転落
「ティファ⁉︎」
と、アレスがツインテールに向かって声を漏らすと、
「あなたは私の名前呼ばないで! 虚弱が伝染たらどうしてくれるのよ! はやくアレスを生贄にして、逃げましょう! オークやゴブラインがアレスを食べるのに、時間は数十分はかかるはず! それだけあれば、私達だけで逃げきることは可能よ!」
このツインテール、アレスの事が嫌いなのだろう。アレスを殺して餌にして魔物から逃げようと言い出す根性は、完全に腐っている。
ちなみに、この少女が得意なのは治療魔法と呼ばれる、怪我を治す魔法であり、俗に神官と呼ばれる職業だ。服装もどこか宗教っぽい。
手には弓を持っているので、遠距離攻撃も多少はできるのだろうが、混戦状況の中では、弓矢など当てられないのだろう。
ちなみに上級の治療魔法の使い手ならば、骨折などの重傷でも治すことができる。
まあ、この少女にそこまでの力は無いが。
「な⁉︎」
と、驚愕するアレス。
「お! 名案だティファ! エイミー、アレスにファイヤーボールを撃て!」
ブレンが叫ぶ。
ゴブラインに当たっても、大してダメージを与えられないようなファイヤーボールでも、人なら大火傷でヘタすれば死ぬのが、ファイヤーボールだ。
「可哀想だけど、私たちが生き残るための犠牲になって! ファイヤーボール!」
可哀想などと言っているが、そんな事は微塵も思っていないのだろう。エイミーは躊躇する事もなく、アレスに向かってファイヤーボールを放つ。
ちなみに詠唱は覚えるまでは必要だが、覚えてしまえば魔法名だけで魔法は発動する。
アレスは、エイミーのファイヤーボールを避けるために、走り回る。
エイミーのファイヤーボールは、何故かアレスを追尾する。
普通のファイヤーボールではあり得ない事だが、一段上のハイファイヤーボールならば追尾する事も可能だ。
なので、今回発射されたファイヤーボールは、ハイファイヤーボールである。
という事は、エイミーの魔法はそこそこの腕前ではあるようだ。
爆ぜさせないようには出来ないようであるが。
おそらく、熟練度が足りないのだろう。
アレスは隠れる場所を探すが、森の中にあるのは木があるだけだ。
とても隠れられないと思ったアレスは、大きな木の近くで大きくジャンプして、エイミーのファイヤーボールを避けた。
エイミーのファイヤーボールは木に当たって爆ぜる。
その炎を避けるために、アレスはまたジャンプして逃げた。
だが、着地場所が良くなかった。
「うわっ!」
崖の近くだったため、端に生えた草に足を滑らせ、崖から転げ落ちたアレス。