全身に力がみなぎるようさ」



 俺とオドベルは顔を見合わせて、一瞬の変顔で答えた。


 ミールは気にもせず続ける。



「ここに、リリィも居ればな。華がないっていうのはなんとも格好がつかないよ」



 オドベルが答えた。



「何を言っている。ここにおられるだろう、男の華、聖騎士レイヤード様が。見てみろ。女どもはみんなレイヤードを見ている。ミール、お前の事なんて誰も見てやしないから安心しろ」



「ふん。このミール様の美しさというものはわかる者にしかわからぬのさ」



「美というのは万人に認められるからこそ美たりうるのだ。一部のやつにしかわからん美など、ただの趣味趣向というやつだ」



「無粋なことをいうなよ、オドベル。今は祭りなのだ。祭りというワインに酔えば何でも美しく見えるものだよ」



 俺はオドベルとミールのやり取りを笑顔で聞いている。



 しかし、ミールの物言いは相変わらずキザでわざとらしく演技くさい。俺は背筋が寒くなった。



 俺は民衆に手を振りながら、再びオドベルに聞く。



「で、オドベル。リリィは一体どこに行ったんだ?」



「俺が知るわけないだろう、婚約者のお前が知らないのだから」



「リリィの御父上であるハルバルド卿に一体何と伝えればいいのだ」



「知らん」



「お前……自分で追放しておいて無責任にもほどがある」



「どうせ王都にでも帰っているだろう、心配するな」



「こんなところから女ひとりで王都まで? 海を渡るのだぞ」



「あいつは光の魔術を操る最高峰の聖女だぞ。海賊すらぶっ倒して船でも奪える。今頃、女海賊にでもなっているかもしれんぞ」



 俺は海賊の格好をするリリィを想像する。確かに様になっているかもしれない。



 そうだな男装の令嬢というのも興奮するかもしれないな、いや、そういう話ではない。



 俺はオドベルに伝える。



「とにかく、この煩わしい行事を早く終えて、リリィを探しに行かなくては」



 オドベルが鼻先で笑った。



「ぷっ、お前、凱旋式がここだけで終わるとでも思っているのか? これから毎日、我が王都につくまで、全ての街でこのどんちゃん騒ぎが繰り返されるのだ。覚悟しておけ」



「はぁ? めちゃくちゃだ。そんなもの断ってしまえ」



「無理だな。ギルド団のリーダーとして各地の市民の歓迎は無下にはできん」



「お前は、いろいろな土地の女と寝たいだけなのだろう。ま、今朝は、ベッドの中に男もいた気がするが」



「ここで初めて経験したが、男も実は悪くないぞ。むしろ女よりも男のツボをわかっているようだったな」



 オドベルはそういうと周囲から見えないように俺のけつに手を回してきた。



「ぎぃxヵhfkf!!」



 俺は思わず笑顔を忘れて、オドベルの手を振り払い、叫んだ。



「よせ!!」



 オドベルは張り付いた笑顔を全く崩さず、周囲に手を振っている。そしてつぶやく。



「ほれほれ、手を振らないと。可愛いおしりの聖騎士レイヤード様」



「くそっ……こんなこと早く終わらせリリィを探さなくては。この街の次はどこへ行くのだ」



「さぁな。凱旋旅行の日程を調整している、執事のエルモント卿に聞かねば。いまは奴に全て任せている」



「し、執事? このギルド団には執事までいるのか?」



「お前……そんな事も知らんのか? まさか今まで、俺がただなんとなく街を巡り、なんとなく魔物を倒し、なんとなく魔王討伐にこの国に来ているとでもおもっていたのか!?」



 オドベルの作り笑いにすこし影がさす。



「ああ。お前の気まぐれかとおもっていた」



「よく聞きやがれ、レイヤード。このギルド団【聖なる手】は総勢40人いるのだぞ。今はリリィが抜けて39人だが。様々な技術者たちをまとめて討伐作戦を実行するという事がどれほど大変なことか、わからんのか?」



「大変なのか?」



「……」



 今度はオドベルの表情が崩れる。そしてさっきとは違う不敵な笑みを浮かべて話す。



「お前が貴族の女を落としているあいだに俺が毎夜どれだけ討伐計画を話し合っていたか。食事から宿から武器防具の経費調達まで……そうだ、いい機会だ。今から俺たちギルド団にいるすべての職業人を無知なお前に教えてやろう」



「別に知りたくもない」



「いいから聞け……まず、執事のジェバン・エルモント卿、彼は魔法使いミールの兄だ。旅行の調整と財務の担当をしている。つづいて刀鍛冶のグルドス、鍛冶、砥ぎ師としての腕は天下一品。お前の振るう剣がいつも綺麗なのは彼のおかげだ。そして、武器調達商人のベリッシュ協会代表オリル・ベリッシュ、彼は……」



 オドベルは笑顔で手を振りながら、延々とギルド団メンバーの説明を始めた。



 俺はその話を適当に聞きながら、俺たちの行列の先を見る。行列の向かう先に、この凱旋式のゴールである大きな城がある。



 なんだかさっきから一向に城が近づいていない気がする。俺はまだ遠くにそびえるガルガン城を見上げてため息をついた。 



「ガルガン城、お前から俺の方に近づいてきてくれないか」



 俺の言葉をよそに、隣のオドベルは、呪いの言葉をならべるようにギルド団メンバーの説明を続けている。

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