記憶
アレス捜索隊が大急ぎで召集され、森へ急ぐ。
生きていたとしても、怪我をしていて動けなければ魔物の餌食になってしまう可能性は、多分にある。
時間が掛かればそれだけアレスの命に関わるのだ。
森の中でブレン達の足跡だと思われる、新しい足跡と辿り、ゴブラインのものと思われる血痕が、地面を濡らす場所を見つけた捜索隊。
その中の一人が崖下を覗き込み、アレスを発見。
「居たぞ!崖の下で倒れてるぞ!誰かロープを!」
そう叫ぶ。
ロープの片方を木にくくりつけて、崖下に下りるハンター。
「生きてるが意識がない! おい! もう一本ロープを! 急げっ!」
ロープでアレスの体をくくりつけ、
「ゆっくり引き上げろ!」
崖の上に居たハンター達が、その言葉を合図にロープを手繰り上げる。
「よし! 骨折してるかもしれないから、ゆっくり丁寧に急げ!」
力の強いハンターが、アレスを背負って急ぎ森の外を目指した。
そうしてアレスは救出され、骨折していた箇所を教会で治療され、ギルドが借りた宿にてまる二日寝たままになる。
「ううっ」
「アレス君目が覚めたっ?」
女性の声だ。だがその声で呼ばれたであろう名前に、心当たりがない俺は、
「アレス?」
と聞き返すと、
「ここがどこだかわかる?」
と尋ねられたので、
「分からない……アレスって誰?」
と聞いてみると、
「え? アレス君自分の名前も分からないの? え? 私が誰かわかる?」
と顔を近づけて聞いてきた女。
「綺麗なお姉さん?」
と、少しお世辞を交えて答えると、
「ええ? 綺麗だなんてっ……それより、私の名前も覚えてないの?」
「なにがなにやら……」
「もしかして記憶喪失ってやつなのかも……」
そう言って部屋を出ていく女。
後頭部がズキズキ痛むが、それはまだいい。
それより分からないことが多すぎる。俺は誰だ?
いや、なんか少しづつ思い出してきたような気もするが、それが本当の事なのか夢の中の出来事なのかがわからない。
ただ、なにか頭がスッキリした感じがするんだけど、いったい何があった?
俺は何をしてこうなってるんだ?
分からん。あ、崖から落ちた?
とりあえず不用意な事は言わずに、記憶のないフリして情報の整合性の確認をすべきだろうな……
「アレスに記憶が無い?」
ギルマスが聞き返すと、
「はい、自分の名前や私の名前も覚えていないみたいで」
と受付嬢が言う。
「崖から落ちた時に頭を強くぶつけたのかもな。たまにそういう事があると聞くな。記憶喪失と言ったかな」
「どうしましょう?」
「自然に記憶が戻るのを待つしかあるまい」
「心にショックを与えれば記憶が戻ると聞いた事がありますけど?」
「思い出して自我が崩壊するという話も聞くが?それでも良いのか?」
「ダメですね……」
「とりあえずアレスは生きていたし、意識も戻った。今はそれを喜ぼう」
「はい……」
受付嬢は、そう言って悔しそうに床を見つめた。




