第7話:ヴァルクリフ攻防戦・中
ゼクゥ・フィアレス 聴こえます? こちら電波ジャック犯ですけど ──???
屈辱ね ──【Second】を名乗る白い女
潰しますか ──金の髪の少女
違う……! あの男はこの程度で油断しなかった ──第6守備隊隊長 ベル・バークライト
あー、疲れた ──【限り無き炎】 ゼクゥ・フィアレス
残念 こちらも完成だ ──王国最強の震術師 スティア・クロイツ・マグナビュート
『東門の守備部隊……突破………されました』
ゼクゥ・フィアレスの無線に絶望的な報告が届いた。街の中には市民が居る。街を囲う強大な城壁は、逆に逃げ道を塞ぐ壁となる。
手遅れ──理解していたが、それでも北門に向かっていたゼクゥは進路を変えようとした。
『ゼクゥ・フィアレス 聴こえます? こちら電波ジャック犯ですけど』
──…聴こえるはずのない、懐かしい声が聴こえて来たのはその時だった。
6年という年月があいだにあるにも関わらずゼクゥは一切の劣化なくその声を記憶していた。
「なんで、お前が……?」
『話はあとです あなたはそのまま北門に向かってください 東は僕が引き受けますから』
──…この会話から約10分後、東門に群がっていた513の魔物と7体の悪魔は全滅する。
◇
『神殺しの槍』の破壊の痕で、スティアはいくつかの術式を練ってはあたりに散らしていた。
スティアはSecondがこの程度で死ぬとは思っていなかった。
彼は自身の術を過信していない。
事実、『神殺しの槍』は完全に反射仕切らなかった。
力の何割かを屈折させて削ぎ落とすことでようやく反射を成功さたのだ。
比重を少しでも間違えばその威力はスティアの身体を容易に粉砕していただろう。
「屈辱ね」
巻き込まれて破壊された家屋の、土煙の中から、その言葉と裏腹な愉悦に満ちた声が上がる。
煙が晴れて行く。
「《機械仕掛けの大天使》はしばらく使えないか」
白い女はボロボロになった銀色の翼を消し去る。実際は女の指輪に納まっているのだがスティアには消えたようにしか見えなかった。
(っ……、あの程度のダメージか)
スティアは内心で舌を巻いた。
人間がまともに受ければ蒸発して塵となってもおかしくはない威力の『神殺しの槍』を、命掛けで跳ね返して壊せたのは替えの利くであろう機械翼だけ。
白い女は服にすら術の痕跡は、ない。
(もう少しは期待したんだがな……)
スティアは雷撃の術式を起動する。
「結局頼れる物は己の力だけということか」
◇
(ちぃっ……)
斬っても斬っても再生するゴーレムを前に、レグナは勝機を見い出せずにいた。
懐に入っての『刃神』を叩き込めば術者まで届くかもしれないが、リスクが高すぎるのだ。
第一、あの巨大な腕を掻い潜り懐まで潜り込むのは至難の技だ。
レグナは一方的に撃たれる攻撃をただかわすことしか出来ない。
しかも人間かそれよりも小さいサイズを相手にすることの多かったレグナは、人間の5倍はある巨大な攻撃に慣れていない。かつてこれよりも大きなドラゴンを相手にしたことはあるが、蛇のような長い体躯をしたそれと目の前のゴーレムは全く別物だった。
必要以上に大きな動きを強制されてレグナのスタミナは大きく削られて行く。
そして足が止まれば強大な鉱物の塊がレグナの身体に叩き込まれることになる。
(そのうち当たるな……こりゃあ)
それでもこうしている意義はある。とレグナは思う。
この化け物の狙いはどうやらレグナのようだ。レグナを無視して市街地に突撃することも出来るのだからそれは間違いないだろう(もしそうすれば『刃神』を叩き込む隙が出来るのだが)
つまり自分がここに居る限り市街地に被害はない。
(とはいえ門から離れすぎたら別口の魔物が来たときにに対応出来なくなる…… なんとかしないとな)
打開策を見い出せないままレグナはただ回避を続ける。
◇
ベル・バークライトは8体目の魔物を斬り伏せた。
「はぁっ……はぁっ……」
とっくの昔に限界など超えていた。同じような状態で戦っている者達が何人も居る。
(この程度で、根をあげて堪るか……!)
ベルは33体の魔物をたった一人で打ち倒して見せた男を思い出す。
(あいつは私を庇いながら戦った……)
彼は別に震術のような特別な力を使わなかった。
ただ恐るべき速さで剣を振るっただけだった。
(どれだけ力を望もうが震術の才能のない私は『大震』にはなれない だけど、あれならば)
あいつの強さはただの剣技だ。
それを消えると錯覚するほどの速度で振るっただけ。
(あれならば私にも届くかもしれない──!)
9体目の魔物を斬る。
不意に異形の魔物の中に、人型の視界に映る。
「邪魔」
ベルの視界に映ったのは、悪魔──
「っっ!?」
そしてそいつの放った、莫大な水流。
死───、
自分との間の壁となっていた魔物共が、粉々に砕け散るほどの、魔術によって統制された水の奔流──
それが、ベルの目の前で2つに裂けた。
「!!?」
何の力が働いたのかわからない、ただ理不尽な防御に悪魔が困惑する。
(これは……スティア・クロイツ・マグナビュート様の、“屈折”!)
ベルは振り返る。
そこには、
「え……?」
スティアとは似ても似つかない金髪の少女が立っていた。
「……さて」
少女はキョロキョロとあたりを見回し、呟く。
「──潰しますか」
少女は悪魔に向かって真っ直ぐに突っ込んだ。
悪魔が魔術を発動し、空中に無数の水の槍が浮かぶ。
発射。
しかし、それらは少女に届かずに地面や空に向かって折れ曲がる。
正体不明の術式を前に悪魔が下がる。
少女は短剣を引き抜いてそれを投げつけた。
「?!」
突き刺さる。その瞬間、走りながら少女はベルのほうを振り向いた。
錯覚かとも思うほど一瞬だった。少女は既に悪魔のほうを向いている。だがベルはたしかに見た。
「──!」
『迫雷』
最も初歩的な雷撃の震術を少女は発動する。
だが低威力のはずのそれは金属製の短剣を伝い悪魔の神経に直接突き刺さる。
「がぁっ?!」
悪魔の動きが硬直する。その瞬間、ベルは飛び出した。
「ハァッ!」
飛び退く少女を追い越し、ベルは悪魔の胸に剣を突き立てる。
ザクッ!!!
悪魔の身体を貫通する。
(倒した……?)
守備隊の長でありながら、最終的に悪魔を倒すのは『大震』に委ねていた自分が──?
(違う……! あの男はこの程度で油断しなかった)
目の前の悪魔はまだ生きていた。
魔術を使おうと唇を動かしていた。
迷うことなくベルは突き刺さったままの剣を真上に振り抜いた。
「 」
断末魔を挙げる喉を引き裂かれて悪魔は声を挙げれずに倒れた。
「──…やるじゃん」
金髪の少女はベルと背中合わせのように立つ。
「きっちり倒せるほど攻撃術は強くないの 手伝って」
少女は懐から数本の短剣を引き抜く。
「協力感謝する」
ベルは限界のはずの身体を奮い立たせる。
「「──潰す」」
◇
ゼクゥ・フィアレスは北門に辿り着いた。
「……、ははっ」
そして小さく笑った。
無数の雷撃の筋が走り、動きの硬直した魔物を守備隊の剣が貫く。
突破される寸前だった北門の形勢は完全に逆転していた。
ゼクゥの震術は応用が効かない。攻撃範囲も、威力も大きすぎるのだ。
あの中に放てば炎は守備隊の人間まで焼き払うだろう。
(こりゃ僕が下手に手を出さないほうがいいね)
力が抜けた瞬間に全身に疲労がのし掛かる。
ゼクゥはそれに抗わずに側の壁に身体を預けた。
「あー、疲れた……」
少し眠ろう……
瞼を閉じようとした彼を妨害するように無線の音が響いた。
「あーもう、なんだよ……」
◇
「『神殺しの槍』をもう一発、撃つわ」
白い女は宣言する。
「……」
「あなたはもうあれを“反射”──いえ “屈折”できるだけの力すら残していない……違う?」
なぜスティアは女の放った小さな術に反射ではなく屈折を使ったのか。
小さい術を反射するよりも不意をついて威力の大きい魔術を反射させたほうが効果が大きいから──たしかにそれも理由の1つだ。
だがそれよりも反射に使う震力が圧倒的に大きいことのほうが主な理由なのだ。
ましては『神殺しの槍』など何度も跳ね返せるはずがない。
「──消し飛び……っ?!」
ベキィッ!!!
と、鈍い音を立てて詠唱が途切れた。
「残念 こちらも完成だ」
女が呪文を唱えきるよりも先に、スティアの拳が女の腹に深く突き刺さったのだ。
「──っ」
女は詠唱を省略して下級の魔術を放つがスティアはもうそこには居ない。
数m離れた位置に楽々と回避している。
「電速術式──、『雷極』」
刹那の間に再び女の懐に飛び込んだスティアが咄嗟にガードした女の右腕ごとプレートブーツで思い切り蹴り飛ばす。
間接が不自然に折れ曲がり女の身体はそのまま吹き飛んで家屋に激突した。
「……ばら蒔いた無数の雷撃の術式で金属の靴との間に磁力の反発力を生んで超加速──ね」
「一目で見抜くとは、流石だな」
スティアは仰向けに倒れる女の前に立ち、左腕を踏みつけた。
反発力が吸着力に変換され、人間の脚力ではあり得ない負荷が女の腕に乗しかかる。
「っ……」
「さて、貴様にはいくつか訊きたいことがある」
王国最強の震術師はゆっくりと唇を動かす。
「お前は、なんだ?」
ほんっとごめんなさい;;;
中と間違えて下の一部を先に書いてしまいましたorz
改めて、ヴァルクリフ攻防戦・中ですm(_ _)m




