第4話:【大震】
#&*@§♪≧──半熟震術師 リース
1人の力で救える人間の数なんてたかがしれてるんだよ──怠け者のリトル
さて、光の術者と言ったな?──大陸最強の震術師 スティア
あんたには指一本触れさせん──BLADE
わ…私は悪魔の奴隷になどならんぞっ!──ベル・バークライト
あれ もしかして死んじゃいました?──【限り無き炎】 ゼクゥ・フィアレス
ばちぃっ!!!
電流がはぜたような音でレグナは目を覚ました。
いまは夜、レグナはテントの中に居る。リースはまだ静かに寝息を立てている。
レグナはテントの中を見渡す。灯りは切ってあるしそんな音を立てるような物は元々テントの中には存在しないはずだ。
と、なると可能性は1つしかない。
(外の……簡易結界が破られたか……!)
ウルスラグナを抜きテントを飛び出した。
そこには全身が赤く光る人型の悪魔が居た。
「いーこと教えてやろうか 剣士くん」
レグナを見て次にその武器に目を移して悪魔は薄く笑う。
「俺の血液は灼熱の温度だ 並の剣なんかを溶かしちまって効かねぇぜ」
躊躇いなく踏み込んでレグナは悪魔を一閃した。
「バカが せっかく忠告してやっ……た の………………に…?」
並の剣ならたしかに灼熱の温度に溶けてしまうだろう。だがそれはあくまで『並の剣』の話だ。
「悪いな、『ウルスラグナ』は普通じゃないんだ」
噴き出す灼熱の血液を回避すべくレグナは後ろへ跳んだ。
「はぁ……」
レグナ・ゼオングスは憂鬱だった。
朝、あたりが明るくなってから簡易結界をきちんと調べてみたら見事にぶっ壊されていた……
「ヴァルクリフに技師が居ることを祈るしかないな」
簡易結界の値段は桁外れに高い……
下手をすればそれだけで家一軒を買えてしまったりする。
一介の旅人であるレグナとリースにそんな金があるはずもなかった……
「まあ、目的地に近かったのが不幸中の幸いか」
《ヴァルクリフ》
世界最大の結界を持つためその街は城塞都市と呼ばれ、その北にある王国の守りの要だ。
当然入国管理などもされているがレグナ達は武器を持ったままそれを容易にすり抜けた。
「【破壊者の証】だ」
レグナが自分の鎖骨のあたりを示し門番がそこにある入れ墨のような物を認めた。ただそれだけで。
「ねぇ ヴァルクリフってすごく審査が厳しいって聞いてたんだけど……」
門番から1つずつ手渡された小さな筒みたいなものを眺めてリースが首を傾げる。
「非常時だからな バスターはライセンスさえ示せばだいたいの場所に出入りが許されてるんだ
ただ発信器を手放すと直ぐに憲兵が飛んでくるぞ 風呂に入るときと寝るとき以外はその筒、手放すなよ」
「わかった」
「さて……久々の街だが、何かしたいことはあるか?」
「お風呂入りたい!」
「……だろうな 今日は休んで、動くのは明日からにするか」
◇
逆ではないだろうか? とリースは頭を抱えてみた。ちなみに彼女は既に湯上がりホカホカである。
【破壊者の証】を見せれば格安で泊まれたのだがそれでもお金の節約に2人で一部屋──というのは既に慣れているからあまり抵抗はない。
ベッドが1つしかない──なんてお決まりのパターンも存在せずにフカフカの柔らかそうなベッドが2つ並んでいる。
彼女の頭を悩ませているのはそんなことではなかった。
レグナが、お風呂に入っているのだ。
これを、覗くべきか、覗かぬべきか……!
そんな葛藤をいざ知らずにレグナは湯にひたり呟く。
「限界、近いな……」
しばらくして、
「………?」
風呂場を出たところでレグナは困惑した。
「……何をやってるんだ リース」
レグナのそれは純粋に脱衣場で踞るリースを案じての物で決して他意はなかった。そこには一欠片の邪気も込もっていなかったのだ。
だが頭上から聴こえた声にリースは思わず顔を上げて、そこにはレグナの顔があり腕があり足があり胴体があり
「#&*@§※♪≧」
リースは悶死したのだった。
翌日。あのあとリースが盛大に鼻血を噴いてぶっ倒れた、とかそんなことはおいといて、ともかく翌日。
「先ずは道具屋を当たろうか 技師が居るなら紹介してくれるだろう」
完全に外敵の心配のない寝床は久々で昼まゆっくりと睡眠を取ってから二人は宿を出た。
レグナにある程度の土地勘があるらしくそう歩き回らずに道具屋は見つかった。
適当に買い物をしたついでと言った口調で訊ねたレグナに道具屋の主人は快く答えてくれた。
「簡易結界の修理かい? それなら『怠け者のリトル』を訪ねるといいよ 仕事は遅いが腕はたしかだ
あー 彼女、仕事が嫌いでいつも居留守を使うから10〜20分は粘る覚悟でノックするようにね」
「わざわざすまない」
軽く頭を下げてレグナは道具屋を出た。しかし違和感を抱いて振り返る。
「リース!」
「はひぃっ!」
店の中で【よく効く媚薬】のコーナーを真剣な目付きで眺めていたリースが小さく飛び上がった。
こんこん
「リトルさん」
こんこん
「リトルさん 居たら返事してくれ」
こんこん
「リトルさん 居るんだろー?」
……5分経過
げしげしっ
「リトルさん 早くでやがれ」
……10分経過
ドンドン
「リトルさん 扉壊していいかー?」
……20分経過
「リース 下がれ」
「え?」
「叩き斬ってやる……!」
ガチャッ
「ちょっと君、人ん家のドアに何しようとして、……………」
扉を開けて出てきたいかにもだるそーな言葉使いとだるそーな目付きをした女とレグナは、お互いに何か理解不能なモノでも見たかのようにその場でフリーズした。
「……ブレイ……バー……?」
呆気に取られた口調でレグナが呟き、
だんっ! カチ
……凄まじい勢いでドアが閉められ鍵がかけられた。
「ちょ……ちょっと待っててっ 化粧してくるからっ!」
あーもう髪型がぁ、あぅっ ゴミ散らかってるし…… なんで来るなら連絡くれないんだよぉっ!
……ドア越しにそんな独り言が聴こえてきたのだった。
「レグナ 彼女……知り合い?」
「ん……まぁ 知り合いというか、なんというか……」
レグナは困り顔で後ろ髪を書く。
「あれが【銃の王】 だ」
……それは行方不明の『四人の王』の、1人に与えられた称号だった。
それから更に20分後──
「お お待たせ……」
17〜8歳にしか見えない少女がおそるおそると言った感じで改めてドアを開く。
伸びすぎな髪はとりあえず…… と言った感じでポニーテールにされていて前髪は前分けにされて頬が隠れている。荒れた肌の上に乱雑に化粧が乗っているがそばかすが隠れ切っていない。
だけどそれでも……美人、いや 160cmに少し届いていないリースよりも背の低い彼女には『かわいい』という表現のほうが正しいだろうか。
「……待たせすぎだろ」
レグナが呆れ切った顔をする。
「ご……ごめん」
「はぁ…… 普通、昔の戦友を1時間近く玄関の前で待たせるか?」
口調と裏腹にレグナは楽しそうに、少なくともリースには見えた。
(む…… ライバル出現?)
そんなリースの様子に気付くはずもなく『怠け者のリトル』は眉に微妙に皺を寄せて、だけどその口元はやっぱり嬉しそうに背の高いレグナを見上げる。
「だからごめんって…… 散らかってるけどとりあえず上がって」
──…リビングに招かれて、二人は先ず困惑した。
床に埃が積もってる上に、なにやら室内が金属臭いのだ。足を前に進める度に何かの繊維や砂のような細かい粒子が舞い上がる……
「お前よくここで生活してるなぁ……」
「住めば都だよ」
呆れ顔のレグナに微妙に用法が違う気がする諺を言い親指をぐっと突き上げて満面の笑みを浮かべるリトル。
そんな二人の様子にリースは内心おもしろくなかった。
(わたしといたら仏頂面なのに……レグナなんか楽しそう)
てゆーか……あれだ。
『銃の王』──つまり6年前の勇者の1人なら少なくともレグナと同い年ぐらいのはずだ。
……すごく若く見えるのは気のせいだろうか? どっからどうみても二十歳を越えているようには見えない。
「しつもーん」
リースは手をあげた。
「ん なに?」
柔らかい微笑を浮かべるリトル。その仕草はやっぱりどこかに幼さがあるような気がする、と年下のクセにリースは思う。
「あんた何歳?」
「……いくつだっけ? 今年で……1……8?」
あぁそうそう18歳ね……じゃあ六年前はって、
「18歳っ?!」
「うん、多分」
なんてことのないようにリトルは頷くがベリアルを倒したときの年齢を逆算すれば、12歳ということになる。
「こいつが大戦に参加してたのが11〜12歳の時でたしか【小さな勇者】って呼ばれてた、よな?」
「不本意だけど」
頷く。
(12歳でもう戦ってたんだ……)
「つーか……悪い 俺、お前のこと男だと思ってたわ」
「ガーン……」
ガックリ項垂れるリトルを横目にリースはレグナの死角で小さくガッツポーズを作る。
「にしても『リトル』ね 本名を名乗るのが嫌いないのは知ってるが……」
「え 偽名なの?」
「……名前訊かれて咄嗟に出ちゃったんだよ」
不服そうに口を尖らせる。
どうやら『リトルブレイバー』の前半部分を口走ったきり“リトル”を払拭出来なくなってしまったらしい。
「いいんじゃないか、『リトル』 似合ってるぞ」
レグナがからかうとリトルは顔を真っ赤にした。
「うう……あんまりだ」
キッ、と目付きを細くしてレグナをにらみつけるがその拗ねた顔付きがまた童女のようで、
「ぷっ……」
レグナが噴き出す。
「……笑ったね?」
リトルが言葉に怒気を孕ませる。
(!)
自身に向けられたモノではない、傍目のリースにもわかるほどの殺気──
刹那、リトルが懐に手をやり、何かを抜き払うように動かした。
レグナは咄嗟に剣を抜いてそれを防ぐように構える。
(ウソッ……)
リースは戦慄した。
弾丸に近い速度のバオウの『水棲の蛇王 (ダイダロス)』を見切り、
人間を遥かに超える身体能力を持つドレイクと互角の肉弾戦を繰り広げた、
『ブレイド』の防御よりも、
目の前の少女の抜き打ちは速かった。もしもそこから銃弾が発射されていたとすれば、レグナは確実に死んでいただろう。
「……腕は鈍ってないか」
少女の手に『何も握られていない』ことを確認してレグナは剣を納める。
「もちろん まあ僕はもう『破壊者』は引退したんだけどね」
「……!」
「この街は安全だし」
「っ……あんた…… 戦える力があるのにどうしてっ!? ここ以外に困ってる人はたくさんいるのにっ」
「1人の力で救える人間の数なんてたかが知れてるんだよ レグナはどうか知らないけど僕はもう戦うのは嫌だ
【銃の王】だからって別にそんな義務もないしね」
「……それがお前の答えか」
「……うん」
「そうか」
レグナは頷いただけだった。
「あー……そうだ 簡易結界の修理ってどれくらいかかる?」
「簡易結界? ちょっと時間かかるよ 3日は欲しいかな? あ、君からお金は取らないから安心して」
「悪い、頼むわ 邪魔したな」
壊れた簡易結界の入った荷物をおろしてレグナは玄関へ踵を返す。リースはリトルを一瞥して、振り返りそのあとを追った。
「……腕は鈍ってない、か」
「レグナさん……?」
大通り。雑踏の中で名前を呼ばれた気がしてレグナは振り返った。
「やっぱりレグナさんだ 僕ですよ、覚えてないですか?」
軍服を着た少年が、その後ろに十数人の兵士を引き連れて片手をあげる。
……背の低いクセに煙草をくわえていて隣の女兵士が
「何度言ったら止めていただけるんですか!?」
と噛み付いて来るのを鮮やかにスルーしている。
「……ゼクゥ、か?」
「貴様っ、無礼な!」
「待って」
いきり立つ女の兵士の前にゼクゥと呼ばれた少年が片手をつき出して制する。
「しかし、ゼクゥ様!」
「ゼクゥ様か 偉くなったもんだな」
「っっ……」
女が懐の剣に手をかけ、
「やめろって言ってるだろ?」
ゾッとするような冷たい目でゼクゥは女を睨んだ。空気が熱を帯び、その影響で対流現象が視界を僅かに歪ませる。
(火炎系の震術! それもすごい使い手だ……)
「す……すいません」
「うん、いいよ」
軍服の少年はあっさりと矛を納める。
「お前、その服……『大震』に入ったのか?」
「うん 去年からね」
「……じゃあ『星の隷属者』もここに居るのか?」
「いますよ いまは多分、詰め所のほうに」
「丁度いいとこであった 会わせろ」
「構わないけど、珍しいね 彼のこと嫌いだったんじゃ……?」
「まあな」
『大震』という王国の一部隊がある。
構成人数はたった4人。しかしその名は『王国最強』と広く知られ、6年前の戦争のときも『四人の王』に匹敵する力を振るった部隊でもあった。
そして四人の頂点に君臨する術者が『星の隷属者 スティア・クロイツ・マグナビュート』だった。
が……
「……酷い有り様だな」
「笑いたいなら笑うがいい」
両手足に包帯を巻きベッドに横たわるがスティアが自嘲するように言う。
「ゼクゥ」
「ん 何? 僕、視察の続きが…… ゴンッ!
「あぐっ……」
「煙草を寄越せ 未成年だろうが、貴様」
「うぅ……職権乱用……」
吸っていた煙草がゼクゥの手の中で燃え上がり、差し出されたスティアの手のひらに煙草の箱を乗せる。
「……まだあるだろう?」
「じゃ、僕はこれで!」
ゼクゥはくるりと180度回転し、全力で逃げ出した。
「……まったくあいつは」
「相変わらず、だな」
レグナが苦笑する。
不意に表情を変えた。
「お前はいままで何をしてた? 『大震』は1人も魔王を倒す動きを見せていないらしいが」
「話したところで貴様のような一介の破壊者にはわからん話だ」
「政治的な干渉か?」
「……くだらん」
「その怪我はなんだ? 『王国最強の震術師』がどうしたってんだ?」
「……Secondを名乗る悪魔と交戦して、負けた」
「お前が?!」
スティアが舌打ちする。
「……で、貴様はなんのようだ? 貴様に限りまさか見舞いではあるまい」
「あー、1ヶ月ほどでいい 俺の連れを預かってくれ」
蚊帳の外に居たリースが凄まじい勢いで顔をあげる。
「……貴様が私を頼るなどどういう風の吹き回しだ?」
「『光』の術者だ」
「ほう……」
「ちょっとレグナ!?」
半泣きでポカポカ叩いてくるリースの頭を片手で抑える。
「……大丈夫だとは思うが『喰われる』なよ」
「……それほどか?」
「『九重の水破王を打ち消した って言えばわかるか?」
「エンドクラスの魔術を? なるほど……たしかに異常だな しかし──『警戒警報LV2を発令 結界に悪魔の接近を確認、繰り返します
警戒警報LV2を発令 結界に悪魔の接近を確認!』
「ちっ……またか 話の腰を折りよって……」
「なんだ?」
「悪魔さ このところ多くてな」
スティアは傍らの無線のスイッチを入れる。
「こちら『星の隸属者』だ 認証コード『765 Ta Abys Le Sinfonia Es 5980』守備隊聴こえるか? ……OK、認証した 『大震』からはゼクゥを出す それから『破壊者』を1人増援に行かせる 間違ってもそいつとは敵対するな
以上だ、それまで持ちこたえろよ」
「アストラル……?」
「そいつは預かってやる、から代わりに私のために働け こちら猫の手も借りたいほど忙しいんだ」
「……わかった」
「待て、ウルスラグナは置いていけ」
「なぜだ?」
「それがお前の手元にあれば我々はお前を止めるすべを持たん それなしでようやく対等だ」
レグナは少し考えたあと、
「わかった じゃあリースに預ける
勝手に変な研究に使ったら……」
魔封剣の一本を抜き払い『アストラル』の首に突き付ける。
「我々は貴様を敵に回せると思うほど傲慢ではないよ
そら、さっさと行くがいい こうしているあいだにも守備隊は傷を負っている」
本格的に泣き出しそうなリースを置き去りにしてレグナは走り出す。
「……さて、光の術者と言ったな?」
◇
「っ……こいつ、強い……!」
ヴァルクリフ守備隊は形勢不利だった。元々、力で悪魔に劣る守備隊は『呪縛の術式』を展開し動きを封じた上で掃討することを定石としていた。
が、おそらく集団の長であろうイグザードと名乗る翼のある悪魔が『呪縛の術式』を強硬突破したのだ。
「退避!」
たった一体の猛威を前に部隊長が叫ぶ。
(いける……!)
イグザードは確信する。この人数ならば『大震』が出てくるまでにカタをつけられる。『大震』はあとでノコノコ出てきたところを数で押せばいい。
「! 新手か……」
そんな打算の中に1人の剣士が疾走してくる。
イグザードは術式を展開、風の大槍を発動しそれを迎え撃つ。が……
ばきんっ
鈍い音を立てて風が、砕けた。
「っ!?」
4本の魔封剣を所持しているレグナには一切の純魔法攻撃が通用しない。
もし回避されても数秒は足を止めれるはずだ、そう踏んでいたイグザードの注意は既に半ば他の人間に向かっておりレグナへの対応は酷く緩慢なものだった。
ざくっ!!!
一閃。
たったそれだけで一部隊を苦戦に追い込んだ悪魔の腕が落ちる。
2撃目──!
イグザードはそれを回避する術を持たなかった。
──…だから、もう片方の腕を盾にした。
「ぐっ……」
鮮血を撒き散らして腕が落ちる、が腕が邪魔になり剣速は鈍る。激痛が身体を跳ね回るが気にしている余裕はなく、イグザードは後方に翔ぶ。
当然人型の構造上、バックステップよりも前進のほうが速い。だがイグザードは魔術の助けを借りて自身の翼に風を浴び加速した。
イグザードは風に乗りそのまま上昇する。
(逃がしたか……)
レグナは咄嗟に魔封剣を投合しようとしたが既にイグザードは遥か上空に逃れていて追撃を諦めた。
2閃。レグナのリーチに入った魔物が唐突に崩れる。
(とりあえず残党のほうを狩るか)
守備隊と連携を取ろうかと周りを見たがどうやら既にこの場を離れているらしい。
「貴…様………?」
声がしたほうを向くと、ゼクゥの後ろにいた女兵士が魔物に囲まれていた。
「待ってろ!」
弾丸のような速度でレグナは疾走する。
魔物の包囲を崩す程度レグナには雑作もなかった。
◇
ベル・バークライトは舌を巻いた。
彼女はヴァルクリフ第6守備隊の部隊長だ。だからこそ部下を退避させ自分は殿として残った。
腕にはそこそこの自信があった。
だが目の前の男はそのなけなしの自信を完膚なきまでに叩き潰した。
先ず最初に甲殻虫の硬い背を無造作に切り裂いた。メキィッ という鈍い音に他の魔物が彼の存在に気付く。彼は先ず手持ちの剣の一本を投合した。ベルの真後ろにいた魔物の顔が潰れる。
魔物が爪や牙を剥き出しにする。
その瞬間、彼の姿がブレた。
消えた──?
そう思ったときには彼は既にベルの隣にいた。
2体の魔物が血を噴き出して倒れる。
「安心しろ」
男はベルを庇うように立ち、言う。
「あんたには指一本触れさせん」
──…惨劇が展開された。
「バカな……」
43体。イグザードと名乗った悪魔が引き連れてきた魔物の数だ。守備隊が倒した魔物の数は僅か10体。しかもそのうち4体はベルが一人で倒したモノだ。
残ったのは33体。それを、この男は一人で倒した──?
「なんだお前はっ 悪魔か!?」
「……悪魔ならあんたを助ける理由はないだろ」
男は呆れたように溜め息を吐く。
息──?
ベルは気付く。男の呼吸がほとんど乱れていないことに。
(こいつは息1つ乱さずにこれだけのことをやって退けたというのか──?)
後退り、武器を抜く。
ベルには最早この男が悪魔にしか見えなくなっていた。
「わ…私は悪魔の奴隷になどならんぞっ!」
「……」
男は無言で剣を納め、それを支えていたベルトを外して手元の剣全てを鞘ごとベルの足元に放り投げた。
「これで信じて貰えるか?」
「っ……」
「俺は流れの『破壊者』だ 『大震』の1人と知り合いでそいつに頼まれて──ってあんたさっきの…… っ!?」
不意に何かに驚いたように男の肩が大きく動いた。
「!!」
再び、男が消えた。
ベルがそう認識した瞬間に男はベルの足元の剣を拾い上げていた。
(殺られる……!)
思わず恐怖に目を閉じる。
しかし、予想に反してベルは自分の身体が浮かびあがるのを感じた。
「逃げるぞっ! 掴まってろ」
怒声に近い声が響く。薄く目を開くと肩に担がれているのがわかった。
それから、
『吼える失墜の翼王!』
無数の真空の矢が周囲一体を撃ち抜いた。
「っ……!!! なんだこれはっ」
「逃げた悪魔だっ 上で魔法の詠唱してやがったんだ……!」
矢を剣で振り払いながらレグナは疾走する。
(クソッ…… 1本じゃ上手く捌けねぇ)
外れた矢で粉塵がまきあがり、更に回避を困難にする。
(どうする? 他の剣を回収して、いや この魔法の属性は風だ…… ウルスラグナじゃないと、他の魔封剣じゃ折られるのがオチか 結界の中までこのまま……? 俺一人ならともかくこいつ担いだままじゃ持たないぞ……!)
このままじゃ、当たる……!
「あっはっは 苦戦してますね、レグナさん」
声のしたほうに視線を向けると、煙草をくわえた軍服の少年が十数m先に立っていた。
その周囲の空気が熱によって発生する対流で、歪む。
「っ!」
「ちゃんと避けてくださいね?」
両手を広げて展開した魔方陣を回転させより大きな空気の渦を巻き込む。
「行きます」
『垣間見る地獄の業火』
この一撃で、空が炎に染まる。
「……あれ もしかして、死んじゃいました?」
『限り無き炎 (バウンドレス・ファイア)』の異名を持つ震術師、ゼクゥ・フィアレスは首を傾げた。レグナの姿が消えたのだ
ってか、なるべく上に放ったつもりではあったのだがどうやら地表まである程度の影響は出ていたらしく、背の高い草などは一瞬にして灰と化していた。あまりの高温で焼かれたため逆に火災にはなっていないようなのが救いか。
「ちょっと強すぎたか…… ちゃんと成仏してくださいね」
ゴンッ!
「ぃ……ッタァっ!?」
鞘を側頭部をおもっきり叩かれて涙目でそちらを向く。
「ゼクゥ……!」
レグナと、ベルが居た。その近くの地面に人間一人が入る程度の穴があいている。
(咄嗟に『矢』のいくつかを一ヶ所にはたき落として地面に穴を…… それで『垣間見る地獄の業火』を逃れたのか)
「覚悟は出来てるよなぁ……? ゼクゥ」
「え いや、ごめん マジ切れされると思わなくて……」
がくっ……
「っ……」
唐突にレグナが膝から崩れ落ちた。
「え…… レグナさん……?」
うつ伏せに倒れる。その背中には、ゼクゥの術により酷い火傷を負っている。
「! なんでっ……」
ゼクゥはレグナの力量を知っている。自分程度の術なら漠然となんとかするだろう、と思っていた。
ゼクゥは隣のベルが無傷なことに気付く。
(まさか庇ったのか……? 冷酷無比な、『ブレイド』と呼ばれたこの人が……)
守備隊の隊長など使い捨ての駒の1つに過ぎない。それを……
「……ベル、彼を医務室のほうに運んでおいて」
「……は、はいっ!」
「もしもーし、【星の隷属者】 聴こえる?」
『──…ゼクゥか どうした?』
「殲滅完了したよ でも僕の術で負傷者が出た、ナタクを回して欲しい」
『……珍しいな お前の術を受けた者が生きているのもそうだが、いつもなら必要な犠牲と割り切るのが貴様だろう?』
「……ゴメン」
『構わんよ 医務室に放り込んでおけ 手配してやる』
小ネタ
765 Ta Abys L Sinfonia Es 5980
スティアが言った認証コード
765 ナムコ
ABYS アビス
SINFONIA シンフォニア
Tales テイルズ
5980 5980円(新品のPS2ゲームのだいたいの値段)
……テイルズ万歳




