揉める
さて場面を現場に戻そう。
「そうよ! アンタは早くオークを引きつけなさいよ! ファイヤーボールでゴブラインを狙うのに、うろちょろ近くを走り回られたら邪魔なのよ!」
赤く長い頭髪で胸の大きい、いや大き過ぎる17歳ぐらいの少女が、アレスに向かって叫ぶ。
胸元が大きく開かれた服からは、立派な谷間が見え、ホットパンツとでも言うのか、短いパンツルックで生脚を曝け出すという、肌を多めに露出した、およそ魔法使いとは思えない服装の女性。
顔立ちは少しタレ目だが、充分美人といえるだろう。
手には、安物だと一眼で解る杖を持っているから、魔法使いだとかろうじて解る。
発言からして、火の魔法を使う魔法使いなのだろうが、ファイヤーボール程度では、ゴブラインはなかなか死なない。
これが一角兎程度であれば、ファイヤーボールの炎が一角兎の体毛に燃え移り、丸焼きにして倒す事もできるが、ゴブラインに体毛は無いため、ファイヤーボールが肌に当たっても、多少の火傷を負わせるのが関の山である。
ファイヤーボールでゴブラインを倒そうと思うなら、頭部を直撃させなおかつ、通常なら当たった時にファイヤーボールは爆ぜるのだが、それを頭部で爆ぜないように数秒維持するか、魔物が炎を吸い込むようにさせて、窒息死させなければいけない。
魔物の語源は、『魔法が効きにくい生き物』が略されたというのが通説である。
人相手ならば、充分な殺傷能力があるファイヤーボールだが、魔物には効きにくいのだ。
「エイミー! 君までそんな事言うのか! だいたいファイヤーボールでゴブラインが死ぬ訳ないじゃないか!」
アレスがそう叫ぶ。
「何よ、アレスの癖に私に口答えする気なの? ゴブラインすら真っ二つに出来ない、虚弱冒険者の癖に!」
エイミーと呼ばれた乳娘が、アレスを罵る。
「おい! また新たにゴブラインが5匹来たぜ! アレスなんかに構ってる暇ないぞ!」
その場に居た、もう一人の大柄で茶髪の少年が、ゴブラインが振り下ろす棍棒の攻撃を、左手に持つ大きな盾で受け止めながら叫ぶ。
この少年は全身を革鎧で包み、金属の盾を持っていることから、盾役なのだろう。
本来なら、ブレンよりも大きな体で、ゴブラインの攻撃を防ぐことがこの少年の役目であり、攻撃がブレン、陽動がアレスという配置なのだろう。
だが、現在アレスは走り回っていてゴブラインの陽動を出来ていないため、ゴブラインの攻撃を一手に抑えている状況で、余裕は全くない。
「もうアレスに向けてファイヤーボール撃ちなさいよ。アレスが死んで魔物が死体を食べてる間に逃げましょうよ。たとえ死ななくても弱ったアレスにオークやゴブラインが群がるわ! それで足止め出来れば儲けものよ!」
乳娘とは別の、茶色のツインテールの髪型をした、緑の瞳を持つ小柄な少女が、そう提案する。
夕方にもう1本上げます