ベンゼン支部
「ああ! アレンのやつ、崖から落ちちゃった!」
エイミーがそう言うと、
「チキショウ! 作戦がパーだよ。あの虚弱がっ! とりあえず逃げるぞ! 走れ!」
四人の少年少女達は、ゴブラインを倒す依頼すら諦め、森の外を目指して逃げに転じた。
オークは、切り捨てられたゴブラインを食べ出したため、四人はなんとか逃げることに成功し、拠点としている街である、ベンゼンに帰還するのだった。
「じゃあオークの群れから逃げるために、全員で別の方向に走って逃げて、合流場所にアレス君だけが現れなかったっていう事ですか?」
そう言ったのは、ベンゼンの街にあるハンターギルドの受付嬢。
年齢は二十代半ばだろうか。
茶髪のショートボブに茶色の瞳、150センチちょっとの身長に程よい肉付きの綺麗なお姉さんである。
ただ、そう言った時の表情には、疑いの眼差しが見て取れる。
「ああ! だからさっきから言ってるだろう! こっちはリックも怪我しててティファの魔法だけじゃ応急処置にしかならないから、早く教会に行きたいんだよ!」
怒鳴るように言うブレン。
リックとは盾役をしていた少年の名である。
「あの森にオークの群れとか、にわかには信じ難いんですけどねぇ?」
ギルドの受付嬢がそう返す。
「本当にオークがいたんだよ!」
確かにオークは居た。
「1匹とかならまだ分かるんですけど、群れねぇ?」
腕を組んた受付嬢の意見は正しい。
実際に居たオークは1匹である。
腕を組んだ事により、豊かな胸が押し上げられて、たゆんと胸が揺れた。
一瞬ブレンの視線が受付嬢の胸に奪われる。
その視線は確実にバレている。
それを誤魔化すかのようにブレンは、
「俺たちが嘘を言ってるというのか!」
と息巻くのだが、
「あなた達の間で、一番足の速いアレス君だけ逃げ延びれないとか、ちょっとねぇ」
完全に疑っている受付嬢。
「うるせえ! とにかくそう言う事なんだから、仕方ねえだろうが! もういいだろ! 俺たちはリックの治療に教会に行くから、報告だけはしたぜ!」
とブレンが喚いた時、
「何かあったのか?」
と奥から出てきた男性が、声をかけてきた。
「ギルマス!」
とブレンが言う。
この男性が、ハンターギルドのベンゼン支部長である。
歳の頃は四十路後半だろう。
金髪を短く刈り込み、眉間に皺のあるちょいワルオヤジとでも言うのが、妥当なところだろうか。
「ああマスター、ブレンのパーティーが森でオークの群れに襲われてアレス君だけ帰ってこないと報告に来たんですけど……」
受付嬢の話に、
「あの森で? 1匹じゃなく群れ?」
「群れだって言い張るんです」
「本当に群れだったんだよ!」
「ふーん、まあ分かった。後で誰かに調査に行ってもらうことにする。ブレン帰っていいぞ」
「やった。ギルマスは話が早くて助かるぜ」
ブレンはそう言ってベンゼン支部から出ていく。
「マスターいいんですか?」
「群れと言うのは信じ難いが、冒険者は全て自己責任の仕事だ。もし仲間割れだったとしてもな。ブレン達がアレスを殺したとしても、証拠が無ければ罪に問えん」
「ブレンのやつ、アレス君の救助すら依頼しないとか、絶対何かやったに決まってますよ! それにあのパーティー、アレス君の人柄だけで仕事貰えてたのに……」
受付嬢の言葉は、ブレン達だけでは仕事が無いような言い方である。
ハンターは、ギルドから仕事を斡旋してもらうのだが、斡旋する側のギルドはハンターの能力に合った仕事を斡旋する。
これは実力を伴わないハンターの、無謀な狩りでの無駄死にを減らすためである。
今回ブレン達のパーティーが受けた仕事はゴブラインの討伐。
だが、討伐証明であるゴブラインの鼻を1つも持ち帰っていないため、報酬は支払われていない。
まだ依頼中という扱いだが、期限までに達成しないと違約金が発生する。
あと数日のうちに、ゴブライン五匹を倒さなくてはいけないのだ。
オークなど見つけたらすぐに逃げるべきだったのに、逃げなかったためオークに見つかり、オークを威嚇するためにブレンが中途半端な攻撃をしたため、この結果である。
「それも自己責任だ。アイツらが飢えても我々には助ける義務は無い。助ける気も無いがな。アレスと仲の良かった奴らに声をかけろ。アレスを探しにいくぞ」
ギルドマスターの声に、
「はいっ!」
と、受付嬢が動き出す。