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第5話:ひとやすみ?



うぅっ……レグナに捨てられた ──半熟震術師 リース


暴走させるのだよ ──王国最強の震術師 スティア・クロイツ・マグナビュート


……俺で遊びやがったのか ──BLADE


……朴念仁 ──【裁断者】 ナタク・エルステイン


こ、こんなハズじゃなかったのに ──第6守備隊隊長 ベル・バークライト





 【星の隷属者(アストラル)】の異名を持つ震術師、スティア・クロイツ・マグナビュートは杖をついて詰所にある訓練所に来ていた。この場所は床や壁に魔法障壁がかかっており震術では容易に破壊されないようになっているのだ。


 その傍らにはリースがなんだかわからないままついてきている。


「さて、呪文など適当で構わんから全力で何か撃ってみろ」


「え…… でもそれって、暴走しちゃうんじゃ?」


「暴走させるのだよ 術師は先ず自分の属性を認識することから始める


暴走で引き出されるのは術式や思い込みに左右されない根源の震力だから、それを見れば属性がハッキリとわかる」


 スティアはリースには光の適正があるとレグナから聞いていたが、適正があってもリースに光が向いているとは限らないのだ。


「他に質問はあるか? 無ければさっさとやれ」


「……えーっと、じゃあ行きます」


 リースは大きく息を吸い込み、


「&*@§☆щъИθεヰÅ!!!!!!」


 がむしゃらに叫んだ。

 同時に強烈な閃光が室内を包み込む。



 その光が、スティアの前で突然に折れた。スティアが術を使ったのだ。

 折れた光は障壁の展開された壁や床に激突し鎮静される。


「!」


 ぐぎぎぃっ 妙な音を立てて軋み対魔法に特化したはずの障壁が破裂した。


「……なるほど たしかに光の術者だな」


 スティアは笑う。


 王国最強と呼ばれた自身を超えるかも知れない才能を前にして。




   ◇


 レグナ・ゼオングスは暗い病室の中で目を覚ます。


「っ……」


 背中に痺れるような鈍い痛みがあった。どうやら気絶していた最中に治療は済んでいるようだが麻酔なしでやったらしい。

 しかし『そんなこと』よりも……


「あの、バカ……」


 レグナはゼクゥの振る舞いに微量の苛立ちを覚え自らもかつてそうだったことに憂いた……


 レグナの知るゼクゥは天才だ。あいつはあんな極大の術式をあえて起動せずとも対象の悪魔を魔術ごと消し飛ばすことが出来る。

 高温で作り出した対流を操る『地獄の熱風 (ヘル・テンペスト)』など、もっと小規模で事態を納める術式は数多く存在し、空を焼く程の威力を持つ『垣間見る地獄の業火』などというふざけた術を行使できるゼクゥがそれを使えないはずがない。


(……俺で遊びやがったのか)


 焦る無様な『ブレイド』の姿を見て楽しみたかった。


 おそらくゼクゥの行動の理由はその程度だ。そしてたったそれだけの理由で1人の人間の命は、

 ゼクゥを慕っていた守備隊の女の命は奪われかけた。


(……軽いな)


 レグナは思う。

 命は、軽い。


 簡単に潰れる。


 【銃の王】の放った言葉が頭の中で揺れる。


「……」


 レグナは上半身を起こそうとして、


 肩口を押されてベッドに押し倒された。


「っ!!?!?」


 思わぬ不意討ちにレグナはベッドに倒れ込み、包帯と火傷が擦れて悲鳴をあげそうになるが『破壊者』としての意地にかけてそれを飲み下す。


「……絶対安静」


 カーテンを開き月灯りが病室に射し込み、前蹴りを放った人物の姿があらわになる。それは(主に胸部に)身体的な特徴のある女性だった。


「ナタク・エルステイン……? じゃあいま『大震』が三人もこの街にいるのか」


「……肯定」


 無表情でナタクは頷きベッドの上に這い上がる。


「……拘束」


「やめてくれ……」


「……却下」


 レグナの両手を封じるようにナタクは手首を這わせて押さえ込む。

 半ば覆い被さるようになったナタクはそっとレグナに顔を近づける。

 ナタクの口から魔方陣が展開されてレグナの口にそれが吸い込まれた。


「──ったく、相変わらずけったいな術式だな」


 レグナは舌打ちする。


 背中の痛みはもうない。



 『大震』の1人、ナタク・エルステインは無属性震術の達人だ。

 そこには『治癒震術』も含まれるのだが、彼女の術は効果範囲が極端に狭く半ば口移しに等しい範囲まで近づかなければ作用しない。


 ちなみにシークは同種の術を軽々と行ったが、それはおそらく《機械仕掛けの神》によるなんらかのサポートが働いたのだろう。



「……完治?」


 ナタクがベッドから降りる。……やや顔を赤らめているのだが薄暗いためレグナにはわからない。


「ああ わざわざすまなかったな」


「……退室」


 なぜか急に拗ねたような表情 (レグナにはわからないのだが)になりナタクが部屋を出ていこうとする。段差に躓いてこけかけてこちらを凄まじい勢いで振り返るがレグナは視線を逸らしてそれを見なかったことにしておいた。





「……朴念仁」


 ナタク・エルステインは病室を出て呟く。


(うー……あれだけ顔を近づけたのになんで意識されないかな…… もしかして私って魅力ない? せっかく術式使うって名目でゼクゥがチャンス作ってくれたのに、や 別に私のためじゃなくてゼクゥが愉快犯なのはわかってるけど、あーもう自分が口下手なのがヤダ…… 何よあの色気の欠片もないしゃべり方 死ねばいいのに 躓いてコケそうになるし、もう恥ずかしすぎてほんと死にたい……)


「エルー!」


 俯いていたナタクが小さく飛び上がる。向かいから歩いてきたゼクゥが無邪気な笑みを見せる。


「どうだった? キスくらいしたの?」


 ……訂正、邪悪な笑みを見せていた。


「……!!」


 ナタクは顔を真っ赤に染める。


「そういえばレグナさん、今日大通りであったときは女の子連れてたよ あの子 彼女かなぁ」


「……!?」


「そういえば行方不明の【銃の王】とも親しくしてたよね もしかしたらレグナさんって年下が好きなのかな」


「……!!?」


 ちなみにレグナは24歳、ナタクは26歳だ。


「まっ ガンバってね 僕しーらないっと」



 かき乱すだけ乱してゼクゥは鼻歌まじりに去って行った。


「!!?、!!??、!!!?!???」






 ベル・バークライトは果物の入ったカゴを片手に躊躇していた。


「結果的に私は守られた訳でこれはそのお礼に行くのであってけして私的な見舞いではないわけで私はけしてあの男にゴニョゴニョ……」


 ……などとレグナのいる軍の詰所の前でモゴモゴと言っていたら、


「ギニャー!?」


 悲鳴とも嬌声ともつかない、彼女のよく知る上司の声が聴こえてきた。


「ゼクゥ様……?」


「……抹殺っ!」


 次いで聴こえてくるのはベルの(主に胸部的な理由で)憧れる『大震』の紅一点、ナタク・エルステイン様の声だった。しかもなんか物騒なことを言っている……


「あ ベル」


 こちらを見ていつも通りの無邪気な笑みを見せるゼクゥの背後で詰所の一角が、崩れた。


 ナタクがなんらかの『力』を振るったのだ。


「ぜ……ゼクゥ様っ!?」


「ごめん、足止めお願い!」


 ゼクゥはベルの頭をぴょん、と飛び越すと彼女をナタクの方へ突き飛ばした。


「えっ…… えぇっ!?」


 顔を真っ赤にしてブチキレているナタクを前に、ベルは咄嗟に視線を走らせる。


(武器は……、グローブ? どんなに攻撃力が高くても直接攻撃ならなんとかっ)


 ズバッ


「へっ……?」


 突然、触れられてもいないのにベルの服の肩口が裂けた。一見ふつうの服に見えるが実は軍用で鋼線が編み込まれていて軽量ながらもそれなりの防御力は持っているはずなのだが……


「……邪魔っ!」


「ひっ……」


 ベルはひき吊った悲鳴を挙げるとその場にしゃがみこんだ。その頭上を軽々とナタクが跳び越えてゼクゥを追う。

 遠くでゼクゥが悪態をついたのが聴こえた。


「……な…なんだったの……?」


 2人の後ろ姿をポカンとして眺めていたベルは詰所から出てきた男に気づかなかった。


「おい、あんた…… 怪我ないか?」


 後ろから声をかけてきたのは、昼間の例の男だった。ベルの視界が真っ白になって男だけが浮き彫りになり、


「え えっと……そのっっ」


「ん…… 怪我してんのか? 見せてみろ」



 ……パンクした。


「っっ……貴様に心配される筋合いなどないっ!」


 男が唖然とするが、自分の口から出た言葉に一番驚いたのはベル自身なのだ。


「……そうか 悪かったな」


 そんな心中を察してくれずに男は曖昧な笑みで済まして背を向け、詰所の方に戻っていってしまう。一瞬そのあとを追おうとしたのだが縫い付けられたように足が出ない。


(こんなハズじゃなかったのに……)


 ベル・バークライトは果物の入ったカゴを片手に途方に暮れる。






 シークの再登場はいつになるんだろ


 エヴァンスもでてこないなぁ


 ……このまま二人とも出ないまま終わったらどうしようかなぁ

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