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プロローグ


 紺のベールが風になびく。


 私は修道服のまま、馬の背に乗り夜の王都をかけていく。我が家を目指して。


 私の家族が住んでいるハルバルド家屋敷は、王都の中央宮殿のすぐ横にある。


 通りにはびこる魔獣たちは、まばらだったはずなのに、宮殿に向かえば向かうほどその数を増してくる。


 あちこちで乱戦が始まっている。


 この魔獣の群れを操っているのが、もしもギルド団【聖なる手】の仲間であったはずの勇者オドベルだったとしたら、私はどうすればいいのか。仲間だった魔法使いミールや、聖騎士レイヤードは今どうしているのか。


 気持ちだけが早まって、まるで考えが追いつかない。


 すこしさき、ついに小高い丘の上にある木に囲まれた王都の中央宮殿が見えた。


 宮殿は燃えていた。地獄のような炎に包まれていた。


 大勢の阿鼻叫喚がかぜにのって私の耳にまで届く。まるで呪いのことばのように恨めしく響いてくる。


 私の周囲にはいくつもの衛兵のなきがらが転がり始める。私は迫りくる魔獣たちをなぎ倒しながらさらに進んだ。


 宮殿横のハルバルド家屋敷にめをむける。


 私の胸がぐっと締め付けられた。





「そんな……そんな……いや、いやよ」





 私の生まれ育ったハルバルド家のレンガ造りの大きな古い屋敷。あちこちの窓という窓から煙と炎が天に向かって伸びていた。


 突如、屋敷に行くまでの道を塞ぐように、二つあたまを持つ闘犬オルトロスの群れが見えた。


 私は手をかざし、怒りを込めて放った。





「邪魔よ!」





聖なる槍(ホーリースピア)





 オルトロスの群れの上に、巨大な光の魔法陣がぼうっと浮かび上がる。


 その魔法陣がカッと光ったかと思うと、魔法陣から雨のような光の槍が大地に向かって無数に突き刺さった。オルトロスの群れは悲鳴を上げる間もなく沈んだ。


 私は馬のたずなを適度に引き絞りながら、オルトロスの死骸を飛び越えていく。


 その先にあるハルバルド家屋敷の門をそのままくぐりぬけて、庭園にたどりつく。






 進むと、燃え盛る屋敷を背に、庭園の中央に人だかりができていた。


 みな頭をたれて、おのおのひざまずいている。よかった、まだ無事な人がたくさんいる。


 でも、その皆の前に、鎧姿の背の高い男の姿がある。禍々しい雰囲気をまとったその男は、手に長い剣をたずさえていた。


 燃える屋敷から放たれる熱気に押されて、ひるんだ馬から飛び降りて、私は大地を駆けた。


 一直線にその場に向かった。




 私が走ってそばによる間。鎧の男はその手に持った大きな剣を上にあげたかと思うと、男の足元でひざまずいている誰かの首を。


 はねた。


 首はゴロリと転がった。


 え? なに? どうして? 誰、あれは誰。


 ようやく近づいたところで、私は叫んだ。






「やめなさい!」





 私の声に反応した男は、こちらにくるりと体を向けた。


 そして笑ってこういった。





「やぁ、”大聖女”リリィ・ハルバルド。ようやく見つけた。俺の大事な婚約者。何だその恰好は? 修道院にでも入ったのか?」





 私はゆっくりと立ち止まる。その男の顔に目が吸い寄せられる。


 レイヤード。


 そこにいるのはもとおなじギルド団【聖なる手】の仲間、聖騎士レイヤードだった。


 そして。


 レイヤードの足元に転がった首は、私の父、ドレイク・ハルバルド侯爵の首だった。


 後ろから迫る屋敷の炎に照らされて、逆光をうけた時のように暗くなった父の顔。


 こちらを向いているのかすらよくわからない。でもわかる。


 あれは私のおとうさん。


 それよりも、目の前の光景はいったいなんなのだろう。


 目の前にいる鎧姿の男は、レイヤードに似た誰かで、その足元に転がっている首は父に似た誰かの首なのかもしれない。


 そもそも、これは幻なのかもしれない。


 私は夢の中にいるのかもしれない。


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