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誰かを虫とか動物にたとえるのって失礼よね

 私とマリアは無事に自分の担当テーブルの来賓を席に座らせた。ひとまず私たちは目くばせをして再び壁際による。見渡すと、全てのテーブルのほぼ全員がきっちりと席についている。


 修道女たちは皆、壁際に待機している。


 そこここで小さな話し声は聞こえるものの、静かなものだ。


 ここで、最後に主役の3人を迎える手はずだ。勇者オドベル、魔法使いミール、聖騎士レイヤード。


 ふと、大食堂内一番奥、一段高い舞台に修道院長のメリーベル女史がのぼった。いつも怒鳴りなれているせいか、大きく、とても野太い声が響く。


「それでは皆様、これから勇者様御一行をおむかえいたしましょう!」


 言い終わると同時に、大食堂のドア向こうから光を背に彼らが現れた。雨のような盛大な拍手の音が大食堂中にあふれかえった。私もとりあえず両手をやけくそに打ちつける。


 久しぶりに見る。勇者オドベル、ん。勇者オド、べる?


 私は目をひんむいた。思わず声が漏れる。


「え? うそ」


 オドベルはでっぷりと肥え太ったお腹を重そうに揺らしながら姿を現した。ゆっくりと膝を引きずって進んでくる。私がギルド団を抜けてまだひと月ほど。その間、一体何を食べて、一体どんな生活をすれば、あんなに肥え太るのか。


 オドベルの顔色は見るからに黄色くどす黒い。病でも(わずら)っているように見える。


 マリアが私の耳元に口を寄せて、ぼそっと言う。


「あれが勇者様……? 怪我したこぶたちゃんみたいね」


「そう……ね」


 私はちらりとマリアをみた。マリアは拍手しながら、不思議そうに眺めている。


 私はショックだった。別にオドベルは美男子というわけでもなかったけれど、それでも”それなり”ではあった気がした。けれど、今見るとまるで別人だ。どことなく心が痛くなった。私がギルド団を抜けた後、何かあったのかもしれない。


 次に魔法使いミールが登場する。改めて拍手が起こる。もともとやせ型のミールは相変わらずだ。そして相変わらずナルシスト全開。大仰に手を回し、頭を下げて回っている。首やら指やらにキンキラの宝石類をまとっている。


 またマリアが私の耳元でつぶやく。


「あれが魔法使い様……うーん。宝石をまきつけた、にわとりって感じね」


「そう……ね?」


 私はマリアの横顔をみる。なんだろう。マリアの中で人を動物に例えるのが流行っているのかしら。


 そして、ついにあいつが現れる。聖騎士レイヤード。


 黄金の髪をくゆらせて、右手を高く掲げて進んでくる。どっと地響きのような拍手が巻き起こった。


 今までの2人はただの前座だ。その拍手の大きさに、なんだか私の心臓がはねた。拍手に続き歓声までもがおこる。


 聖騎士レイヤードは変わっていなかった。やっぱり不思議、体中が輝いて見える気がする。


 私は気になってマリアを見た。今度は何て言うのかと期待しつつ。


 マリアは口をぽかんと開けて、黄色い声援をあげて夢中で手を叩いていた。


「きゃあ! ちょっと! リリィ! レイヤード様よ! やだ! 素敵!」


 今度は動物に例えないんだ、と思い私はどこか冷めた目でマリアを眺めていた。やっぱり誰でもこうなっちゃうのよね。アイツを見ると。


 私はレイヤードに視線を戻す。大きな拍手はいつ鳴りやむのかわからないほど、大食堂中に延々と響いていた。熱狂というのはこういう事なのかもしれない。


 そして彼はいつも熱狂の渦の中心にいるのだ。



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